ぼくのだいじなヒーラー

第５話 なみだのうみをのりこえて

　しろいイルカの　かんだかい　なきごえが　うみに　ひびいた。

　ゆうくんは　しろいイルカの　せなかに　のった。

　およげない　ゆうくんが　たすかった。

「ありがとう！　たすかったよ。ほんとうに　ありがとう！」　

　しろいイルカは　ニコニコと　また　かんだかいこえを　だした。

　なみだの　うみの　おきまで　どんどんと　すすんだ。

　しろいイルカの　せなかは　ズンズン　すすんで　たのしかった。

　なにも　こわくない。

　ゆうくんは　ピンチになると　かならず　たすけて　くれることを　しった。

「ぼくは　いきてて　さいこう！！」　

　おもわず　りょうてを　ひろげて　よろこんだ。

　しろいイルカの　せなかに　のって　なみだの　うみを　むこうぎしまで　すすんだ。


　やっとこそ　ついたと　おもったら、　めのまえが　まっしろく　なにも　ない　くうかんに　いどうした。

　もくもくと　しろい　くもを　くぐりぬけると　ゆうくんの　へやに　たどりついた。


――――「あれ。ここって　ぼくのへやだ……」　


　よく　みると　いつも　いっしょに　ねてる　ぬいぐるみが　ベッドの　うえに　たくさん　ならべられていた。


「もしかして、さっきまで　いっしょに　いたのって……」

「ゆう、そろそろ　ねるよ。ほら、ベッドに　よこになって」　　


　パジャマすがたの　おかあさんが　へやに はいってきた。
　
　まいにち　ひとりで　ねなさいって　いうのに　きょうは　なんだか　ちがうひとみたい。


「どうしたの？　えほん　よむから。ほら　こっちに　おいで」

「えー、うん。きょうは　こわくないもの　よんでよね」　　


　ようちえんの　ころにも　なんども　よみきかせ　してくれた　おかあさん。

　きょうは　えがおで　ほんだなから　えらんだ　えほんを　ひろげた。


「だいじょうぶ。きょうは　たのしい　おはなしだよ」　


　ふとんを　からだに　かけて、そっと　おかあさんの　よこに　いどうした。
　
　あたたかくて　ほっと　する。ぎゅっと　おかあさんの　ても　にぎった。

　ゆうくんは、ひさしぶりの　えほんの　よみきかせに　ドキドキした。


「『ぼくのだいじなヒーラー』だって、ゆうのおともだちは、きっと、このぬいぐるみたちだから。

　ヒーラーなのかな？」


　えほんを　ひらくまえに　おかあさんは　ぬいぐるみを　となりに　うごかした。


「だって、このぬいぐるみたちは　ぼくの　だいじな　おともだちなの」

　
　　そのことばをいうと　いっしゅんにして　めのまえが　まっしろくなった。　



　　すると、キッチンで　にこにこえがおの　おかあさんが　

　　ほかほかの　おいしそうな　ホットケーキを　おさらに　のせていた。


　　ゆうくんは、めを　きらきら　させて　いすに　すわった。
　　


　　ゆうくんの　ヒーラーは　ぬいぐるみ　じゃなくて、

　　いつも　いっしょの　おかあさん　なのかもしれない。　


【　おわり　】