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悪足掻き

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「━━と言う訳で、エスペーシは自分の婚約者を取り戻すべく、グロブス殿下よりも自分が優れているとフレミア嬢の近くで証明する為に、グリフォンデン寮に乗り込む事になった訳です」


「成程、そのような経緯が」


 関心顔のマドカ嬢。根が素直なのかな?


「勿論、本来ならヴァストドラゴンの家名を背負うエスペーシが他寮に移るなんて、そうそうまかり通る訳もありませんが、グロブス殿下の元婚約者であるインシグニア嬢が、フレミア嬢が第一婚約者となった後も、グロブス殿下と同じ寮と言うのも可哀想と、エスペーシが自分とインシグニア嬢との交換を申し出て、ヴァストドラゴン家とグリフォンデン家双方がそれを了承した為に、インシグニア嬢はヴァストドラゴン寮に入寮する事となったのです」


「まあ、王家と対立してまで元婚約者のフレミア嬢を取り戻そうだなんて、エスペーシ君もヴァストドラゴン家も強気ですね」


 どことなくマドカ嬢の顔が蕩けて見えるのは、ロマンスに興味でもあるのかな? まあ、王子と高位貴族の子息が、ご令嬢を巡って争うなんて、普通は物語の中でしか起こらないからな。


「このお兄ちゃん嘘吐き」


 などと自分の策を歪曲して語っていたら、いきなりまつりちゃんに指差されて、嘘がバレた。嘘発見器的な能力を有しているのかな? 将軍家の精霊としたら有能だ。マドカ嬢とジュウベエ君の俺を見る目が半眼になっているが、俺からしたらそんな事よりも、まつりちゃんが喋れる方が驚きだった。人型だから知能が高いのか、人型だから口腔が人間と同じで喋れるのか。興味が湧く。


「お前……」


 そんな俺の関心など今は会話の外だ。元々俺を胡散臭く思っていただろうジュウベエ君の視線が突き刺さる。別に痛くないけど。


「完全な嘘じゃないよ。このような事態になるように働き掛けたのは私だけどね」


「だったら、そう言えよ」


 更に厳しい視線になるジュウベエ君。それに対して、俺は人差し指を振る。


「チッチッチッ、ジュウベエ君、正直は善であり美徳だけど、人間と言うものは善性だけで作られていないんだよ。特にこの国の王侯貴族ともなると、その内実は激情家と二枚舌が殆どさ」


 これには閉口するジュウベエ君。そして視線を彼の姉上であるマドカ嬢へ向ける。彼女も、その視線の意味を理解して、それが本当であると頭を振る。


「はあ……。俺様は強くなる為に国を出て、異国で武者修行しようと思ってこの国に来たんだ。政治の真似事がしたくて来たんじゃない」


「それはご愁傷様。でもまあ、強い人は強いから、私のような連中は適当に流して、強い奴と戦う機会だけを窺う事に集中するんだね。正しく獲物を狙う獣の如く」


「お前が言っても説得力ないな」


 俺の魔力量なんてお粗末なものだからね。そんな奴が派閥のボスを張っているのを見たら、本当に強い奴なんてこの国にいるのか? なんて疑いたくもなるか。


「はあ!?」


 などとニドゥーク皇国の将軍家の二人と楽しく・・・会話していたら、別のテーブルから変な声が上がった。視線を向けたら、ジュウベエ君の配下の少年が、驚愕の顔で席から立ち上がっていた。


「どうかしたのか?」


 ジュウベエ君が声を掛けると、ハッと我に返った少年が、どうしたものかと当惑しつつ、今聞いたであろう情報をジュウベエ君に報告する。


「いえ、明後日受験……」


「ああ、それがどうした? 俺様たちには関係ないだろ?」


 これには俺もインシグニア嬢も、そしてマドカ嬢も顔を見合わせ、複雑な顔になる。


「ジュウベエ君」


 俺は最後通告のように重々しくジュウベエ君に話し掛ける。


「何だ?」


「ジュウベエ君は将軍家の子息だから、受験なしで魔法学校に通えるようになるけれど、配下の、ここにいる少年たちは、ちゃんと受験して合格しないと、魔法学校に通えないよ?」


「……………………え?」


 固まるジュウベエ君と頭を抱えるマドカ嬢。


「いやいやいや、え?」


「え? じゃないわよ! あれ程口酸っぱく言ったでしょ!? それをあなたが大丈夫だと言ったから、今日を観光に充てたのに! 何も準備していないじゃない!」


 多分、本当にマドカ嬢は口酸っぱく言ったんだろうなあ。それをジュウベエ君が聞き流していたのがありありと目に浮かぶ。


「いやいやいや、だったらお前たちは何でここでのんびり過ごしているんだ!?」


 おっと、話の矛先がこちらに向けられた。


「私の派閥は、既に出来る限りの準備を終わらせていますから、ここまで来て詰め込み学習なんてしませんよ。まあ、今日の観光が終わって帰宅したら、軽く復習するくらいですかね」


 俺の話を聞いて、膝の上のまつりちゃんを見るジュウベエ君。まつりちゃんが反応しない事が、俺の話が本当だと物語っていた。


「はあ、うちの愚弟とは雲泥の差です。流石は四大貴族。あの難しいペーパーテストも、ちゃんと対策しておられるのですね」


 マドカ嬢が額に手を当てながら、首を振る。


「難しい、のか?」


 いやいや、ジュウベエ君、ここで俺に話を振る?


「ここに来るまでに、十二分な教養を学ぶ機会を設けられた四大貴族傘下の騎士貴族家の出であっても、ペーパーテストで落とされる者は毎年出ると聞きますね」


 俺の言に顔を真っ青にするジュウベエ君。


「この時期は、どの派閥、どの一般受験生、どの留学生も、ペーパーテストに合格する為に、部屋に閉じ籠もって最後の追い込みをしていると言うのに。あなたって子は……」


 マドカ嬢は、もう呆れて物も言えないようだ。


「ど、どうにかならない……、のか?」


 ジュウベエ君は冷や汗を一筋滴らせながら、周囲をぐるりと窺うも、葬式のようにこの場は静まり返っている。


「……あの」


 そんな静まり返った中、口を開いたのはインシグニア嬢だった。全員の視線が彼女に集中し、少し緊張気味に、彼女は俺に話し掛けてきた。


「フェイルーラ様の対策問題集を、ジュウベエ君に貸してあげられませんか?」


 インシグニア嬢の『対策問題集』と言うワードに反応して、ジュウベエ君が魔物の如き形相でこちらを睨む。


「君に貸しても、私に得はないからねえ」


 それはそう。とマドカ嬢が深く頷く。これにジュウベエ君は歯ぎしりしながら、どうにかこの事態を打開出来ないか? と俺を睨み続ける。それがインシグニア嬢の掌の内だと言う事にも気付かず。


 ニドゥーク皇国の将軍家の子息が、他国の受験対策を怠り、配下がすごすごと帰ってきたとなれば、周辺諸国に対して面目丸潰れだ。となれば、ジュウベエ君としては、俺に貸しを作ってでも、対策問題集を手に入れたいはず。となれば、ジュウベエ君からしたら、魔法学校入学後、何かしら俺に融通する。とここで貸しを作ってでも、対策問題集を手に入れるのが順当だろう。派閥のボスとして、配下に惨めな思いをさせるのは恥だからねえ。これはボスとして見過ごしてはいけない。


「……んぐぐぐぐぐッ!」


 うわあ、顔真っ赤になっている。自分より弱そうな奴に、頭下げて頼み込むなんて、プライドが許さないんだろうなあ。


「私の派閥は、ここ五年、この対策問題集のお陰で全員合格しているねえ」


「!!」


 おお、おお、更に真っ赤になったな。


「勝負だ!!」


「……は?」


「俺様が勝ったらその『対策問題集』を俺様に寄越せ!」


 ほう? この期に及んで、そう来るか。

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