学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと

文字の大きさ
22 / 80
第4章 千夜

22 一人じゃない

しおりを挟む

「ふぅ……終わりましたっ!」

 最後の片付けも無事終了です。

「ありがとう助かったわ」

 椅子に座ってわたしの作業を見届けてくれた千夜ちやさんは、すぐにお礼を言ってくれます。

「いえいえ、残り少なかったので問題なしですっ」

「でも、一人でさせるつもりはなかったから、申し訳なかったわね」

 歯痒そうに表情を歪める千夜さん。

 そういう一面を見ると、やはり完璧主義な一面があるなぁと感じます。

「そんなことよりも千夜さんの体調ですよ。どこも悪くなってないですか?」

「ええ……この通りよ」

 立ち上がってみせる千夜さんでしたが……。

「顔色はあまり良くないように見えるのですが?」

「気のせいよ」

「千夜さんって、本当に我慢強いんですね」

 体調不良の時くらい弱音を吐いてもいいと思うのですが。

「これくらいは我慢の内に入らないわ」

「どうしてそこまで頑張っちゃうんですかね」

「……前に言ったでしょ。私は正常な人間になりたいだけって」

「言ってましたけど」

 千夜さんはぽつりぽつりと言葉を零していきます。

「私の両親はね、母親の浮気が原因で離婚したの」

 それは日和ひよりさんも華凛かりんさんも知らない話でした。

「それでお父さんは精神的ショックを受けて一時期は仕事もままならなくて、すごく痩せてしまったことがあるの」

「そうだったんですね……」

「そんな姿を見て、私は母親を許せなかった。日和や華凛にはこの事は伏せてあるけど、空気を察してくれたあの子たちは全員お父さんに付いて来てくれたの」

 思う所は色々あるでしょうから、わたしが勝手なことを言う事は出来ません。

 ここで聞いて良いのは千夜さん本人の思いでしょう。

「それと、千夜さんが正常な人間になりたいというのは関係があるんですか?」

「あるわ。だって私は夫を裏切るような女の血を受け継いでいるのよ?」

「……それは」

 そういう考え方もあるのかもしれませんけど。

 あまりに悲しいと思います。

「あんな最低な人間の血を引いている、それだけで私は自分自身に嫌悪感を感じるの」

 悲しいまでの自己否定。

 その否定の仕方は姉妹に対してはどのように働くのでしょうか。

「でも、それって日和さんや華凛さんにも当てはまっちゃうんじゃ……」

 お母様の血を引く存在に嫌悪感を抱いてしまうのであれば、それは姉妹でも同じことが言えます。

「だから、私は正常な人間、真っ当な人間でありたいの。そうすることであの女の血なんて関係ないと、そう証明したいの」

 千夜さんの完璧主義であろうとする生き方は、母親の否定から始まっている。

 自身を生んでくれた存在を否定することでしか、自身を肯定できない。

 千夜さんはそんな歪な生き方を選んでしまっている。

「この考えが歪んでいることは分かっているし、あの子たちに関係ないことも分かってる。でも、私自身がそうじゃないと納得できないの」

「だから勉強も生徒会活動も頑張って、長女としてお手本であろうとするんですか……?」

「そうよ、それが私。だからこんな私を、あの子たちに伝えることは出来ないの」

 でもそれは千夜さんは姉妹に気を遣っていることの裏返しだ。

 日和さんと華凛さんのことを思っているから、否定的ことを口にしたくないのだと思う。

 自身には厳しくても、妹さんたちには優しくあろうとしている。
 
 ただ、千夜さんはそのバランスが上手くとれていないだけなんだと思う。

「でも、千夜さん。頑張りすぎて体調崩してしまうのは良くないと思います」

「そうね、体調管理を怠ってしまったのは私のミスね。それは認めましょう」

「あ、いえ……そういうことじゃなくて、もっと肩の力を抜いていいと思うんですが」

 結果は誰の目にも明らかなほど出ているのだから、千夜さんはもう少し楽をしてもいいと思うのだ。

 そうじゃないと、こんなの続かない。

「こうしていないと自分を許せないのよ」

 結果を出すことで肯定感を得る、そのために努力し続ける。

 ストイックな人の生き方だ。

「わたしには真似できません」

「しなくていいのよ」

 でも、それじゃあ千夜さんがいつかパンパンになって破裂してしまう。

 今日の体調不良だってその予兆としか思えません。

「理解されようなんて思ってない。これは私の問題だから」

 そうして背中を向ける千夜さん。

 全くどうして、千夜さんはそんな孤独な戦いを一人で続けるのでしょうか。

 その思いが正しいか間違っているかなんて、わたしにはよく分かりません。

 それはきっと千夜さんの中でしか解決できない問題でしょうから。

 でも、そうですかと無視も出来ない、したくない。

「はいっ、千夜さんっ。わたしはまだ立って歩いていいなんて言ってませんからねっ」

「えっ……」

 その肩を掴んでわたしは再び椅子に座らせます。

 わたしの力で押されちゃうくらいなのだから、千夜さんが本調子でないのはバレバレです。

「貴女、いきなりなにっ……」

「はいっ、大人しくしてくださいっ」

 さらさら、と。

 その艶やかな黒髪がわたしの手の中で流れて行く。

 椅子に座った千夜さんの頭はわたしの胸元。

 その綺麗な頭を撫でていた。

「いい子、いい子」

「……なに、これ」

 呆気にとられた千夜さんは言葉がたどたどしい。

「撫でています」

「それは分かってるのよ。なんのつもりと聞いているの」

 だって千夜さんがあまりに頑張り屋さんなので。

「どうやっても千夜さんは頑張ると言い切ってしまうので、じゃあせめてその努力を褒めてあげないと」

「……そんなの貰わなくても、私は結果を出せれば満足よ」

「違いますよ、千夜さん」

 その在り方が当然になってしまっている千夜さんは忘れてしまっている。

「わたしは“結果”にじゃなくて、“千夜さん”を褒めているんです」

「……そう、そういうこと」

 その人知れず戦い続ける姿勢を変えないのなら、せめてわたしは歩み寄ろう。

 一人ではないと、ただ、そうしているだけですごい事なのだと。

 結果なんて出なくても誰かは認めてくれるのだと。

 わたしはそれを千夜さんに伝えたい。

「でも、貴女に褒められるっていうのはおかしな構図よね」

「ええ……それも分かってます。ポンコツなわたしが褒めるなんて上から目線しちゃいけません」

 でも、仕方ないじゃないですか。

 千夜さんはその孤独をわたしに教えてくれたのだから。

 他の人に頼みたくても、力不足だとしても、わたしにしか出来ない事だから

「私より結果を出してくれたら、貴女の主張を認めてあげてもいいけれど」

「そんなのムリに決まってるじゃないですかぁ……」

「……そうね。でも――」

 千夜さんは言いかけた言葉を止めて、息を吸う。

 躊躇いがちに息を吐き、わたしを見上げて微笑んだ。

「貴女に撫でられるのは、その……こんなにも心地良いものなのね」

 そんなことを上目遣いで言うものだから。

 今度はわたしの手が震える番だった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...