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想定外の代物
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「おお……、流石は王都大聖堂のオルガン。手鍵盤だけで五段ある」
思わず唸ってしまった。礼拝堂の最奥にあるパイプオルガンの手鍵盤の数が、五段もあったからだ。ヴァストドラゴン領の聖堂のオルガンは三段だった。この大聖堂は一度火事で消失しているから、作り直した時に五段にしたのだろう。
「どうですか? 弾けそうですか?」
俺の後ろから、インシグニア嬢が不安そうに声を掛けてきた。
「まあ、『夜明け、始まりの陽射し』は難しい曲ではありますが、テンポの早い曲じゃありませんから、手を動かすぶんには、問題ありません。スイッチって、これですか?」
俺にオルガン演奏を取られてしまった神官が、何とも言えない顔で首肯した。オルガンは魔導具だ。オルガンは管楽器なので、空気を内部の風箱に送り込み、鍵盤を押すとそれが開いてパイプを通って音がなる。
魔導具じゃないオルガンだと、この送風部分をふいごで行う事となる。小型のオルガンなら奏者自身がふいごを扱うが、これだけ大型だと、奏者の他にふいご手が必要になる。その手間を省いたのが、魔導具のオルガンだ。魔力を送り込む事で風魔法を使って風箱に送風する仕組みとなっている。
取り敢えず椅子に座って音を鳴らしてみる。すると、鍵盤から魔力を吸われる感覚を感じた。同時に礼拝堂のランプが一つふわっと光る。
「?」
え? もしかして? と今度はドレミファソラシドと鳴らしてみると、礼拝堂の内部に設置されたランプが連動して、様々な色に光った。……ああ、そう言う感じですか。
更に色々な鍵盤を弾いていくと、その法則性も分かってきた。鍵盤一つ一つに対応したランプや色があるのだ。それが五段。手鍵盤の数は一段五十四で、オルガンには足鍵盤と言って足で低音を鳴らす。それが三十。全部で三百ある鍵盤、その一つ一つに対応したランプと色があり、しかも鍵盤に流す魔力量で、点滅するランプの色の濃さが違う。はっきり色を出そうとしたら、相応の魔力量を注がないといけない。
「…………インシグニア嬢」
「何でしょう?」
思わずインシグニア嬢に耳打ちしてしまう。
「先程から私がオルガンを奏でるのを嫌がっているのが丸分かりの、あのオルガン奏者の神官さんの魔力量って、私と比べてどれくらいありますか?」
「え?」
意味が分からない。と前髪で目が隠れた顔で覗かれたが、俺は俺より魔力量の多い人間の魔力量を正確に測れないのだ。俺からしたら、俺より魔力量が多い人間は、一括りで『俺より魔力量の多い人間』なのだ。それ以上でも以下でもない。
「……まあ、二倍と言ったところでしょうか?」
二倍か。インシグニア嬢が俺に気を使ってそのように言ったのでないのなら、それくらいなら、俺の魔力回復力でカバー出来るな。
「取り敢えず、一曲簡単な曲を弾かせて貰って良いですか!?」
聖歌隊へ振り返る。聖歌隊としても貴重な時間なので、俺もすぐに『契約召喚の儀』の練習に入りたいのだが、この大型魔導具であるパイプオルガンがどれ程のものか理解していないと、最悪本番でぶっ倒れる。それならば前任の神官さんにオルガン演奏を返上した方がマシだ。
困惑する聖歌隊の皆さんの態度を、俺は肯定とプラスに判断し、一曲弾き始めた。
✕✕✕✕✕
「はあ……、はあ……、はあ……」
簡単な曲を弾いたのに、いつもよりも万倍疲れた気がする。思わずオルガンに突っ伏しそうになるが、このオルガン絶対高価だ。と言う判断が頭を過ぎり、何とか踏み留まる。
「ど、どうでしたか?」
近くで聴いていたインシグニア嬢に意見を窺う。魔力云々は抜きにして、音楽に関しては嘘は吐かないだろう。
すると、インシグニア嬢は何か語る事もなく、全力の拍手で迎えてくれた。それに続いて聖歌隊の皆さんも拍手をしてくれる。前任のオルガン奏者さんまでだ。どう言う事?
「あの、いつもと何か違っていたんですか?」
「はい。礼拝堂の光がいつもよりも煌びやかで、まるで天上にいるかのようでした」
ふむ。どうやら前任さんはここまで全力では演奏していなかったようだ。まあ、俺の二倍くらいの魔力量なら、ペース配分して演奏するよな。
「問題ないようでしたら、この感じで行きたいのですが」
「問題なんて、そんな! 大変素晴らしい体験をさせて頂きました!」
目は見えないが頬が紅潮しているので、本当に褒めてくれているのだろう。ちらりと見えるインシグニア嬢の向こう、礼拝堂の長椅子に座っている教皇猊下が、何とも言えない顔をしているのが気になるが。
「お待たせして済みません。それでは練習に入りましょうか」
『はい!』
俺が声を掛けると、聖歌隊の皆さんが快く返事をしてくれた。明らかに俺がやって来た時と態度が違い過ぎて、何とも座り心地が悪い。
インシグニア嬢がオルガンのある場所から降りていき、礼拝堂の後陣の中央にある椅子に座ると、エラトを抱える。聖歌隊の楽器隊と合唱隊がそれを囲むように持ち場に着いた。インシグニア嬢の侍女二人も楽器隊に混ざっている。個人個人の前にはスタンドマイクが置かれ、これで音を増幅させるのだろう。
「では」
『夜明け、始まりの陽射し』は、オルガンがある場合、オルガンから始まる曲だ。八小節程オルガンの独奏が行われた後、他の歌と演奏が一斉に始まる。
(おお……! 歌奏が始まると、ランプの色に更に彩りが追加されている!)
多分、あのマイクもこの大聖堂専用の魔導具なのだろう。様々な楽器、様々な歌声が重なる事で、ランプに違う色が加わり、礼拝堂がより彩り豊かに、より鮮やかになる。先程はオルガンの演奏に集中していたから分からなかったが、成程、インシグニア嬢が天上の世界と称し
たのも頷ける。…………頷ける、が、
『!?』
俺がオルガンの演奏を途中で止めた事で、インシグニア嬢や聖歌隊の演奏が止まる。何事か? と皆が俺を振り返った。これに対して、俺の顔も微妙に眉間にシワが寄る。何と説明すれば良いやら。
取り敢えず、俺はオルガンのある場所から降りて、インシグニア嬢の下まで向かい、インシグニア嬢に耳打ちする。
「何と言うか、チグハグじゃないですか?」
「チグハグ、ですか?」
インシグニア嬢は気にならかったようだ。
「良い合唱だったと思うのですが」
うん。合唱自体は良かったと俺も思う。ただ、
「ランプの色が気になって」
「ランプの色、ですか?」
これに首を傾げるインシグニア嬢。
「はい。私が全力を出したからか、ランプの色が、私のオルガンの色を強く発色して、他の方々の合唱の淡い色と対比して、良く見えなかったもので」
「はあ……?」
まあ、これまでオルガン奏者さんのオルガンの色も、多分淡い色だっただろうから、合唱と馴染んでいたのだろうけれど、俺のオルガン演奏だと、オルガンの色だけ別の絵の具で描かれたように馴染まない。これにはインシグニア嬢も、どうしたものかと口を曲げる。
まあ、そうなるよね。でも、オルガンだけ発色が良くなるのはおかしいと俺は思うのだ。だって歌声や楽器の音を乗せるマイクも、この大聖堂の魔導具だ。
「あの、そのマイク、ちょっと見せて頂いても?」
「? ええ、どうぞ?」
インシグニア嬢の許可を得て、スタンドマイクを観察する。マイクは普通のものに見える。高さ調節が出来、途中で横に曲げたりも出来る代物のようだ。ん? いや、足下が、
「これってペダルですか?」
「はい。これに魔力を乗せて踏むと、マイクが音を拡声させるんです」
んん? それって。俺はマイクのペダルを踏み踏みして、「あー、あー」と声を乗せる。…………ああ、やっぱりこれか。
「このマイク、ただ魔力を込めれば良いものじゃないですね」
「え?」
「今踏んで確認しましたが、強く踏むと多くの魔力が流れ、緩く踏むと魔力量もそれなりのようです」
「ええ~と、それって……」
「はい。どの楽曲にも緩急と言うものがありますから、拡声程度の魔力量を一定で流すのではなく、楽曲の緩急に合わせて、ペダルの操作も並行して行うのが、一番楽曲を際立たせるやり方かと」
俺の言葉が聞こえたのだろう。聖歌隊からざわつきが漏れ出てきた。しかし、これは大変だな。楽曲に合わせて魔力操作しないといけないのか。
思わず唸ってしまった。礼拝堂の最奥にあるパイプオルガンの手鍵盤の数が、五段もあったからだ。ヴァストドラゴン領の聖堂のオルガンは三段だった。この大聖堂は一度火事で消失しているから、作り直した時に五段にしたのだろう。
「どうですか? 弾けそうですか?」
俺の後ろから、インシグニア嬢が不安そうに声を掛けてきた。
「まあ、『夜明け、始まりの陽射し』は難しい曲ではありますが、テンポの早い曲じゃありませんから、手を動かすぶんには、問題ありません。スイッチって、これですか?」
俺にオルガン演奏を取られてしまった神官が、何とも言えない顔で首肯した。オルガンは魔導具だ。オルガンは管楽器なので、空気を内部の風箱に送り込み、鍵盤を押すとそれが開いてパイプを通って音がなる。
魔導具じゃないオルガンだと、この送風部分をふいごで行う事となる。小型のオルガンなら奏者自身がふいごを扱うが、これだけ大型だと、奏者の他にふいご手が必要になる。その手間を省いたのが、魔導具のオルガンだ。魔力を送り込む事で風魔法を使って風箱に送風する仕組みとなっている。
取り敢えず椅子に座って音を鳴らしてみる。すると、鍵盤から魔力を吸われる感覚を感じた。同時に礼拝堂のランプが一つふわっと光る。
「?」
え? もしかして? と今度はドレミファソラシドと鳴らしてみると、礼拝堂の内部に設置されたランプが連動して、様々な色に光った。……ああ、そう言う感じですか。
更に色々な鍵盤を弾いていくと、その法則性も分かってきた。鍵盤一つ一つに対応したランプや色があるのだ。それが五段。手鍵盤の数は一段五十四で、オルガンには足鍵盤と言って足で低音を鳴らす。それが三十。全部で三百ある鍵盤、その一つ一つに対応したランプと色があり、しかも鍵盤に流す魔力量で、点滅するランプの色の濃さが違う。はっきり色を出そうとしたら、相応の魔力量を注がないといけない。
「…………インシグニア嬢」
「何でしょう?」
思わずインシグニア嬢に耳打ちしてしまう。
「先程から私がオルガンを奏でるのを嫌がっているのが丸分かりの、あのオルガン奏者の神官さんの魔力量って、私と比べてどれくらいありますか?」
「え?」
意味が分からない。と前髪で目が隠れた顔で覗かれたが、俺は俺より魔力量の多い人間の魔力量を正確に測れないのだ。俺からしたら、俺より魔力量が多い人間は、一括りで『俺より魔力量の多い人間』なのだ。それ以上でも以下でもない。
「……まあ、二倍と言ったところでしょうか?」
二倍か。インシグニア嬢が俺に気を使ってそのように言ったのでないのなら、それくらいなら、俺の魔力回復力でカバー出来るな。
「取り敢えず、一曲簡単な曲を弾かせて貰って良いですか!?」
聖歌隊へ振り返る。聖歌隊としても貴重な時間なので、俺もすぐに『契約召喚の儀』の練習に入りたいのだが、この大型魔導具であるパイプオルガンがどれ程のものか理解していないと、最悪本番でぶっ倒れる。それならば前任の神官さんにオルガン演奏を返上した方がマシだ。
困惑する聖歌隊の皆さんの態度を、俺は肯定とプラスに判断し、一曲弾き始めた。
✕✕✕✕✕
「はあ……、はあ……、はあ……」
簡単な曲を弾いたのに、いつもよりも万倍疲れた気がする。思わずオルガンに突っ伏しそうになるが、このオルガン絶対高価だ。と言う判断が頭を過ぎり、何とか踏み留まる。
「ど、どうでしたか?」
近くで聴いていたインシグニア嬢に意見を窺う。魔力云々は抜きにして、音楽に関しては嘘は吐かないだろう。
すると、インシグニア嬢は何か語る事もなく、全力の拍手で迎えてくれた。それに続いて聖歌隊の皆さんも拍手をしてくれる。前任のオルガン奏者さんまでだ。どう言う事?
「あの、いつもと何か違っていたんですか?」
「はい。礼拝堂の光がいつもよりも煌びやかで、まるで天上にいるかのようでした」
ふむ。どうやら前任さんはここまで全力では演奏していなかったようだ。まあ、俺の二倍くらいの魔力量なら、ペース配分して演奏するよな。
「問題ないようでしたら、この感じで行きたいのですが」
「問題なんて、そんな! 大変素晴らしい体験をさせて頂きました!」
目は見えないが頬が紅潮しているので、本当に褒めてくれているのだろう。ちらりと見えるインシグニア嬢の向こう、礼拝堂の長椅子に座っている教皇猊下が、何とも言えない顔をしているのが気になるが。
「お待たせして済みません。それでは練習に入りましょうか」
『はい!』
俺が声を掛けると、聖歌隊の皆さんが快く返事をしてくれた。明らかに俺がやって来た時と態度が違い過ぎて、何とも座り心地が悪い。
インシグニア嬢がオルガンのある場所から降りていき、礼拝堂の後陣の中央にある椅子に座ると、エラトを抱える。聖歌隊の楽器隊と合唱隊がそれを囲むように持ち場に着いた。インシグニア嬢の侍女二人も楽器隊に混ざっている。個人個人の前にはスタンドマイクが置かれ、これで音を増幅させるのだろう。
「では」
『夜明け、始まりの陽射し』は、オルガンがある場合、オルガンから始まる曲だ。八小節程オルガンの独奏が行われた後、他の歌と演奏が一斉に始まる。
(おお……! 歌奏が始まると、ランプの色に更に彩りが追加されている!)
多分、あのマイクもこの大聖堂専用の魔導具なのだろう。様々な楽器、様々な歌声が重なる事で、ランプに違う色が加わり、礼拝堂がより彩り豊かに、より鮮やかになる。先程はオルガンの演奏に集中していたから分からなかったが、成程、インシグニア嬢が天上の世界と称し
たのも頷ける。…………頷ける、が、
『!?』
俺がオルガンの演奏を途中で止めた事で、インシグニア嬢や聖歌隊の演奏が止まる。何事か? と皆が俺を振り返った。これに対して、俺の顔も微妙に眉間にシワが寄る。何と説明すれば良いやら。
取り敢えず、俺はオルガンのある場所から降りて、インシグニア嬢の下まで向かい、インシグニア嬢に耳打ちする。
「何と言うか、チグハグじゃないですか?」
「チグハグ、ですか?」
インシグニア嬢は気にならかったようだ。
「良い合唱だったと思うのですが」
うん。合唱自体は良かったと俺も思う。ただ、
「ランプの色が気になって」
「ランプの色、ですか?」
これに首を傾げるインシグニア嬢。
「はい。私が全力を出したからか、ランプの色が、私のオルガンの色を強く発色して、他の方々の合唱の淡い色と対比して、良く見えなかったもので」
「はあ……?」
まあ、これまでオルガン奏者さんのオルガンの色も、多分淡い色だっただろうから、合唱と馴染んでいたのだろうけれど、俺のオルガン演奏だと、オルガンの色だけ別の絵の具で描かれたように馴染まない。これにはインシグニア嬢も、どうしたものかと口を曲げる。
まあ、そうなるよね。でも、オルガンだけ発色が良くなるのはおかしいと俺は思うのだ。だって歌声や楽器の音を乗せるマイクも、この大聖堂の魔導具だ。
「あの、そのマイク、ちょっと見せて頂いても?」
「? ええ、どうぞ?」
インシグニア嬢の許可を得て、スタンドマイクを観察する。マイクは普通のものに見える。高さ調節が出来、途中で横に曲げたりも出来る代物のようだ。ん? いや、足下が、
「これってペダルですか?」
「はい。これに魔力を乗せて踏むと、マイクが音を拡声させるんです」
んん? それって。俺はマイクのペダルを踏み踏みして、「あー、あー」と声を乗せる。…………ああ、やっぱりこれか。
「このマイク、ただ魔力を込めれば良いものじゃないですね」
「え?」
「今踏んで確認しましたが、強く踏むと多くの魔力が流れ、緩く踏むと魔力量もそれなりのようです」
「ええ~と、それって……」
「はい。どの楽曲にも緩急と言うものがありますから、拡声程度の魔力量を一定で流すのではなく、楽曲の緩急に合わせて、ペダルの操作も並行して行うのが、一番楽曲を際立たせるやり方かと」
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