二人だけの秘密の時間

tomoe97

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会議が終わった瞬間、
朝陽は椅子から跳ねるように立ち上がった。

「……っ、失礼」

何も言い残さず、颯爽と──いや、どこかぎこちない足取りで扉を抜けていく。
歩くたび、腿を擦り合わせるようにして。
その背中を、依澄は黙って見送った。

(……トイレだな)

確信があった。


依澄以外には到底分からないだろう。注視しなければ、我慢していたなんて思わない程、彼は完璧に平静を装えていた。




生徒会室から少し離れた一番端。トイレに続く薄暗い廊下。
人気のないそこに、朝陽の足音だけが響いていた。

「っ……は、ぁっ……!」

男子トイレの扉を開けると同時に、彼は鍵もかけずに個室へ駆け込んだ。

(ダメだ……間に合わない……)

指が震え、ベルトが外れない。ファスナーがひっかかる。
ようやく下着に手をかけた瞬間──

「……っ、うそ……」

しょろ、と。
温かい液体が太腿を伝い、スラックスに染みが広がっていく。

(あ……あ、あ……)

しゃがみこんだまま、ただただ呆然とする。
ズボンは、太腿から膝にかけてぐっしょり。
パンツも、身体に張りついていて脱ぐのも億劫だった。

(……情けない……)

個室での失敗。誰にも見られていない。
でも、逃げ出したいほどの羞恥が胸を突く。
その時──


「……副会長」

扉の向こうから声をかけられた。

「……っ……誰だ……ッ」
「白崎です。……俺しか、来ていません」

沈黙が落ちた。
朝陽は、唇を噛みしめたまま、何も言えなかった。

(なんで、なんで今、来るんだよ……)

「……濡れてしまったでしょう。……俺のですが……ジャージを持ってきました」

そう言って、扉の上から畳んだジャージが差し入れられる。

「……なんで、知って……」
「……見てました。少しだけ。……我慢してる姿、……綺麗でした」

その一言に、頭の中が真っ白になる。

「──っ……バカ……! 変態っ……!!」

返事はなかった。
だが、ジャージは心なしか暖かかった。
誰よりも冷たい男が、自分のために走ったその温度を、肌が覚えている。
しばらくして、個室の扉が開かれる音がした。
ドアを開けた朝陽と、扉の前に立つ依澄の視線が交差する。

(……目が、優しい……)

こんな状況なのに、嫌悪されていない。
それどころか、どこか慈しむような眼差しだった。

「……副会長、俺は……」

依澄の口が開きかける。
だが白崎は、震える指先でその制服の裾をつかんだ。

「……言わないでくれ。……頼む」

恥じらいを湛えたその声に、依澄は静かにうなずいた。



──その夜。
借りたジャージをぎゅっと握りしめたまま、朝陽は自室で眠れぬ夜を迎えることになる。
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