3 / 44
3 評議会
しおりを挟む
結局、次の日の朝までアレックス王が寝所に訪れることはなかった。
内心ほっとした。お互いに想い合っているわけではないし、この結婚も形だけのもの。
わたしに対する嫌がらせとして、乱暴されることも覚悟はしていたのだけれど。
ひとりで身支度を済ませ、部屋の外へ。
城壁の上から城下を見下ろしているアレックス王の姿を見つけた。
少し悩んだが、近づいてみる。
「おい、それ以上近づくな」
アレックス王はわたしの気配に気づいたのか、振り向いてそう警告する。
なにをそこまで警戒しているのか。昨夜の行動といい、意味不明なことが多すぎる。
それに随分とやつれているようだ。
もともと色白な顔だが、今朝は蒼白といっていいほどの白さだった。
「お顔色が優れぬようですが」
「気にするな。朝はたいがい、こんなものだ」
「人を呼んできましょうか」
「余計なことをするな。このままでいい。おい、近づくなと言ってるだろう」
様子を窺おうとして一歩踏み出したわたしに対し、語気を強めるアレックス王。
いくら形だけの夫婦とはいえ、そこまで邪険にされる覚えはない。
「まるで汚らわしいモノにでも対する言い方ですね。昨夜、寝室に来なかったのもそれが原因ですか。小国出身の王女など抱くにも値しないと」
わたしがそう聞くと、アレックス王は城壁にもたれながらいやらしく笑った。
「なんだ。そうして欲しかったのか? 見た目と違って好きものなんだな、貴様」
「違います!」
怒りに打ち震えながら踵を返す。
なんて人だ。ほんの少しでも心配して損をした気分だった。
わたしは自室へ戻り、鍵を閉めた。
もうここで閉じこもってしまいたい。
しばらくしてノックの音。アレックス王だろうか。
「王妃殿下。今日より専属の侍女としてお仕えする者です。ご挨拶にうかがいました」
扉の向こうから女性の声。専属の侍女……?
アレックス王にそう命じられているのか。それにしてもどこかで聞いたことのある声。
わたしは鍵を開けて中へ侍女を招き入れる。
美しいブロンドのショートカット。
少女は深くお辞儀をして、わたしと目を合わせる。
「あなたは──ジェシカ⁉」
アレックス王に謁見した後に連れ出されたブリジェンドの王女。
無事かどうかも分からなくて心配していた彼女が、侍女の格好をしてわたしの前に。それにその髪は。
「侍女となったからには邪魔だと切られました。命が取られなかっただけでも良かったと思うべきでしょうね」
自嘲するように笑い、自分の髪を触るジェシカ。
「他国の王族を侍女扱いするなんて。許せない。抗議してきます」
わたしが憤慨して部屋から出ようとすると、ジェシカは慌てて止めてきた。
「ちょ、ちょっと。余計なことはしないでください。あのアレックス王を怒らせるようなことになったら今度こそ命がありません。あなたはうまく取り入って王妃になったからいいだろうけど」
「取り入ったわけではありません。あの方が勝手に決められたことです」
「同じことですよ。ともかく、余計なことは言わなくていいです。王妃付きの侍女というだけでも幸運なんですから」
そう言われ、わたしはアレックス王への抗議は諦める。
たしかにあの横暴で気分屋のアレックス王の機嫌を損ねて、ジェシカがこれ以上の不当な扱いを受けることになったら困る。
「わかりました。でも、ジェシカ」
「なんでしょうか。王妃殿下」
「その、かしこまった話し方はやめてください。以前と同じように話してもらえませんか」
「できません。今のわたしは侍女ですので」
プイとすねたように横を向くジェシカ。
わたしはお願い、せめてふたりだけの時だけでもと頼むと、ようやくうなずいてくれた。
「……わかったわよ。ふたりだけの時は普通に話す。ここでの味方はアンタしかいないんだからね」
「それはわたしも同じです。あなたがいてくれるだけでもどれだけ心強いか」
本心からそう思った。ジェシカとも会ってから日が浅いが、同じような境遇でここへ来たのだから。
自分は王妃。ジェシカは侍女としての立場があるが、ふたりで話す機会は少なくないはずだ。
「それにしてもアレックス王の様子がおかしいのですが」
わたしは結婚してからのアレックスの奇妙な行動についてジェシカに聞いてみる。
ジェシカも首を傾げながらうーん、と考え込む。
「たしかにおかしいわね。王様なのに近辺に人を寄せつけないし、自分の事は全部自分でやるって噂だわ。着替えとか食事とか」
「それほど他人を信用してないということかでしょうか?」
「どうかな? たしかにあんな性格じゃ命を狙われてもおかしくないけど」
ここまで話したとき、再びノックの音。
「王妃殿下。陛下がお呼びです。評議会に参加せよとの事です。すぐにお越しください」
兵か召使いのひとりだったのだろう。それだけ告げて去っていった。
「評議会? わたしが?」
国の政務についての報告や話し合い。王妃が参加してはならないというわけではないが、新参者である自分が早速呼ばれるとは思ってもみなかった。
「なんか怪しいわね。気をつけなさいよ、レイラ」
「ええ、何か企んでいるのでしょうが」
ジェシカに言われずとも、あのアレックス王がよからぬ事を考えているのは分かる。
ジェシカと別れ、わたしは評議室のほうへ。
室内にはアレックス王が最奥の席に座り、円状に大臣級の廷臣たちが席に着いていた。
やはりここでもアレックス王は他者とはかなり距離を取っている。
王妃ならば王の隣にでも座ろうと思ったけれど、近くに席はない。
仕方なく適当に空いている席へと腰かけた。
「それでは全員揃いましたので、午前の評議会を開始致します」
大臣がそう告げて、まず様々な報告事項をアレックス王へ伝える。
アレックス王の顔の血色はだいぶ良くなっていた。
今は退屈そうに頬杖つきながら報告を聞いている。
国内の大まかな財政の支出や収入。作物の実り具合や収穫高の予想。
発生した犯罪や大きな裁判の結果など。
「タムワース公はまだ招聘に応じぬか」
報告の途中でアレックス王が機嫌悪そうに質問する。
大臣が慌てながら関係ある書類をあさり、それに答える。
「は、はっ。幾度となく呼び出しておりますが、病と称していっこうに出向く様子がありません」
「決まりだな」
「は……はっ?」
「タムワースに向けて出兵する。余自ら兵を率いてな」
「しかし、それは。タムワース公を追い詰めることになるかと」
「ヤツは挙兵するかな」
「おそらくは」
「ならば大義はこちらにある。存分に叩き潰してやろうではないか」
たしかタムワース公というのはダラムの辺境伯だったはず。
ダラムの先王が亡くなり、アレックス王が即位してから元々良好ではなかった関係性がさらに悪くなったとは聞いていたけれど。
アレックス王の気性からしても性急な決断に思える。
シェトランドとブリジェンドの二国を従属させたとはいえ、まだ対外的な不安要素は残っているはず。それなのに内乱を引き起こすような真似をするなんて。
「来週までには出陣する。皆、それぞれに準備を怠るな」
来週までというのも急だけど、普段から兵の鍛錬や軍備に力を入れているダラム軍には特に問題はないのだろう。
軍部の大臣らは無言でうなずいただけだった。
たがここで慌てて手を上げたのは外交担当の大臣。
「へ、陛下。来週はオークニーから使節団が来る予定になっております。陛下がご不在では、なにかと都合が悪いかと」
オークニーとは西の海を越えた先にある、いくつかの諸島からなる海洋国家だ。
ダラムの急速な軍拡。相当な資金が必要だとは思っていたけれど、オークニーとの交易が関係しているなら納得がいく。
そのオークニーから使節団が来るなら、大臣が言うようにアレックス王が自ら対応しないといけないのでは。
アレックス王は特に気にするようなふうでもなく、椅子にもたれてから言った。
「戦と使節団の対応と、どちらが重要か聞くまでもなかろう。それに今は余の代わりをする者がいる」
ここでわたしと目があった。アレックス王の代わり? まさかわたしがここに呼ばれたのはそれが目的だったのだろうか。
わたしがじっと見つめると、アレックス王はにやりと含みのある笑みを浮かべた。
内心ほっとした。お互いに想い合っているわけではないし、この結婚も形だけのもの。
わたしに対する嫌がらせとして、乱暴されることも覚悟はしていたのだけれど。
ひとりで身支度を済ませ、部屋の外へ。
城壁の上から城下を見下ろしているアレックス王の姿を見つけた。
少し悩んだが、近づいてみる。
「おい、それ以上近づくな」
アレックス王はわたしの気配に気づいたのか、振り向いてそう警告する。
なにをそこまで警戒しているのか。昨夜の行動といい、意味不明なことが多すぎる。
それに随分とやつれているようだ。
もともと色白な顔だが、今朝は蒼白といっていいほどの白さだった。
「お顔色が優れぬようですが」
「気にするな。朝はたいがい、こんなものだ」
「人を呼んできましょうか」
「余計なことをするな。このままでいい。おい、近づくなと言ってるだろう」
様子を窺おうとして一歩踏み出したわたしに対し、語気を強めるアレックス王。
いくら形だけの夫婦とはいえ、そこまで邪険にされる覚えはない。
「まるで汚らわしいモノにでも対する言い方ですね。昨夜、寝室に来なかったのもそれが原因ですか。小国出身の王女など抱くにも値しないと」
わたしがそう聞くと、アレックス王は城壁にもたれながらいやらしく笑った。
「なんだ。そうして欲しかったのか? 見た目と違って好きものなんだな、貴様」
「違います!」
怒りに打ち震えながら踵を返す。
なんて人だ。ほんの少しでも心配して損をした気分だった。
わたしは自室へ戻り、鍵を閉めた。
もうここで閉じこもってしまいたい。
しばらくしてノックの音。アレックス王だろうか。
「王妃殿下。今日より専属の侍女としてお仕えする者です。ご挨拶にうかがいました」
扉の向こうから女性の声。専属の侍女……?
アレックス王にそう命じられているのか。それにしてもどこかで聞いたことのある声。
わたしは鍵を開けて中へ侍女を招き入れる。
美しいブロンドのショートカット。
少女は深くお辞儀をして、わたしと目を合わせる。
「あなたは──ジェシカ⁉」
アレックス王に謁見した後に連れ出されたブリジェンドの王女。
無事かどうかも分からなくて心配していた彼女が、侍女の格好をしてわたしの前に。それにその髪は。
「侍女となったからには邪魔だと切られました。命が取られなかっただけでも良かったと思うべきでしょうね」
自嘲するように笑い、自分の髪を触るジェシカ。
「他国の王族を侍女扱いするなんて。許せない。抗議してきます」
わたしが憤慨して部屋から出ようとすると、ジェシカは慌てて止めてきた。
「ちょ、ちょっと。余計なことはしないでください。あのアレックス王を怒らせるようなことになったら今度こそ命がありません。あなたはうまく取り入って王妃になったからいいだろうけど」
「取り入ったわけではありません。あの方が勝手に決められたことです」
「同じことですよ。ともかく、余計なことは言わなくていいです。王妃付きの侍女というだけでも幸運なんですから」
そう言われ、わたしはアレックス王への抗議は諦める。
たしかにあの横暴で気分屋のアレックス王の機嫌を損ねて、ジェシカがこれ以上の不当な扱いを受けることになったら困る。
「わかりました。でも、ジェシカ」
「なんでしょうか。王妃殿下」
「その、かしこまった話し方はやめてください。以前と同じように話してもらえませんか」
「できません。今のわたしは侍女ですので」
プイとすねたように横を向くジェシカ。
わたしはお願い、せめてふたりだけの時だけでもと頼むと、ようやくうなずいてくれた。
「……わかったわよ。ふたりだけの時は普通に話す。ここでの味方はアンタしかいないんだからね」
「それはわたしも同じです。あなたがいてくれるだけでもどれだけ心強いか」
本心からそう思った。ジェシカとも会ってから日が浅いが、同じような境遇でここへ来たのだから。
自分は王妃。ジェシカは侍女としての立場があるが、ふたりで話す機会は少なくないはずだ。
「それにしてもアレックス王の様子がおかしいのですが」
わたしは結婚してからのアレックスの奇妙な行動についてジェシカに聞いてみる。
ジェシカも首を傾げながらうーん、と考え込む。
「たしかにおかしいわね。王様なのに近辺に人を寄せつけないし、自分の事は全部自分でやるって噂だわ。着替えとか食事とか」
「それほど他人を信用してないということかでしょうか?」
「どうかな? たしかにあんな性格じゃ命を狙われてもおかしくないけど」
ここまで話したとき、再びノックの音。
「王妃殿下。陛下がお呼びです。評議会に参加せよとの事です。すぐにお越しください」
兵か召使いのひとりだったのだろう。それだけ告げて去っていった。
「評議会? わたしが?」
国の政務についての報告や話し合い。王妃が参加してはならないというわけではないが、新参者である自分が早速呼ばれるとは思ってもみなかった。
「なんか怪しいわね。気をつけなさいよ、レイラ」
「ええ、何か企んでいるのでしょうが」
ジェシカに言われずとも、あのアレックス王がよからぬ事を考えているのは分かる。
ジェシカと別れ、わたしは評議室のほうへ。
室内にはアレックス王が最奥の席に座り、円状に大臣級の廷臣たちが席に着いていた。
やはりここでもアレックス王は他者とはかなり距離を取っている。
王妃ならば王の隣にでも座ろうと思ったけれど、近くに席はない。
仕方なく適当に空いている席へと腰かけた。
「それでは全員揃いましたので、午前の評議会を開始致します」
大臣がそう告げて、まず様々な報告事項をアレックス王へ伝える。
アレックス王の顔の血色はだいぶ良くなっていた。
今は退屈そうに頬杖つきながら報告を聞いている。
国内の大まかな財政の支出や収入。作物の実り具合や収穫高の予想。
発生した犯罪や大きな裁判の結果など。
「タムワース公はまだ招聘に応じぬか」
報告の途中でアレックス王が機嫌悪そうに質問する。
大臣が慌てながら関係ある書類をあさり、それに答える。
「は、はっ。幾度となく呼び出しておりますが、病と称していっこうに出向く様子がありません」
「決まりだな」
「は……はっ?」
「タムワースに向けて出兵する。余自ら兵を率いてな」
「しかし、それは。タムワース公を追い詰めることになるかと」
「ヤツは挙兵するかな」
「おそらくは」
「ならば大義はこちらにある。存分に叩き潰してやろうではないか」
たしかタムワース公というのはダラムの辺境伯だったはず。
ダラムの先王が亡くなり、アレックス王が即位してから元々良好ではなかった関係性がさらに悪くなったとは聞いていたけれど。
アレックス王の気性からしても性急な決断に思える。
シェトランドとブリジェンドの二国を従属させたとはいえ、まだ対外的な不安要素は残っているはず。それなのに内乱を引き起こすような真似をするなんて。
「来週までには出陣する。皆、それぞれに準備を怠るな」
来週までというのも急だけど、普段から兵の鍛錬や軍備に力を入れているダラム軍には特に問題はないのだろう。
軍部の大臣らは無言でうなずいただけだった。
たがここで慌てて手を上げたのは外交担当の大臣。
「へ、陛下。来週はオークニーから使節団が来る予定になっております。陛下がご不在では、なにかと都合が悪いかと」
オークニーとは西の海を越えた先にある、いくつかの諸島からなる海洋国家だ。
ダラムの急速な軍拡。相当な資金が必要だとは思っていたけれど、オークニーとの交易が関係しているなら納得がいく。
そのオークニーから使節団が来るなら、大臣が言うようにアレックス王が自ら対応しないといけないのでは。
アレックス王は特に気にするようなふうでもなく、椅子にもたれてから言った。
「戦と使節団の対応と、どちらが重要か聞くまでもなかろう。それに今は余の代わりをする者がいる」
ここでわたしと目があった。アレックス王の代わり? まさかわたしがここに呼ばれたのはそれが目的だったのだろうか。
わたしがじっと見つめると、アレックス王はにやりと含みのある笑みを浮かべた。
10
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』
鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
--
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる