21 / 80
第4章 千夜
21 無理は禁物
しおりを挟む「昨日はご指導ありがとうございました」
朝食後、家を出る前に千夜さんに頭を下げます。
昨夜は色々あったせいで、ちゃんとお礼を言えていませんでした。
「別にいいわよ……」
困ったように眉をひそめる千夜さん。
偉ぶらず謙虚なところが素敵です。
「でも、なにかお礼をさせて下さい。わたしに出来ることなら何でもやりますっ」
寝不足になる原因になってしまったのだから、何かお礼で返さないとっ。
「結構よ」
「そんな……」
「赤点をとらない事が一番のお礼よ、だから気にしないで」
……千夜さん、カッコよすぎません?
◇◇◇
学校にて。
「うーん……」
わたしはどうしたものかと頭を悩ませる。
千夜さんにしつこく迫った所で、その真意を話してくれるとは思えない。
何かきっかけが必要とは思うのですが、それが掴めないまま時間だけが過ぎていく。
千夜さんの動向を探りつつも、かと言って特に何が起きるわけでもなく――
「収穫なし」
放課後を迎えるのでした。
まあ、焦らずとも家に帰れば会えるのだしそんなに急がなくてもいいのかなぁ……。
急がば回れとも言いますし。
「ちょっといいかしら」
「って、千夜さん!?」
まさかの本人様登場。
学校で声を掛けられるのは大変珍しいです。
放課後のまばらな教室でなければさぞかし注目を浴びていた事でしょう。
「いちいち大袈裟ね、貴女……」
「いえ、千夜さんの方から声を掛けてもらえるのが珍しすぎて」
「そんなに嫌ならもう掛けないわ」
千夜さんは回れ右をして離れようとしています。
「いいえっ、そういうことじゃありませんからっ!」
必死に追いすがります。
「一体、どんなご用件だったのでしょう?」
「……貴女、少し時間はある?」
「時間……?ええ、ありますけど」
仮になかったとしても、三姉妹の皆さんのためならいくらでも作ります。
「なら手伝って欲しいことがあるのだけど、いい?」
「あ、はい。なんでしょう?」
「荷物整理、かしらね」
「はい……?」
何だか珍しいお願いですね。
千夜さんと一緒に向かったのは現在は特に使用されていない空き部屋でした。
ですが、中に入ってみると本棚の中に文庫本や書類などが並んでいます。
「元々は文芸部が使用していた部室よ」
「元々……ってことは、今は使ってないんですか?」
「去年の活動を最後に一年生も入らなかったから廃部になっているわ。」
「そういうことでしたか」
今は使われていない空間でも、雑多な本の並びや手書きのA4用紙の束を見ると、そこに人の息遣いが感じられる。
それなのに、必要とされず訪れる人はもういない。
どこか物寂しさを感じさせる空間だった。
「廃部になることは珍しいからあまりない事なのだけど、こうして使われなくなった部室を整理するのも生徒会の仕事なのよ」
「それを今からするんですか?」
「そうよ」
「……ほう」
「肉体労働は気が進まない?」
わたしの返事に気の無さを感じたのか、千夜さんは改めて聞いてきます。
ですが千夜さんからのお願いをそんなことで断るわけない。
ただ、わたしが返事に困窮しているのは、単純な疑問があるからです。
「いえ、喜んでお手伝いはさせて頂くんですけど。ただ生徒会の活動なのに他の役員さんはいないんだなと疑問に思っただけです」
まさか会長だけの仕事なはずもありませんし……。
「今日からテスト週間でしょ」
「ああ……」
そんなこと先生が言ってたような気が……。
「貴女ね……」
まずいまずい。
昨日勉強を教えてもらったのに何だその意識の低さは、というオーラをびしびし感じる。
「テスト週間は部活動も合わせてお休みでしたもんね」
「そういうこと、だから役員の子たちはいないの」
「……でも、それならどうして千夜さんは?」
「期限が決められているわけではないから急ぐ必要はないのだけど。でも頼まれた以上、早く終わらせたくて。私の性分ね」
「……千夜さん」
「なによ」
「ストイックすぎません?」
勉強に生徒会活動に、放課後の時間も個人的に率先してお片付けなんて。
とてもわたしには真似できない。
そんな行動力は出て来ない。
「だから朝に“お礼に何でもやります”って言ってきた、貴女を呼んだの」
「……なるほどお」
それでも頼ってくれるのは嬉しいですねっ。
「貴女はそちらの棚の本をダンボールに詰めてちょうだい」
「分かりました!」
何にしても千夜さんのお手伝いが出来るなら本望です!
それから一時間ほど作業をしたでしょうか。
千夜さんの言う通り、大量の本はダンボールに詰めるのも一苦労。
それを倉庫に運んだりするのも大変でした。
女子二人でやる量じゃないかも、なんて思いつつも作業は順調に進んで行きました。
「そろそろ終わりが見えてきましたね」
「そうね……」
さすがの千夜さんと言えど、長時間の肉体作業には疲れたのでしょう。
その足取りは少しふらついて……ふらついてる?
「え、千夜さん大丈夫ですか?」
なんか明らかにフラフラな気が。
「別にこれくらい何てことな――」
と、わたし相手に余裕を見せるためか、立ち上がったのはいいものの、足がよろけてしまっています。
「え……?」
虚ろな瞳で状況を認識出来ていないのか、やけに緊張感のない声を漏らして体勢を崩しています。
「ああっ、危ない!」
倒れてしまう、そう思ったわたしは持っている本を投げ出して千夜さんに腕を伸ばした。
「あぐっ」
「わっ……このっ」
倒れる千夜さんを抱きとめようとしましたが、体を掴みきれず、結果一緒に体勢を崩してしまう。
わたしが下敷きになる形で、二人で床へと倒れこむとゴツンとした衝撃が背中に響くのでした。
「あいたたた……」
「ご、ごめんなさいっ。貴女、大丈夫?」
ようやく状況を理解したのか慌てふためく千夜さん。
「ちょっとぶつけただけです……。それよりも千夜さんはお怪我はありませんか?」
「わ、私は何ともないけど……」
「立ちくらみか何かですか?」
「分からないわ……意識が曖昧だったというか」
それ、いちばん危ないやつじゃないですか。
「千夜さん、やっぱりちょっと無理しすぎなんじゃないですか?」
忙しい生徒会活動に、徹夜で勉強、そして急に肉体労働。
何かのタイミングで体を壊したとしてもおかしくない。
「いえ、私は大丈夫よ」
「この状況でよくそれ言えますね……」
さすがに倒れ込んで大丈夫はないでしょう。
わたしでも分かるような矛盾を口にしている時点で、今の千夜さんは怪しい。
「一過性のものよ。それより早く続きを……」
「ああっ、ちょっとダメですよ!」
千夜さんは何事も無かったかのように立ち上がろうとするので、勝手に動かないように止めに入ります。
「それなら、保健室行きますよ」
「何言って……」
「おかしなことを言ってるのは千夜さんの方です。倒れて大丈夫なわけないじゃないですか」
「だから、それは……」
「体調管理ができない人は怠惰なんじゃないですか?」
「……」
言っていることは正しいと思ってくれたのか、千夜さんは黙ってしまいます。
「ほら、行きますよ」
わたしは千夜さんの手を取りますが、そこから動こうとしてくれません。
「でもやっぱり、保健室は大袈裟」
「……はあ」
千夜さんも強情ですねぇ。
「わかりました……じゃあ」
わたしは近くにある椅子を持ってきて千夜さんを座らせます。
「どういうこと」
「座って休んでいてください」
千夜さんはきょとんとして目を丸くする。
「それじゃ、仕事が……」
「後のことはわたしがやります。あ、それでも続けるって言うなら先生呼びますからね」
「……」
「座って休んで何事もなければわたしも何も言いません。それが条件です」
「……いいのかしら」
困ったように視線を泳がせる千夜さん。
「いいんです、頼ってください」
「……お願いするわ」
申し訳なさそうに頭を下げる千夜さん。
「任せてください」
ですが、そんな表情をする必要はありません。
わたしは喜んで片付け作業を再開するのでした。
6
あなたにおすすめの小説
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」
高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。
そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。
見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。
意外な共通点から意気投合する二人。
だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは――
> 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」
一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。
……翌日、学校で再会するまでは。
実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!?
オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる