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ところがミッチェルは一向に戻ってくる気配がない。しばらく我慢して愛想笑いを浮かべながら会話をしていると、エイダン様が急にチラチラと入り口付近に何度も目をやり始めた。
「?……どうかなさいました?どなたか、お知り合いがいらっしゃいますの?」
「……いや……、実はね、ミッチェルが戻らないうちに、君に話しておきたいことがあってね……ふふ」
「……?」
え…?一体何……?
ミッチェルに聞かれて困る話なんか、この人との間には何もないはずだけれど……。
私が困惑していると、彼は突然声を潜めて信じられないことを言い出した。
「実はね、アミカ嬢。俺は以前からずっと君のことを好きだったんだよ」
「……。…………。…………は……?」
言っている意味が理解できず、私は思わず変な声を上げてしまった。急に何を言い出すのか。
「君は少しも気付いていなかったと思うけどね、3年ほど前に一時帰国した時、初めてミッチェルから君を紹介された。あの時に、この人こそ俺の運命の人だと思ったんだ」
「……………………え……?」
「こうして再会してみて、やはり俺は君じゃなきゃダメだと強く感じているよ。……ねぇ、アミカ嬢、……君は俺に、何か特別なものを感じないかい?」
「…っ!」
小声でそう言うと、エイダン様は私に顔を近付いてニヤリと笑った。
(きっ……気持ち悪い……っ!何なのこの人……っ!)
はっきりとした理由は分からないけれど、私はこの人が言っていることが嘘であると直感で思った。全身にぶわっと鳥肌が立つ。私は慌ててサッと後ろに一歩下がって、引き攣る頬で無理矢理笑い飛ばした。
「ま……まぁっ、エイダン様ったら。突然変な冗談を仰いますのね。ほ、ほほ…」
「冗談などではないよ、アミカ嬢。俺は君となら……道ならぬ恋に苦しんでもいいと思っている。例え地獄の業火に焼かれようとも……君と二人ならば……!」
いえいえいえ冗談じゃないんですけど、本当に。
何で私がこんな人と一緒に業火に焼かれなければならないのか。
私が一歩下がった分、エイダン様が一歩前へ進み出てきてまた距離が縮める。あまりの不気味さに私は咄嗟に扇で口元を隠しながらも大きな声で笑った。
「まぁっ!嫌ですわぁエイダン様ったら!ほほほほ」
周囲にいた何人かの視線がこちらに向き、エイダン様は渋々といった感じで口をつぐみ、私に詰め寄るのを止めた。
「ミッチェルが遅くて気になりますわ。私ちょっと見てきますわね」
私は半ば強引に彼から逃れたのだった。
表に出て左右を見渡すと、少し離れたところでミッチェルがボーッと座って大きなあくびをしていた。
「ミッチェル!」
「ひぐっ!!」
私が声をかけながら近寄ると、ミッチェルは肩をビクッと上げてこちらを振り向いた。
「アッ……アミカ……!どっ、どうしたんだい?!エ、エイダンは……?」
「中にいらっしゃいますわよ。あなたがあまりにも遅いから心配して……、……元気そうじゃない?ミッチェル」
少しも悪くない顔色を見て私は言った。するとミッチェルはまたビクッとして、
「……ぅ……うぅ……、……ま、まぁだいぶマシになってきたかなぁ……」
などと急に額を押さえて言い出したのだった。
「……………………。」
「?……どうかなさいました?どなたか、お知り合いがいらっしゃいますの?」
「……いや……、実はね、ミッチェルが戻らないうちに、君に話しておきたいことがあってね……ふふ」
「……?」
え…?一体何……?
ミッチェルに聞かれて困る話なんか、この人との間には何もないはずだけれど……。
私が困惑していると、彼は突然声を潜めて信じられないことを言い出した。
「実はね、アミカ嬢。俺は以前からずっと君のことを好きだったんだよ」
「……。…………。…………は……?」
言っている意味が理解できず、私は思わず変な声を上げてしまった。急に何を言い出すのか。
「君は少しも気付いていなかったと思うけどね、3年ほど前に一時帰国した時、初めてミッチェルから君を紹介された。あの時に、この人こそ俺の運命の人だと思ったんだ」
「……………………え……?」
「こうして再会してみて、やはり俺は君じゃなきゃダメだと強く感じているよ。……ねぇ、アミカ嬢、……君は俺に、何か特別なものを感じないかい?」
「…っ!」
小声でそう言うと、エイダン様は私に顔を近付いてニヤリと笑った。
(きっ……気持ち悪い……っ!何なのこの人……っ!)
はっきりとした理由は分からないけれど、私はこの人が言っていることが嘘であると直感で思った。全身にぶわっと鳥肌が立つ。私は慌ててサッと後ろに一歩下がって、引き攣る頬で無理矢理笑い飛ばした。
「ま……まぁっ、エイダン様ったら。突然変な冗談を仰いますのね。ほ、ほほ…」
「冗談などではないよ、アミカ嬢。俺は君となら……道ならぬ恋に苦しんでもいいと思っている。例え地獄の業火に焼かれようとも……君と二人ならば……!」
いえいえいえ冗談じゃないんですけど、本当に。
何で私がこんな人と一緒に業火に焼かれなければならないのか。
私が一歩下がった分、エイダン様が一歩前へ進み出てきてまた距離が縮める。あまりの不気味さに私は咄嗟に扇で口元を隠しながらも大きな声で笑った。
「まぁっ!嫌ですわぁエイダン様ったら!ほほほほ」
周囲にいた何人かの視線がこちらに向き、エイダン様は渋々といった感じで口をつぐみ、私に詰め寄るのを止めた。
「ミッチェルが遅くて気になりますわ。私ちょっと見てきますわね」
私は半ば強引に彼から逃れたのだった。
表に出て左右を見渡すと、少し離れたところでミッチェルがボーッと座って大きなあくびをしていた。
「ミッチェル!」
「ひぐっ!!」
私が声をかけながら近寄ると、ミッチェルは肩をビクッと上げてこちらを振り向いた。
「アッ……アミカ……!どっ、どうしたんだい?!エ、エイダンは……?」
「中にいらっしゃいますわよ。あなたがあまりにも遅いから心配して……、……元気そうじゃない?ミッチェル」
少しも悪くない顔色を見て私は言った。するとミッチェルはまたビクッとして、
「……ぅ……うぅ……、……ま、まぁだいぶマシになってきたかなぁ……」
などと急に額を押さえて言い出したのだった。
「……………………。」
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