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#006

つかの間の日常

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 次の日、登校すると全校生徒はすぐさま体育館へと集められた。当然、「星ヶ丘ユウキ」が昨日の放課後、生徒会室で首つり自殺いているところが見つかった、という報告。そして、警察がどうのこうのという話はもちろんなく、やはり「悩みがあればすぐにでも教師に相談するように」という注意喚起だけだった。

 その後、つつがなく平常授業がとり行われ、そして昨日学校から死者が出たのが嘘のように平和な一日が終わった。終わりのホームルームを受けるクラスメートの間では今朝の報告なんてどこ吹く風、来週から始まる期末テストと現実逃避代わりの夏休みの予定の話でもちきりである。

「おい、俺らも今年は海にでもいこーぜ」

 ホームルーム中、椅子に横向きに腰掛けたあほ面が後ろの席でぼんやり外を眺めていた俺にチューイングガムを差し出しつつそんな事を言った。

「いやあ、つったって俺らももう高校二年。華のセブンティーンよ。そろそろ彼女の一人でも作っておかなきゃならんだろうが」

 その理論はいささか突拍子過ぎないか?

「そんな事ないだろ。お前、来年は受験で忙しいだろうから彼女作るひまなんてもう今年しかないぜ?それに、夏休みはイベントごとが多い。海だけじゃなくて、夏祭りに花火大会、泊まり込みでキャンプとかもいい。まあ、男だけでも楽しいっちゃ楽しいだろうが、そらぁ女にはかなわねぇよ」

 それで、あてはあんのかよ。

「そう、そこなんだよ。お前、女友達とかいるか?」

 よりによって俺頼みかよ。わざわざガムを差し出してくるあたりおかしいとは思ったが。

「聞くが、俺にそんな奴がいると思うか?」

 思い当たる節はないわけではないが、もういない。

「だよなぁ……。はあ~あ、これが思春期の悩みか……」

 ため息をつきたいのは俺の方だぜまったく。お前はいつも気楽でいいよな。

「まるでお前が気楽じゃないみたいな言い方をするんだな。どうかしたのか?」

 いーや、何も。お前に話すようなこっちゃねぇな。

「あ~そうかい。ま、俺にできることがあれば何でも言えよな」

 不意に放ったこいつの言葉に、俺はいつの間にか変な顔そしていたらしい。

「……なんだよきょとんとした顔して。俺、何か変なこと言ったか?」

「……いや、別に。……お前がそんなこと言うの珍しいなと思って」

「なんでだよ。別に普通だろ?友達なんだから。……お、来た来た」

 見ると、俺も何度か面識のある他クラスのやつが教室後方の扉の前であほ面を呼んでいた。

「これからあいつらとカラオケ寄ってくんだが、お前もどうだ?」

 いつもなら二つ返事で了承するところだったんだがな。特に今日みたいに気分が暗い時なんてなおさらだ。

「……だが、すまん。今日のところはやめとくわ」

 かなり魅力的な誘いだが、今は他にやるべき事があるんだ。また誘ってくれ。

 俺がそう言うと、あほ面は「りょーかい」と手を振って教室を後にした。一瞬にして俺の周りが静かになって、今さらながら今日くらいは息抜きしても良かったんじゃないかと後悔にも似た感情に苛まれる。

 しかし、今日にでも動き始めなけりゃ明日にはあいつとあそぶことができなくなっちまうかもしれないからな。

 たった一人、この学校に殺人鬼がいる事を知っている俺がやらなくて誰がやる。
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