人質王女が王妃に昇格⁉ レイラのすれ違い王妃生活

みくもっち

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23 新たな試練

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 咎人の儀が終わり、三ヶ月が過ぎた。
 その間、アレックス王からの嫌がらせや無理難題は無かった。

 それどころか人前に姿を現す頻度が以前より減っているような気がする。
 評議会の欠席も多い。もちろんわたしと二人きりで会うことなど皆無だった。

「んー、もう諦めたんじゃないかな? レイラがどんな試練もクリアしちゃうから。それに王妃として認めたんじゃないの、さすがに」

 ジェシカに相談してみると、彼女は朗らかにそう答えた。
 そうだったら良いのだけれど……あれほど執着していたアレックス王が諦めるだろうか?

 咎人の儀では何度かわたしを助けるような発言をしていたのも気になる。
 ただの気まぐれか、他になんらかの思惑があるのか。

 こうして平穏に過ごせているのはいい事だけれど、それはあの男の機嫌次第。
 王妃という肩書は形だけのもので、不安定な立場というのは何も変わっていなかった。

「王妃殿下、陛下がお呼びです」

 自室の外から兵の声。
 久しぶりの呼び出しだ。わたしは「わかりました」とだけ答えて身支度をジェシカに手伝ってもらう。



 謁見の間。
 相変わらずアレックス王は十数段もある階の上。玉座に足を組んで座り、傲然とわたしを見下ろしている。

 やはり王妃であるはずのわたしの席は用意されていない。
 階下にひざまずき、わたしはアレックス王の言葉を待った。

「咎人の儀を成し遂げ、貴様の罪は問わぬ事となったが、余自身の疑念は完全に晴れたわけではない」

 開口一番、アレックス王はわたしに向かってそう言ってきた。

 まだ何か因縁をつけるつもりだろうか? だとしたらなぜ三ヶ月も放置をしたのだろう。

「だが……」

 アレックス王の口調が少し柔らかくなる。
 
「正直に言うとあの結果は驚きだった。あのフロストを本当に打ち負かすとはな。どこも怪我は無かったのか」
「……はい。幸運にも」

 本心からそう言っているのか。
 廷臣らが少しざわついた。わたしに対する気遣いの言葉など初めてかもしれない。

「それは何よりだ。そこでだ、今日呼び出したのは他でもない。貴様にやってもらいたいことがある」

 わたしは顔を上げ、アレックス王を見つめる。

 気のせいだろうか。微妙な変化だが少しやつれた感じがする。
 前ほどの威圧感もなく、声にも力がない。

「わたしに出来ることであれば、なんなりと」

 気になりながらもそう答えた。アレックス王はうなずき、わたしの前にポンと何かを放り投げてきた。
 
 布に包まれていたが、硬い音が謁見の間に響く。
 
「受け取れ」

 アレックス王に言われ、それを拾いあげる。
 覆っていた布がずれて中身が明らかとなり、廷臣らがおお、と声をあげた。

 剣。柄や鞘には豪勢な飾りが施されている。
 かなり高価そうな物だが、これをわたしに?

 その真意が分からず黙っていると、アレックス王が苦々しく話しだした。

「貴様は知らんだろうが、ウィンダミア近くの海域で海賊の被害が増大している。何度も兵を差し向けてはいるが……不甲斐ないことに逃げられてばかりいる」

 ウィンダミアといえばダラム北方の港町。
 オークニーとの交易にも使われる重要な地点だ。この時点でわたしはハッとした。

「まさかこの剣は」
「そうだ。余の代わりに海賊討伐へと赴け。史上初の咎人の儀達成者ならそれも容易だろう」

 謁見の間のざわめきが大きくなる。
 たしかに決闘では運良く勝つことはできたが、兵を率いての集団戦は未経験だし、海戦にいたっては見たことすらない。

「ダラムにはわたしなどより優秀な騎士たちが大勢いると思われますが」
「さっきも言った通りだ。すでに幾人かの騎士に兵を与えて向かわせたが、ロクな戦果を上げてこない。もともとダラムが海戦は不得手ということもあるがな」

 たしかに大陸では無敵ともいえるダラム軍だが、それは平地での戦いにおいてだった。

 海を越えて遠征の経験もない。事実、海での戦いは海賊の取り締まりや小さな島国の異民族との小競り合い程度だった。

「今のところ被害は我が国の輸送船や民間の商船に留まっているが、いつオークニーの交易船が襲われるか分からん。海賊の仕業とはいえ、不可侵条約に違反する重要な事案となりうる。その前に手を打て」

「……承知致しました。微力非才の身ではありますが、陛下より預かりしこの剣に誓って必ず成し遂げましょう」

 新たな無理難題。どうせわたしに拒否権などないし、喫緊の課題であることも事実。
 
 失敗すれば今度こそ処罰されるのか。
 だがそのことについてはアレックス王は語らず、わたしも聞かなかった。

「そうだな、兵は……三千出そう。この兵力を以て迅速に処理しろ」
「三千も」

 ただの海賊討伐にこの数は相当多いと感じた。
 それほどこの件に頭を悩ませているのか。
 単にわたしに対する嫌がらせではなく、本当に信頼して兵を預けるのか。

 いや、これこそ罠で、あまりの重責にわたしが泣きつくとでも? もし多くの兵を失いでもすれば容易に責任を問うことが出来る。

 はっきりとアレックス王の意図がつかめない。
 だがもうやるしかない。他にわたしに選択肢はないのだから。

 謁見の間を退出する前に、わたしは無礼を承知でアレックス王に問いかけた。

「陛下、ひとつご質問が」
「なんだ、簡潔に言え」
「不躾ではございますが、どこか体調がお悪いのでは? いつもと様子が違うように見受けられます」
「………………!」

 さっきまでは比較的穏やかだったアレックス王の表情がみるみる変化する。

「いらぬ心配だっ! 人のことを心配する前に己の身を案じたらどうだ⁉ 大役を任せられたと図に乗っているのではないのか、貴様は」

 あまりの剣幕にわたしだけでなく、廷臣や兵士らもビクッとなる。
 そこまで怒ることだろうか? 形だけとはいえ妻が夫の体調を気遣うことがそんなに?

「ふざけるなよ、まだ虜囚に近い身だということを忘れてしまったのか。余から見れば元王族とはいえ、薄汚い端女に過ぎない貴様が」

 怒りにブルブル震え、今にも階から降りてきそうな気配。
 わたしは短く、「失礼致しました、それでは戦の準備がありますゆえ」と逃げるように謁見の間を退出──。
 
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