41 / 44
41 謎の集団
しおりを挟む
「あなたたちは何者ですか。この一団にダラムの王がいると知って襲ってきているのですか」
わたしの問いに敵はニヤニヤと笑って答えない。
そうしてる間にもわたしの周りに敵は増えてくる。
多勢に無勢。それに騎士団の精鋭といえど敵の技量も侮れなかった。
「そいつは王妃のレイラに間違いない。殺すなよ、生かして捕らえろ。利用するにはもってこいだ」
敵の指揮官だろうか。どこからかそう聞こえてきたが確認する余裕はない。
敵数人が包囲の輪を縮め、また襲いかかってきた。
だが捕らえる指示を受けたためか先ほどまでの鋭さは無い。
殴りかかってきたのをかがんでかわしつつ、砂を掴んで投げつける。
うっ、と怯んだ一人に体当たり。後ろのもう一人を巻き添えにして転倒させた。
「このアマッ」
槍の柄で打ち据えてこようとする二人。
これもバックステップでかわし、拾った石を投げる。
うまく兜の隙間に命中して二人は顔面を押さえた。
「女相手に何をやっている! 次々とかかれっ」
指揮官の苛立った声に敵兵がさらに殺到。
何人もが手を伸ばしてわたしに掴みかかろうとする。
かわすのも限界。エヴァンに斬られた背中の傷も浅手だけど痛む。
ここまでか、せめてアレックス王だけは逃げてとわたしが観念した時。
地を震わすような怒号とともに突っ込んできた巨漢。
たちまちわたしの周囲にいた敵兵を十人以上なぎ倒した。
「フロスト!」
「王妃殿下、今のうちにお逃げください! この場はなんとか俺がっ」
フロストは例の戦槌を振り回し、敵を寄せ付けない。だけど至るところに負傷しているのが分かった。
あちこちでも味方の兵が次々と倒れていくのが見える。
ウィリアムはなんとか健在だったが、複数の敵に囲まれて危機に陥っている。
「砦に、なんとか砦まで逃げましょう。少なくともそこでは包囲されずに済みます」
ウィリアムやフロストに呼びかけた。
ここから敵を振り切るのは不可能。ならば少数の我々が取るべき戦法は屋内に逃げ込むこと。
砦内に入り、門さえ閉じてしまえば全滅は避けられる。
問題はそこまで辿り着けるか。
アレックス王も馬車から移動していない。もしかしたら中で発作が起きているのかもしれない。
「まずは陛下を」
わたしの言葉にフロストがうなずく。
獣のように吼えながら突進。敵兵を蹴散らしながら一直線に馬車の近くへと進む。
「こいつがフロストかっ、噂以上のバケモノだな」
「引くな! 数では圧倒的にこちらが上だ!」
「待て、他のヤツらも勢いを盛り返してきたぞ」
フロストの奮戦に呼応するかの如くウィリアムも生き残った兵士らと共に敵中を突破。
わたしたちと合流し、馬車を守るように敵の前に立ちはだかる。
敵の数はまだまだ多い。対してこちらはもう十数名しか残っていない。
砦に着いたとしてもそこから勝機はあるのか。
馬車の扉を開け、中を覗く。
アレックス王は発作は起きていないようだったが顔色は悪く、まともに動けないようだった。
わたしはアレックス王に肩を貸し、やっとのことで馬車から降ろした。
「陛下、敵に襲われています。今からあそこの砦まで逃げましょう」
「賊か、生意気な奴らよ。ここで余の剣の錆にしてくれよう」
「陛下は戦える状態ではありません。わたしたちが守るのでなんとか砦まで走りましょう」
この弱った姿のアレックス王をウィリアムたちや敵に見られてしまうが、もうそれどころではない。
敵が一斉に襲いかかってくる。狙いはもちろんアレックス王だ。
ウィリアムとフロストが先頭に立ち、他の兵とともになんとかそれを防ぐ。
わたしはアレックス王を連れて砦のほうへ。
彼らが敵を止めている間になんとか砦まで行かなければ。
敵の勢いは強く、さらに味方の兵が倒れていく。
いくらウィリアムやフロストが強くても後退せざるを得なかった。
「おいおい、砦に逃げられると厄介だぞ。おい、王妃に当たっても構わん。クロスボウ部隊、前へ」
敵指揮官の号令にクロスボウを構えた敵がズラッと並ぶ。
砦まであと少しなのに。もうここまでなのか。
「射てぇっ!」
一斉にクロスボウから放たれる無数の矢。
わたしやアレックス王はそれに貫かれると思ったのだが──。
「ぬうううぅっ!」
それを全身で受け止めたのはフロストだった。
両手を広げ、仁王立ちでわたしたちの身体を隠している。
「フロストッ!」
「何をしているのですっ! 今のうちに……早く! 長くは保ちませんっ」
さらに矢で貫かれながらフロストが叫ぶ。
わたしは泣きながらフロストに背を向け、砦の中に飛び込んだ。
ウィリアムも付いてきていた。すぐに滑車を回して重い門の扉を閉めた。
フロストは外に残したままだ。だけど彼はもう──。
「フロスト……ああ、フロストを見殺しにしてしまった。なんてこと……」
わたしが床に崩れ落ちて泣いていると、アレックス王が声を荒げて叱った。
「おい、いつまで泣いている⁉ フロストは忠義を尽くして余やお前を救ったのだ。これ以上名誉な死はあるまい。お前の涙はその名誉を冒涜するものだぞ」
「でも、そうだとしても」
わたしが顔を上げられずにいると、ウィリアムが膝をついてこう言ってきた。
「陛下の言う通りです。フロストは常々言っていました。俺の命は王妃殿下に救ってもらったものだと。だからこの命を捧げてでもあなたを守ることが最高の名誉だと」
「…………」
名誉だとか忠義だとかは女のわたしでも理解はできる。
でも多くの兵士や仲間の死は耐えられない。自分が助かったとしても、そんなものは望んでいない。
がっ、ぐふっ、とアレックス王が咳き込む。
いや、これは咳どころではない。口を押さえた手にべっとりと血が垂れていた。
以前までは微量の血が混じる程度だったが、これは完全に吐血している。
わたしはすぐにアレックス王を前のめりにさせ、口の中の血を全部吐き出させる。
「王妃殿下、陛下のこの状態はいったい」
ウィリアムも動揺している。わたしは簡単に彼の病のことを説明した。
「……なんと。そのような事情があったとは。陛下の今までの行動もそれで。いや、今はそのことよりも」
一度はうろたえたウィリアムだったが、ここは戦場。すぐに冷静さを取り戻したようだ。
「門を閉めたことで一時的には敵を防げました。しかし、侵入不可能というわけではありません。いずれ敵はどこからか入ってくるでしょう」
「ウィリアム、どうすれば」
「橋向の味方がここに到着するのは早くとも三日はかかります。救援には到底間に合いません。そして残る人数も陛下と王妃殿下、そしてわたしの三人のみ」
「陛下の容態も今までにないほどひどい。本当にどうすればいいのか」
アレックス王を横にさせ、その額や頬を撫でる。
息づかいが相当荒くなっている。わたしの頭は真っ白になった。
多くの兵士が死に、フロストも死んだ。
アレックス王も血を吐くほどの状態。敵に囲まれた砦で孤立無援。
これ以上悪いことなどないように思えた。
「万策尽きた、と言いたいところですが王妃殿下。あなたはこれまで様々な困難を乗り越えてきました。その知恵と勇気で。情けない限りですが、今回もわたしはそれに賭けたいと思います」
ウィリアムの言葉にわたしはハッとする。
ここでわたしが諦めてしまってはアレックス王もウィリアムも助からない。
フロストや兵士たちの死も無駄になる。そんなのは絶対に避けなければ。
わたしの問いに敵はニヤニヤと笑って答えない。
そうしてる間にもわたしの周りに敵は増えてくる。
多勢に無勢。それに騎士団の精鋭といえど敵の技量も侮れなかった。
「そいつは王妃のレイラに間違いない。殺すなよ、生かして捕らえろ。利用するにはもってこいだ」
敵の指揮官だろうか。どこからかそう聞こえてきたが確認する余裕はない。
敵数人が包囲の輪を縮め、また襲いかかってきた。
だが捕らえる指示を受けたためか先ほどまでの鋭さは無い。
殴りかかってきたのをかがんでかわしつつ、砂を掴んで投げつける。
うっ、と怯んだ一人に体当たり。後ろのもう一人を巻き添えにして転倒させた。
「このアマッ」
槍の柄で打ち据えてこようとする二人。
これもバックステップでかわし、拾った石を投げる。
うまく兜の隙間に命中して二人は顔面を押さえた。
「女相手に何をやっている! 次々とかかれっ」
指揮官の苛立った声に敵兵がさらに殺到。
何人もが手を伸ばしてわたしに掴みかかろうとする。
かわすのも限界。エヴァンに斬られた背中の傷も浅手だけど痛む。
ここまでか、せめてアレックス王だけは逃げてとわたしが観念した時。
地を震わすような怒号とともに突っ込んできた巨漢。
たちまちわたしの周囲にいた敵兵を十人以上なぎ倒した。
「フロスト!」
「王妃殿下、今のうちにお逃げください! この場はなんとか俺がっ」
フロストは例の戦槌を振り回し、敵を寄せ付けない。だけど至るところに負傷しているのが分かった。
あちこちでも味方の兵が次々と倒れていくのが見える。
ウィリアムはなんとか健在だったが、複数の敵に囲まれて危機に陥っている。
「砦に、なんとか砦まで逃げましょう。少なくともそこでは包囲されずに済みます」
ウィリアムやフロストに呼びかけた。
ここから敵を振り切るのは不可能。ならば少数の我々が取るべき戦法は屋内に逃げ込むこと。
砦内に入り、門さえ閉じてしまえば全滅は避けられる。
問題はそこまで辿り着けるか。
アレックス王も馬車から移動していない。もしかしたら中で発作が起きているのかもしれない。
「まずは陛下を」
わたしの言葉にフロストがうなずく。
獣のように吼えながら突進。敵兵を蹴散らしながら一直線に馬車の近くへと進む。
「こいつがフロストかっ、噂以上のバケモノだな」
「引くな! 数では圧倒的にこちらが上だ!」
「待て、他のヤツらも勢いを盛り返してきたぞ」
フロストの奮戦に呼応するかの如くウィリアムも生き残った兵士らと共に敵中を突破。
わたしたちと合流し、馬車を守るように敵の前に立ちはだかる。
敵の数はまだまだ多い。対してこちらはもう十数名しか残っていない。
砦に着いたとしてもそこから勝機はあるのか。
馬車の扉を開け、中を覗く。
アレックス王は発作は起きていないようだったが顔色は悪く、まともに動けないようだった。
わたしはアレックス王に肩を貸し、やっとのことで馬車から降ろした。
「陛下、敵に襲われています。今からあそこの砦まで逃げましょう」
「賊か、生意気な奴らよ。ここで余の剣の錆にしてくれよう」
「陛下は戦える状態ではありません。わたしたちが守るのでなんとか砦まで走りましょう」
この弱った姿のアレックス王をウィリアムたちや敵に見られてしまうが、もうそれどころではない。
敵が一斉に襲いかかってくる。狙いはもちろんアレックス王だ。
ウィリアムとフロストが先頭に立ち、他の兵とともになんとかそれを防ぐ。
わたしはアレックス王を連れて砦のほうへ。
彼らが敵を止めている間になんとか砦まで行かなければ。
敵の勢いは強く、さらに味方の兵が倒れていく。
いくらウィリアムやフロストが強くても後退せざるを得なかった。
「おいおい、砦に逃げられると厄介だぞ。おい、王妃に当たっても構わん。クロスボウ部隊、前へ」
敵指揮官の号令にクロスボウを構えた敵がズラッと並ぶ。
砦まであと少しなのに。もうここまでなのか。
「射てぇっ!」
一斉にクロスボウから放たれる無数の矢。
わたしやアレックス王はそれに貫かれると思ったのだが──。
「ぬうううぅっ!」
それを全身で受け止めたのはフロストだった。
両手を広げ、仁王立ちでわたしたちの身体を隠している。
「フロストッ!」
「何をしているのですっ! 今のうちに……早く! 長くは保ちませんっ」
さらに矢で貫かれながらフロストが叫ぶ。
わたしは泣きながらフロストに背を向け、砦の中に飛び込んだ。
ウィリアムも付いてきていた。すぐに滑車を回して重い門の扉を閉めた。
フロストは外に残したままだ。だけど彼はもう──。
「フロスト……ああ、フロストを見殺しにしてしまった。なんてこと……」
わたしが床に崩れ落ちて泣いていると、アレックス王が声を荒げて叱った。
「おい、いつまで泣いている⁉ フロストは忠義を尽くして余やお前を救ったのだ。これ以上名誉な死はあるまい。お前の涙はその名誉を冒涜するものだぞ」
「でも、そうだとしても」
わたしが顔を上げられずにいると、ウィリアムが膝をついてこう言ってきた。
「陛下の言う通りです。フロストは常々言っていました。俺の命は王妃殿下に救ってもらったものだと。だからこの命を捧げてでもあなたを守ることが最高の名誉だと」
「…………」
名誉だとか忠義だとかは女のわたしでも理解はできる。
でも多くの兵士や仲間の死は耐えられない。自分が助かったとしても、そんなものは望んでいない。
がっ、ぐふっ、とアレックス王が咳き込む。
いや、これは咳どころではない。口を押さえた手にべっとりと血が垂れていた。
以前までは微量の血が混じる程度だったが、これは完全に吐血している。
わたしはすぐにアレックス王を前のめりにさせ、口の中の血を全部吐き出させる。
「王妃殿下、陛下のこの状態はいったい」
ウィリアムも動揺している。わたしは簡単に彼の病のことを説明した。
「……なんと。そのような事情があったとは。陛下の今までの行動もそれで。いや、今はそのことよりも」
一度はうろたえたウィリアムだったが、ここは戦場。すぐに冷静さを取り戻したようだ。
「門を閉めたことで一時的には敵を防げました。しかし、侵入不可能というわけではありません。いずれ敵はどこからか入ってくるでしょう」
「ウィリアム、どうすれば」
「橋向の味方がここに到着するのは早くとも三日はかかります。救援には到底間に合いません。そして残る人数も陛下と王妃殿下、そしてわたしの三人のみ」
「陛下の容態も今までにないほどひどい。本当にどうすればいいのか」
アレックス王を横にさせ、その額や頬を撫でる。
息づかいが相当荒くなっている。わたしの頭は真っ白になった。
多くの兵士が死に、フロストも死んだ。
アレックス王も血を吐くほどの状態。敵に囲まれた砦で孤立無援。
これ以上悪いことなどないように思えた。
「万策尽きた、と言いたいところですが王妃殿下。あなたはこれまで様々な困難を乗り越えてきました。その知恵と勇気で。情けない限りですが、今回もわたしはそれに賭けたいと思います」
ウィリアムの言葉にわたしはハッとする。
ここでわたしが諦めてしまってはアレックス王もウィリアムも助からない。
フロストや兵士たちの死も無駄になる。そんなのは絶対に避けなければ。
1
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』
鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
--
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる