人質王女が王妃に昇格⁉ レイラのすれ違い王妃生活

みくもっち

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40 橋梁の罠

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 その晩はずっとわたしが付きっきりでアレックス王の看病をした。

 翌日になっても熱は下がらず、咳もひどい。
 本来なら明日にはここを発つ予定だったけれど、お父様に相談してさらに三日滞在することになった。
 アレックス王の病は隠したまま。エヴァンが報告した様子もない。
 お父様には多少体調を崩したとだけ伝えている。

 もちろん一週間でも一ヶ月でも構わないとお父様は言っていたけれど、それはアレックス王が頑として承知しなかった。

 長い滞在は病のことがバレる可能性が高まるのと、王都をこれ以上王不在のまま空けるわけにはいかないからだそうだ。

 わたしとしても体力を回復しきってから出発したほうが良いと何度も言ったが、聞く耳を持たなかった。

 そして出発の日。
 お父様とお母様、王族のみんなと別れの挨拶を交わし、馬車に乗り込む。

 アレックス王は隠れるようにして先に乗っており、キルトにくるまって横になっていた。

 はじめてダラムに赴くときのような悲壮感はないが、とにかくアレックス王の体調が心配だった。

 窓から民衆へ向けて手を振る。
 出迎えてくれた日と同じように大勢の民衆が声をかけ、盛大に送り出してくれる。

 王都から出てしばらくはシェトランドの騎士団が護衛として付いてきてくれた。
 その中にエヴァンの姿が無いことが少し気になった。

 あの夜のことは他の人間に話していない。
 エヴァンのことを気遣ったというよりは、とにかく看病でそれどころではなかった。



 シェトランド騎士団とも別れ、あとはダラムの王都を目指すのみ。
 野営での幕舎ではわたしはアレックス王と二人きりで過ごした。

 わたしが何も言わなくてもジェシカもアレックス王の体調不良には気付いており、他の者が近付かないように配慮してくれている。

「陛下、お気分はいかがですか? 咳がまだ止まらないようですが」
「……いや、前に比べてだいぶ楽になった。必要以上に気を使うな」
「そういうわけにはいきません。これから途中で立ち寄る町では医者に診てもらったほうが」
「必要ない。どうせこの病状を理解できる医者などいないだろう。今までと同じようにな。それに余の病のことが噂として広まったらどうする」

 楽になったとは言っているが顔色は悪い。
 これほど悪い状態が続くのははじめてのことだ。
 エヴァンとの決闘で相当無理をしたせいだろう。
 
 かろうじてひどい発作は起きていないけれど、王都まではまだ遠い。
 これ以上悪化せずになんとか無事に辿り着けるか。

 幕舎の中でアレックス王に寄り添いながら、わたしはそれだけを考えていた。

 荒野地帯も抜け、もうじき都市部に入る頃。
 その手前に深い峡谷があり、橋を渡らねばならなかった。

 昔は防衛上の重要な地点だったのだろう。
 今は使っていない砦と一体化したような大きな石橋だった。 
 古いが造りは頑丈で、巡幸一団がそのまま渡ってもなんの問題も無い。
 
 ただ行きの時と違って橋の前で巡幸一団は足を止める。
 ウィリアムがすぐに外から声をかけてきた。

「陛下、申し訳ありません。橋に異常があるとのことです」

 アレックス王は馬車の中で横になっていたが、それを聞いて起き上がろうとする。
 わたしはそれを止めて代わりに返事をした。

「どうしたのでしょうか? 橋は渡れないのですか?」
「いえ、地元の者がヒビが入っているのを見つけたそうです。大丈夫とは思いますが、念のために人数を分けて渡ったほうがよろしいかと」
「そうですか。ならば編成はあなたにお任せします」
「分かりました。しばらくお待ちください」

 ウィリアムが周りの兵に指示を出しているのが聞こえる。
 やや時間を置いてようやく馬車が動き出した。

 窓を少し開けて外の様子を見てみる。
 わたしたちの馬車が先頭で、周りの兵は五十程度。
 残りはわたしたちが渡り切るまで待機しているようだ。

 橋の半ば程まで来たときだろうか。突然ウィリアムが何かを叫んだ。
 それを合図に馬車が勢いよく走り出す。
 
 アレックス王は座席から転げ落ち、わたしは客車の壁に身体を打ちつけた。

「何事です、これは」

 揺れがひどく、再び窓を開けることもできない。
 だけど尋常ではない事態が起きてるのは確かだ。外からは兵士らの悲鳴が聞こえる。
 わたしはアレックス王を守るように覆いかぶさった。

 一際大きな揺れ。馬車が横転でもしたかと思ったがそうではなかった。
 馬車は止まっている。わたしはアレックス王を客車へ残したまま馬車の外へ出てみる。

「これはっ⁉」

 馬車は橋を渡り切ってはいた。
 けれど、橋桁の前方が崩落している。危うく馬車ごと峡谷の下まで真っ逆さまだったという状況だったようだ。

「突然橋が崩壊をはじめて、慌てて駆けさせましたが……兵の二十人程が間に合いませんでした」

 ウィリアムが悲痛な顔で報告。
 無事に橋を渡ったのはわたしたちと兵が三十。その中にはフロストもいた。

 ジェシカと残りの兵はまだ橋向でこちらに向けて何か声をかけている。
 橋が渡れないので大きく迂回するしか方法がないようだった。

「亡くなった兵士たちのことは残念でした。後日捜索隊を組織して遺体だけでも回収しましょう。しかし、ヒビが入っていたとはいえ橋がいきなり壊れるなんて」

 その時だった。
 砦のほうから突然の喚声。どっ、と見慣れない軍勢がいきなり飛び出してきた。

 わけも分からず乱戦に。敵なのは間違いない。数は百人以上いる。
 
「王妃殿下っ! わたしの側を離れないでください!」

 ウィリアムが叫ぶが、わたしはそれを無視して馬車のほうへ。
 アレックス王があんな状態で襲われたらひとたまりもない。

 十人以上の敵が馬車を囲んでいる。
 わたし一人でどうこう出来るものではないが他の味方が加勢に来れる状況じゃない。

 走りながら石を拾い、投擲。敵の一人に当たり、こちらに注意が向いた。

 殺意に満ちた顔で剣を振りかざし、一斉に襲ってくる。
 一人、二人目の斬撃。これは身をひねるだけでなんなくかわせた。
 三人目から六人目の攻撃。鋭いが恐れる程ではない。これもすべて回避。
 ここで敵が驚きの声を上げ、一旦手を止めて遠巻きに囲む。

「なんだ、この女」
「並の動きではないぞ」
「おい、相手は丸腰だぞ。怯むな」

 わたしの目的は馬車から敵を遠ざけること。
 その間にアレックス王が逃げてくれれば。

 ジェシカと残りの兵は橋向から迂回したとしても数日はかかる。矢が届く距離でもない。

 わたしとここの味方だけでどうにかしなければならなかった。
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