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48. 取り調べ
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(……まだドキドキが収まらないわ……)
苦しむ彼にしばらくの間寄り添い、私にできる精一杯の慰めを施すと、クリス様の昂りはどうにか落ち着いた。
どうなることかと内心緊張したけれど、クリス様は錯乱して私を強引にベッドに引きずり込んだり押さえつけたりすることもなく、ただ私の手に全てを任せ、幾度か仰け反り、身を震わせた。
彼がついに意識を手放した後、私は侍医を呼び彼を託すと、そのまま寝室を後にした。
だいぶ楽になったらしいクリス様は、ようやく穏やかな表情で寝息を立てていて。その姿に、私は心からほっとしたのだった。
けれど……。
(は、初めて間近で見たわ、殿方の、その……。そう。あれがああなって、……そういうことか……)
安堵はしたものの、心臓は別の意味でまだバクバクと激しく脈打っている。全てが初めての経験だった。男性とは、ああいう生き物なのだ。我々とは全然違う。びっくりした。クリス様のだから、受け入れられた。結婚相手がクリス様で、本当に本当によかった。あんなの……あんなこと……愛する人じゃないと、私は絶対に無理だ。
「い、いかがでございましたか!? フローリア様! 殿下のご様子は……っ!?」
寝室から出て侍医と話をして入れ替わるやいなや、ラーラが私の元へとすっ飛んできた。
他の侍女たちや護衛らも心配そうな顔でこちらを見ている。心の内に残る動揺をひた隠し、私は努めて冷静に答えた。
「……ええ。随分落ち着かれたわ。体温も呼吸も安定したようだったし、今はゆっくりとお休みになってる。あとは侍医に任せるわ」
私の言葉に、皆は一様に安堵の表情を浮かべた。ラーラは深く息をつき、自分の胸に手を当てている。
「本当にようございました……! どうぞフローリア様、お座りになってくださいませ。一度ご休憩を……」
「いいえ、ラーラ。私は大丈夫。しなくてはならないことを、先に全部してしまうわ」
気遣ってくれるラーラにそう告げ、私は各々に指示を出した。
クリス様は安静のためにと、侍医の見守りの下で数日間隔離されることとなった。彼はこれまで、母君であるアイラ様のお気持ちや立場を守りたいがために、王妃の所業を誰にも打ち明けずにきた。今回のことから芋づる式にあの頃の事件まで白日の元に晒され騒がれることは、きっとクリス様は望まないだろう。
それでも、王妃には徹底的な罰を受けてもらわねば。
私は王立薬学研究所にいるルミロ第二王子殿下に連絡を取り、王妃の部屋から回収した香の成分を大至急侍医らと共に調べていただいた。
翌日、私はその結果を携えたルミロ殿下と謁見した。
「──かの香はかつてヴァルデン王国から輸入された催情香の一種で、国王陛下が十数年前に国内流通を禁じられた品だ。微量でも強力な催淫効果があり、非常に危険な香だよ。……こんなものが、一体どこにあったの?」
不思議そうに尋ねる殿下に、私は静かに答える。
「……王妃陛下のお部屋です。様々な調査の最中でして、詳しいことはまだ申し上げられないのですが、真相はいずれ、ルミロ殿下のお耳にも入るかと」
「……そうか。分かった」
曖昧に濁す私の言葉に、ルミロ殿下は大きく動揺するそぶりもなく頷いた。
ヴァルデン王国は大陸内の小国で、我が国とはさほど友好的な関係ではない。過去に外交問題があり、その後交易は再開したが、薬物などは取引を一切禁止している。
(王妃の周りに、ヴァルデン王国の関係者がいるのかも確認が必要ね……)
取り調べ中のエヴァナ嬢は、翌日になっても頑として口を割らなかった。よほど王妃にきつく口止めされ、脅されているのだろうか。それどころか、私のことを「王太子妃に相応しい人物ではない」と糾弾し、国王陛下に直訴すると言い謁見を求めているという。
調査官らの報告に、私は空いた口が塞がらなかった。
「……何ですって? 一体彼女は何と言っているの?」
「それが……、フローリア妃殿下は、自分の養父であるギルフォード伯爵とただならぬ関係にあるだとか、妃殿下の父君であるバークリー公爵は、法を破り数々の愛人を持っているだとか……」
「……何ですって?」
驚きのあまり、二回も聞き返してしまった。この期に及んで何を言い出すのか。いや、父が数々の愛人を……のくだりは合っている。でも、なぜエヴァナ嬢がそのことを知っているのか。そして私とギルフォード伯爵のただならぬ関係とは……? 言いがかりにしても無理がありすぎる。
「取り調べ中の被疑者の証言は全て記録を取ってございます。後日、調査が入るやもしれませんが……」
言いづらそうにそう伝えてくる調査官の言葉に、私は毅然と答える。
「構わないわ。言わせておきなさい。何を調べられても、私に後ろめたいことはないもの」
(まぁ、父には山ほどあるんだけど)
内心そう思いながら、私は続けた。
「それよりも、肝心のことについてしっかり聞き出してちょうだい。近日中に国王陛下と謁見し、全てをご報告します。禁制品の使用経緯や、王妃陛下とのこれまでのやり取り全て。それらを白状させ、王太子殿下への加害未遂の罪の重さもしっかりと教えておいてね」
「承知いたしました」
緊張感のある面持ちで即座にそう答えた調査官らは、エヴァナ嬢の取り調べに戻っていった。
苦しむ彼にしばらくの間寄り添い、私にできる精一杯の慰めを施すと、クリス様の昂りはどうにか落ち着いた。
どうなることかと内心緊張したけれど、クリス様は錯乱して私を強引にベッドに引きずり込んだり押さえつけたりすることもなく、ただ私の手に全てを任せ、幾度か仰け反り、身を震わせた。
彼がついに意識を手放した後、私は侍医を呼び彼を託すと、そのまま寝室を後にした。
だいぶ楽になったらしいクリス様は、ようやく穏やかな表情で寝息を立てていて。その姿に、私は心からほっとしたのだった。
けれど……。
(は、初めて間近で見たわ、殿方の、その……。そう。あれがああなって、……そういうことか……)
安堵はしたものの、心臓は別の意味でまだバクバクと激しく脈打っている。全てが初めての経験だった。男性とは、ああいう生き物なのだ。我々とは全然違う。びっくりした。クリス様のだから、受け入れられた。結婚相手がクリス様で、本当に本当によかった。あんなの……あんなこと……愛する人じゃないと、私は絶対に無理だ。
「い、いかがでございましたか!? フローリア様! 殿下のご様子は……っ!?」
寝室から出て侍医と話をして入れ替わるやいなや、ラーラが私の元へとすっ飛んできた。
他の侍女たちや護衛らも心配そうな顔でこちらを見ている。心の内に残る動揺をひた隠し、私は努めて冷静に答えた。
「……ええ。随分落ち着かれたわ。体温も呼吸も安定したようだったし、今はゆっくりとお休みになってる。あとは侍医に任せるわ」
私の言葉に、皆は一様に安堵の表情を浮かべた。ラーラは深く息をつき、自分の胸に手を当てている。
「本当にようございました……! どうぞフローリア様、お座りになってくださいませ。一度ご休憩を……」
「いいえ、ラーラ。私は大丈夫。しなくてはならないことを、先に全部してしまうわ」
気遣ってくれるラーラにそう告げ、私は各々に指示を出した。
クリス様は安静のためにと、侍医の見守りの下で数日間隔離されることとなった。彼はこれまで、母君であるアイラ様のお気持ちや立場を守りたいがために、王妃の所業を誰にも打ち明けずにきた。今回のことから芋づる式にあの頃の事件まで白日の元に晒され騒がれることは、きっとクリス様は望まないだろう。
それでも、王妃には徹底的な罰を受けてもらわねば。
私は王立薬学研究所にいるルミロ第二王子殿下に連絡を取り、王妃の部屋から回収した香の成分を大至急侍医らと共に調べていただいた。
翌日、私はその結果を携えたルミロ殿下と謁見した。
「──かの香はかつてヴァルデン王国から輸入された催情香の一種で、国王陛下が十数年前に国内流通を禁じられた品だ。微量でも強力な催淫効果があり、非常に危険な香だよ。……こんなものが、一体どこにあったの?」
不思議そうに尋ねる殿下に、私は静かに答える。
「……王妃陛下のお部屋です。様々な調査の最中でして、詳しいことはまだ申し上げられないのですが、真相はいずれ、ルミロ殿下のお耳にも入るかと」
「……そうか。分かった」
曖昧に濁す私の言葉に、ルミロ殿下は大きく動揺するそぶりもなく頷いた。
ヴァルデン王国は大陸内の小国で、我が国とはさほど友好的な関係ではない。過去に外交問題があり、その後交易は再開したが、薬物などは取引を一切禁止している。
(王妃の周りに、ヴァルデン王国の関係者がいるのかも確認が必要ね……)
取り調べ中のエヴァナ嬢は、翌日になっても頑として口を割らなかった。よほど王妃にきつく口止めされ、脅されているのだろうか。それどころか、私のことを「王太子妃に相応しい人物ではない」と糾弾し、国王陛下に直訴すると言い謁見を求めているという。
調査官らの報告に、私は空いた口が塞がらなかった。
「……何ですって? 一体彼女は何と言っているの?」
「それが……、フローリア妃殿下は、自分の養父であるギルフォード伯爵とただならぬ関係にあるだとか、妃殿下の父君であるバークリー公爵は、法を破り数々の愛人を持っているだとか……」
「……何ですって?」
驚きのあまり、二回も聞き返してしまった。この期に及んで何を言い出すのか。いや、父が数々の愛人を……のくだりは合っている。でも、なぜエヴァナ嬢がそのことを知っているのか。そして私とギルフォード伯爵のただならぬ関係とは……? 言いがかりにしても無理がありすぎる。
「取り調べ中の被疑者の証言は全て記録を取ってございます。後日、調査が入るやもしれませんが……」
言いづらそうにそう伝えてくる調査官の言葉に、私は毅然と答える。
「構わないわ。言わせておきなさい。何を調べられても、私に後ろめたいことはないもの」
(まぁ、父には山ほどあるんだけど)
内心そう思いながら、私は続けた。
「それよりも、肝心のことについてしっかり聞き出してちょうだい。近日中に国王陛下と謁見し、全てをご報告します。禁制品の使用経緯や、王妃陛下とのこれまでのやり取り全て。それらを白状させ、王太子殿下への加害未遂の罪の重さもしっかりと教えておいてね」
「承知いたしました」
緊張感のある面持ちで即座にそう答えた調査官らは、エヴァナ嬢の取り調べに戻っていった。
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