異能ランクEの絶対皇帝≪Absolute Emperor≫

あんねーむど

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紺碧の臨界

紺碧の臨界3

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 水の匂いと心地よいせせらぎ、茜色に染まった空が穏やかな水面に反射している。
 柔らかな草花を背中にして志津は倒れていた。

「ここは……」

 上半身を起こした彼女が見た光景は、どこにでもある普遍的な夕暮れ時の河川敷だった。

「ここはね、僕が咲のために創り上げた世界だよ……そして、今の彼女の居場所でもある」

 自分と同じように河川敷の斜面に座り込んでいたのは、八重山照だった。彼はどこか悲し気に、大切な物を見守るように対岸を見つめている。

「……咲の居場所?」
「うん。咲はね、この世界から出てこようとしないんだ。まるで現実に帰ってくるのを拒否しているみたいに、この世界に閉じこもっている。いや、今となってはこの世界が彼女の世界なんだ。彼女がこの世界を創り続けている。あそこを観てごらん」

 照は真っすぐ腕を伸ばして対岸を指さした。
 志津は黙って指示された方に顔を向けて、目を細める。そこにいるのは一組の学生らしき制服を着た男女。金髪を揺らしながら歩く少女と、彼女の後ろを騎士のようについて歩く少年の姿だった。

「あれは……咲と……照?」

「彼女はいつも同じ日常を繰り返すんだ。平凡で何の変哲もない日々を、この異能の存在しない世界でね」
「異能の存在しない、世界……」

「少し前まで南の方に両岸を渡す大きな橋があったんだけど、それさえもなくなってしまった。もう僕が向こう側に行くことも、声を掛けることもできない……」

 照は、「もっとも例え橋があったとしても僕は向こう側に行くことができなかった。なぜなら、もう向こう岸には〝僕〟がいるんだからね。彼女の求める〝僕〟がいる」と続けた。

「照……」

 志津は寂しげな照の横顔を見つめる。彼は相変わらず自嘲するような微苦笑を浮かべていた。

「おめでとう。君は僕の異能を打ち破り、咲の心と共鳴し、自らの力で僕らをこの世界に導いたんだよ」
「言ってることがまるで分からん。どういうことや? ウチはお前の異能から抗おうとして、それから……」
「おそらく君は異能者を超えた何かになったんだ」
「何か?」
「超越者といったところかな? 君は咲すらも到達し得なかったところに到達したんだ。これで名実ともに世界一になったんだよ。あれだけ咲に勝つことを望んでいたんだ、素直に喜んだらどうだい?」

 志津はワシャワシャと頭を掻いて立ち上がり、河川敷を下流に歩く照と咲の姿を目で追った。ただ歩く姿が、それだけの光景がとても幸せそうに映った。

「ふん……正直な、全く興味ないわ。ウチはただお前らとジャレ合いたかっただけ……それだけや」

 照は肩をすくめて腕時計を確認した。

「さて、そろそろかな?」
「なんや? ここからラブコメ的なクライマックスが始まるんか?」

 ニヤリとからかうように笑ってみせた志津に照はクスリと笑って返し、「まあ、そんなところだね。最近ね、新しい仲間が増えたんだよ」と言いながら歩く二人の後方を指さした。
 
「あれは……」

 二人の後方から小柄な少女が物凄い勢いで走ってきた。サイドポニーテールが激しく上下する。小柄な少女は勢いそのまま、少年の背中にドロップキックを加えた。衝撃で盛大に倒れる少年、顔面ヘッドスライディングを決めた少年の姿に高笑いを上げる小柄な少女、金髪の少女が振り返って深い溜め息をついた。
 起き上がった少年は抗議の声を上げる。応戦する小柄の少女。罵り合う二人の姿に金髪の少女が額に手を当て首を振る。

「僕もね、こんな世界に憧れていたんだ。叶うのであれば、ずっとここにいたいと思ってしまう……あの三人が羨ましく仕方ないよ」

 やがて三人は肩を並べて歩き出す。無邪気に笑い、とても楽しそうにみえた。
 憧れた世界が、恋い焦がれた日常がここにある。
 志津の瞳から一筋の涙が零れ落ちていった。

「……こんなもの見せられたら、現実に戻りたくなくなるやないか……」

 小さく頷いた照は、「考え直してはくれないか?」と志津に尋ねる。
 涙を拭って鼻をすすった志津は決壊してしまいそうな想いを呑み込み、「……答えは変わらん」と声を震わせながら言った。

「そうか……」と照は力なく俯く。
「現実の……現実世界のうちらはどうなっているんや」
「わからない。けれど、たぶん僕らはあの場所で仲良く意識を失っている状態にあると思う」
「先に起きた方の勝ちってことか……」
「そうだね、シンプルでいいんじゃないかな。もし君が先に起きれば僕を殺す。僕が先に目覚めれば、君を殺す」
「そんやな……異論はない」
「一つだけ約束してくれないか?」
「約束?」
「もし僕が死んだら咲を頼む」

 対岸を見つめる照の横顔に、志津はしっかりと頷いてみせた。

「わかった。約束する」


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