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49. それぞれの処罰
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調査の結果、いつも私に高圧的だった王妃のあの筆頭侍女が、ヴァルデン王国の出身であることが分かった。こちらも尋問すると、やはり王妃の指示により、母国から例の媚薬を入手していたということが判明した。
また、ようやく口を割ったエヴァナ嬢から、事件の真相のほぼ全てを聞き出すことができた。
クリス様がエヴァナ嬢に懸想し、二人きりになった時を見計らって強引に関係を持った。そしてその場に戻ってきた王妃が現場を目撃した。そういう展開にしたかったようだが、私たちが突入したタイミングのせいで、その計画は水の泡になったようだ。
王妃とエヴァナ嬢にあの媚薬の香が作用しなかった理由は、二人があらかじめ作用を抑制する専用の油を、鼻腔内に塗っていたからだった。その油も香と共に、王妃の筆頭侍女が母国から仕入れたものだった。
事件から三日目。私はついに国王陛下と謁見し、王妃のクリス様に対する加害未遂の全容を報告した。
「──王妃が、クリストファーに……」
常に冷静沈着で毅然とした佇まいを崩すことのない国王陛下も、さすがに動揺を隠しきれてはいなかった。報告を続ける私の顔を凝視したまま微動だにせず、私の言葉が途切れると深く息をついた。
「そのような汚らわしき行為を、この王宮の中で行っていたとは……」
謁見の間は静まり返り、重い沈黙が漂った。陛下はがくりと項垂れ、眉間に手を当てる。そしてゆっくりと顔を上げると、再び私と視線を合わせた。
「王妃に対しては正式な審問を命ずる。そしてより綿密な調査を行い、関与した者にはそれぞれしかるべき罰を与えることとする。フローリア妃よ、そなたにこのような報告をさせることになってしまい、申し訳ない」
陛下のその言葉通り、ユーディア王妃は徹底的な審問の末、その称号を剥奪され廃妃となった。そしてその後、とある修道院に終身幽閉の処罰が下った。
王家管轄のその修道院は山間部の僻地にあり、この王都からは遠く離れている。王国内でも最も規律が厳しい施設であり、日が昇る前からの労働と、質素な食事、そして祈りの中で過ごす日々。贅沢品や嗜好品などは当然与えられることなどなく、訪ねてくる人もほとんどいない。ユーディア元王妃のように、表沙汰にはできない罪を犯した高貴な家柄の女性が送られてきたり、他に行き場のない元犯罪者や、訳ありの女性たちが流れ着く場所でもあった。
修道院の名を冠してはいるが、実態は牢獄のような場所だ。彼女は残りの長い人生を、そこで過ごすことになる。
王妃の命に従い、違法に入手した媚薬を使い王太子への加害を実行したエヴァナ嬢へもまた、重い処罰が下された。ギルフォード伯爵との養子縁組は当然解消され、彼女の実家オーデン男爵家は、その爵位を剥奪された。そして一家で王都から追放されることとなったのだ。
その行き先は、北の極寒の地にある未開の村落。過酷な寒さの中、粗末な住居で寝起きしながら、一家で労働を繰り返す日々が始まる。ジョゼフ様は彼女の処罰が決まってからすぐに、離縁を叩きつけたらしい。
それぞれが全てを失い、この王宮からは遠く離れた地で生きていくことになったのだった。
また元王妃の筆頭侍女は解雇され、国外追放の命が下り、母国ヴァルデン王国へと強制送還された。
エヴァナ嬢が苦し紛れに私の名を出し「王太子妃に相応しい人物ではない」と糾弾した件については、すぐに片が付いた。
彼女は調査の矛先をどうにか私に向けようとでもしたのか、取り調べの最中に「王太子妃殿下とギルフォード伯爵はただならぬ関係にあります! 夜に二人きりで密会している現場を目撃したこともありますわ!」などと語りはじめたらしいが、彼女が目撃したと言い張ったその夜、ギルフォード伯爵はルミロ第二王子殿下と共に、貴族会議で提出する予定の新薬についての書類を確認していたということを、ルミロ殿下が証言してくださった。
その件に関しては、エヴァナ嬢が虚偽の証言をしたとして罪を重ねただけで終わったのだが、大打撃を受けたのは私の父だった。
エヴァナ嬢は父のことも調査官たちに訴えた。
父が数多く手を付けてきた女性たちの中には、エヴァナ嬢の友人らも紛れ込んでいたらしい。王妃にプレッシャーをかけられる中、エヴァナ嬢は私を貶める目的で、自分の友人らを使い父に接触するよう唆した。好色な父はすぐに引っかかり、エヴァナ嬢の息がかかった何人もの女性たちと関係を持っていたのだ。
王妃が絡んだ、今回の由々しき事件。その取り調べの過程で名前が上がった父には、本格的な調査が始まってしまった。
これまでバークリー公爵の絶大な権力のもとに沈黙を貫いてきた屋敷の使用人たちは、証言を求める王家からの通達が下った途端、待っていましたとばかりに皆一斉に口を開いた。
このイヴリンド王国では、王族以外は側妃を持つことを禁じられており、一夫一婦制が大原則。その中で、他家の模範となるべきバークリー公爵家当主が数々の愛人を持ち、娼館に通い、また屋敷の侍女や使用人たちにさえ手を付けていたという事実が次々と明るみに出た以上、見逃してもらえるはずがなかった。
父は王命により、家督と爵位をダニエルに譲渡するよう迫られ、また、今後一切公の場に出ることも禁じられた。事実上の追放処分だ。
さらに、長期に渡る父の裏切り行為により母が心身共に病んでいたことも露呈すると、国王陛下はその境遇に心を留め、母に対しても温情を示した。
「夫人には、これまでの苦しみに見合う安寧が与えられるべきだ。以後は実家の庇護のもと、静かに過ごすがよい」
他ならぬ国王陛下からこのような言葉が出れば、父も母を縛り付けておくことなどもうできない。
これにより、母は公に父と離縁することとなった。
筆頭公爵家当主に下された、まさかの罰。
同様に女遊びにふけっている貴族家当主たちは、次は自分の番なのではないかと震え上がっているかもしれない。妻をないがしろにし、権力を笠に着て横暴にふるまっている連中が、この件を機に少しは大人しくなってくれるといいのだけれど。
また、ようやく口を割ったエヴァナ嬢から、事件の真相のほぼ全てを聞き出すことができた。
クリス様がエヴァナ嬢に懸想し、二人きりになった時を見計らって強引に関係を持った。そしてその場に戻ってきた王妃が現場を目撃した。そういう展開にしたかったようだが、私たちが突入したタイミングのせいで、その計画は水の泡になったようだ。
王妃とエヴァナ嬢にあの媚薬の香が作用しなかった理由は、二人があらかじめ作用を抑制する専用の油を、鼻腔内に塗っていたからだった。その油も香と共に、王妃の筆頭侍女が母国から仕入れたものだった。
事件から三日目。私はついに国王陛下と謁見し、王妃のクリス様に対する加害未遂の全容を報告した。
「──王妃が、クリストファーに……」
常に冷静沈着で毅然とした佇まいを崩すことのない国王陛下も、さすがに動揺を隠しきれてはいなかった。報告を続ける私の顔を凝視したまま微動だにせず、私の言葉が途切れると深く息をついた。
「そのような汚らわしき行為を、この王宮の中で行っていたとは……」
謁見の間は静まり返り、重い沈黙が漂った。陛下はがくりと項垂れ、眉間に手を当てる。そしてゆっくりと顔を上げると、再び私と視線を合わせた。
「王妃に対しては正式な審問を命ずる。そしてより綿密な調査を行い、関与した者にはそれぞれしかるべき罰を与えることとする。フローリア妃よ、そなたにこのような報告をさせることになってしまい、申し訳ない」
陛下のその言葉通り、ユーディア王妃は徹底的な審問の末、その称号を剥奪され廃妃となった。そしてその後、とある修道院に終身幽閉の処罰が下った。
王家管轄のその修道院は山間部の僻地にあり、この王都からは遠く離れている。王国内でも最も規律が厳しい施設であり、日が昇る前からの労働と、質素な食事、そして祈りの中で過ごす日々。贅沢品や嗜好品などは当然与えられることなどなく、訪ねてくる人もほとんどいない。ユーディア元王妃のように、表沙汰にはできない罪を犯した高貴な家柄の女性が送られてきたり、他に行き場のない元犯罪者や、訳ありの女性たちが流れ着く場所でもあった。
修道院の名を冠してはいるが、実態は牢獄のような場所だ。彼女は残りの長い人生を、そこで過ごすことになる。
王妃の命に従い、違法に入手した媚薬を使い王太子への加害を実行したエヴァナ嬢へもまた、重い処罰が下された。ギルフォード伯爵との養子縁組は当然解消され、彼女の実家オーデン男爵家は、その爵位を剥奪された。そして一家で王都から追放されることとなったのだ。
その行き先は、北の極寒の地にある未開の村落。過酷な寒さの中、粗末な住居で寝起きしながら、一家で労働を繰り返す日々が始まる。ジョゼフ様は彼女の処罰が決まってからすぐに、離縁を叩きつけたらしい。
それぞれが全てを失い、この王宮からは遠く離れた地で生きていくことになったのだった。
また元王妃の筆頭侍女は解雇され、国外追放の命が下り、母国ヴァルデン王国へと強制送還された。
エヴァナ嬢が苦し紛れに私の名を出し「王太子妃に相応しい人物ではない」と糾弾した件については、すぐに片が付いた。
彼女は調査の矛先をどうにか私に向けようとでもしたのか、取り調べの最中に「王太子妃殿下とギルフォード伯爵はただならぬ関係にあります! 夜に二人きりで密会している現場を目撃したこともありますわ!」などと語りはじめたらしいが、彼女が目撃したと言い張ったその夜、ギルフォード伯爵はルミロ第二王子殿下と共に、貴族会議で提出する予定の新薬についての書類を確認していたということを、ルミロ殿下が証言してくださった。
その件に関しては、エヴァナ嬢が虚偽の証言をしたとして罪を重ねただけで終わったのだが、大打撃を受けたのは私の父だった。
エヴァナ嬢は父のことも調査官たちに訴えた。
父が数多く手を付けてきた女性たちの中には、エヴァナ嬢の友人らも紛れ込んでいたらしい。王妃にプレッシャーをかけられる中、エヴァナ嬢は私を貶める目的で、自分の友人らを使い父に接触するよう唆した。好色な父はすぐに引っかかり、エヴァナ嬢の息がかかった何人もの女性たちと関係を持っていたのだ。
王妃が絡んだ、今回の由々しき事件。その取り調べの過程で名前が上がった父には、本格的な調査が始まってしまった。
これまでバークリー公爵の絶大な権力のもとに沈黙を貫いてきた屋敷の使用人たちは、証言を求める王家からの通達が下った途端、待っていましたとばかりに皆一斉に口を開いた。
このイヴリンド王国では、王族以外は側妃を持つことを禁じられており、一夫一婦制が大原則。その中で、他家の模範となるべきバークリー公爵家当主が数々の愛人を持ち、娼館に通い、また屋敷の侍女や使用人たちにさえ手を付けていたという事実が次々と明るみに出た以上、見逃してもらえるはずがなかった。
父は王命により、家督と爵位をダニエルに譲渡するよう迫られ、また、今後一切公の場に出ることも禁じられた。事実上の追放処分だ。
さらに、長期に渡る父の裏切り行為により母が心身共に病んでいたことも露呈すると、国王陛下はその境遇に心を留め、母に対しても温情を示した。
「夫人には、これまでの苦しみに見合う安寧が与えられるべきだ。以後は実家の庇護のもと、静かに過ごすがよい」
他ならぬ国王陛下からこのような言葉が出れば、父も母を縛り付けておくことなどもうできない。
これにより、母は公に父と離縁することとなった。
筆頭公爵家当主に下された、まさかの罰。
同様に女遊びにふけっている貴族家当主たちは、次は自分の番なのではないかと震え上がっているかもしれない。妻をないがしろにし、権力を笠に着て横暴にふるまっている連中が、この件を機に少しは大人しくなってくれるといいのだけれど。
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