人質王女が王妃に昇格⁉ レイラのすれ違い王妃生活

みくもっち

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41 謎の集団

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「あなたたちは何者ですか。この一団にダラムの王がいると知って襲ってきているのですか」

 わたしの問いに敵はニヤニヤと笑って答えない。

 そうしてる間にもわたしの周りに敵は増えてくる。
 多勢に無勢。それに騎士団の精鋭といえど敵の技量も侮れなかった。

「そいつは王妃のレイラに間違いない。殺すなよ、生かして捕らえろ。利用するにはもってこいだ」

 敵の指揮官だろうか。どこからかそう聞こえてきたが確認する余裕はない。

 敵数人が包囲の輪を縮め、また襲いかかってきた。
 だが捕らえる指示を受けたためか先ほどまでの鋭さは無い。

 殴りかかってきたのをかがんでかわしつつ、砂を掴んで投げつける。
 うっ、と怯んだ一人に体当たり。後ろのもう一人を巻き添えにして転倒させた。

「このアマッ」

 槍の柄で打ち据えてこようとする二人。
 これもバックステップでかわし、拾った石を投げる。
 うまく兜の隙間に命中して二人は顔面を押さえた。

「女相手に何をやっている! 次々とかかれっ」

 指揮官の苛立った声に敵兵がさらに殺到。
 何人もが手を伸ばしてわたしに掴みかかろうとする。

 かわすのも限界。エヴァンに斬られた背中の傷も浅手だけど痛む。
 ここまでか、せめてアレックス王だけは逃げてとわたしが観念した時。

 地を震わすような怒号とともに突っ込んできた巨漢。
 たちまちわたしの周囲にいた敵兵を十人以上なぎ倒した。

「フロスト!」
「王妃殿下、今のうちにお逃げください! この場はなんとか俺がっ」

 フロストは例の戦槌を振り回し、敵を寄せ付けない。だけど至るところに負傷しているのが分かった。

 あちこちでも味方の兵が次々と倒れていくのが見える。
 ウィリアムはなんとか健在だったが、複数の敵に囲まれて危機に陥っている。

「砦に、なんとか砦まで逃げましょう。少なくともそこでは包囲されずに済みます」

 ウィリアムやフロストに呼びかけた。
 ここから敵を振り切るのは不可能。ならば少数の我々が取るべき戦法は屋内に逃げ込むこと。
 砦内に入り、門さえ閉じてしまえば全滅は避けられる。

 問題はそこまで辿り着けるか。
 アレックス王も馬車から移動していない。もしかしたら中で発作が起きているのかもしれない。

「まずは陛下を」

 わたしの言葉にフロストがうなずく。
 獣のように吼えながら突進。敵兵を蹴散らしながら一直線に馬車の近くへと進む。

「こいつがフロストかっ、噂以上のバケモノだな」
「引くな! 数では圧倒的にこちらが上だ!」
「待て、他のヤツらも勢いを盛り返してきたぞ」

 フロストの奮戦に呼応するかの如くウィリアムも生き残った兵士らと共に敵中を突破。

 わたしたちと合流し、馬車を守るように敵の前に立ちはだかる。

 敵の数はまだまだ多い。対してこちらはもう十数名しか残っていない。
 砦に着いたとしてもそこから勝機はあるのか。

 馬車の扉を開け、中を覗く。
 アレックス王は発作は起きていないようだったが顔色は悪く、まともに動けないようだった。

 わたしはアレックス王に肩を貸し、やっとのことで馬車から降ろした。

「陛下、敵に襲われています。今からあそこの砦まで逃げましょう」
「賊か、生意気な奴らよ。ここで余の剣の錆にしてくれよう」
「陛下は戦える状態ではありません。わたしたちが守るのでなんとか砦まで走りましょう」

 この弱った姿のアレックス王をウィリアムたちや敵に見られてしまうが、もうそれどころではない。
 
 敵が一斉に襲いかかってくる。狙いはもちろんアレックス王だ。
 ウィリアムとフロストが先頭に立ち、他の兵とともになんとかそれを防ぐ。

 わたしはアレックス王を連れて砦のほうへ。
 彼らが敵を止めている間になんとか砦まで行かなければ。
 
 敵の勢いは強く、さらに味方の兵が倒れていく。
 いくらウィリアムやフロストが強くても後退せざるを得なかった。

「おいおい、砦に逃げられると厄介だぞ。おい、王妃に当たっても構わん。クロスボウ部隊、前へ」

 敵指揮官の号令にクロスボウを構えた敵がズラッと並ぶ。
 砦まであと少しなのに。もうここまでなのか。

「射てぇっ!」

 一斉にクロスボウから放たれる無数の矢。
 わたしやアレックス王はそれに貫かれると思ったのだが──。

「ぬうううぅっ!」

 それを全身で受け止めたのはフロストだった。
 両手を広げ、仁王立ちでわたしたちの身体を隠している。

「フロストッ!」
「何をしているのですっ! 今のうちに……早く! 長くは保ちませんっ」

 さらに矢で貫かれながらフロストが叫ぶ。
 わたしは泣きながらフロストに背を向け、砦の中に飛び込んだ。

 ウィリアムも付いてきていた。すぐに滑車を回して重い門の扉を閉めた。
 フロストは外に残したままだ。だけど彼はもう──。

「フロスト……ああ、フロストを見殺しにしてしまった。なんてこと……」

 わたしが床に崩れ落ちて泣いていると、アレックス王が声を荒げて叱った。

「おい、いつまで泣いている⁉ フロストは忠義を尽くして余やお前を救ったのだ。これ以上名誉な死はあるまい。お前の涙はその名誉を冒涜するものだぞ」
「でも、そうだとしても」

 わたしが顔を上げられずにいると、ウィリアムが膝をついてこう言ってきた。

「陛下の言う通りです。フロストは常々言っていました。俺の命は王妃殿下に救ってもらったものだと。だからこの命を捧げてでもあなたを守ることが最高の名誉だと」
「…………」
 
 名誉だとか忠義だとかは女のわたしでも理解はできる。
 でも多くの兵士や仲間の死は耐えられない。自分が助かったとしても、そんなものは望んでいない。

 がっ、ぐふっ、とアレックス王が咳き込む。
 いや、これは咳どころではない。口を押さえた手にべっとりと血が垂れていた。

 以前までは微量の血が混じる程度だったが、これは完全に吐血している。
 わたしはすぐにアレックス王を前のめりにさせ、口の中の血を全部吐き出させる。

「王妃殿下、陛下のこの状態はいったい」

 ウィリアムも動揺している。わたしは簡単に彼の病のことを説明した。

「……なんと。そのような事情があったとは。陛下の今までの行動もそれで。いや、今はそのことよりも」

 一度はうろたえたウィリアムだったが、ここは戦場。すぐに冷静さを取り戻したようだ。

「門を閉めたことで一時的には敵を防げました。しかし、侵入不可能というわけではありません。いずれ敵はどこからか入ってくるでしょう」
「ウィリアム、どうすれば」
「橋向の味方がここに到着するのは早くとも三日はかかります。救援には到底間に合いません。そして残る人数も陛下と王妃殿下、そしてわたしの三人のみ」
「陛下の容態も今までにないほどひどい。本当にどうすればいいのか」

 アレックス王を横にさせ、その額や頬を撫でる。
 息づかいが相当荒くなっている。わたしの頭は真っ白になった。

 多くの兵士が死に、フロストも死んだ。
 アレックス王も血を吐くほどの状態。敵に囲まれた砦で孤立無援。
 
 これ以上悪いことなどないように思えた。

「万策尽きた、と言いたいところですが王妃殿下。あなたはこれまで様々な困難を乗り越えてきました。その知恵と勇気で。情けない限りですが、今回もわたしはそれに賭けたいと思います」
 
 ウィリアムの言葉にわたしはハッとする。
 ここでわたしが諦めてしまってはアレックス王もウィリアムも助からない。
 フロストや兵士たちの死も無駄になる。そんなのは絶対に避けなければ。
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