88 / 103
ブチブチ
しおりを挟む
「おっ、出てきたな」
スフィアンの側近の一人が、貴賓室に備え付けられたパネルを使い、眼前のガラスがモニターに変わり、そこにフェイルーラが映し出される。
モニターにはその上部両端に対戦者の名前と魔力量を表すマジックバー。そして上部中央には600と言う数字が映し出されている。この600が対戦時間だ。つまり決闘者に与えられた対戦時間は600秒、10分である。もし10分以内に決着が付かなかった場合、どれ程怪我の度合いに差があろうとも、あと一撃で決着が付く瞬間であろうとも、その対戦は引き分けとなる。
モニターに映し出されたフェイルーラは、スフィアンと対面した時同様、ジャージにカンフージュースである。動き易くはあるが、防御力を考えると、とても貧弱と言わざるを得ない。
「あれで、闘えるのか?」
スフィアンはフェイルーラの対戦相手の格好を観る。剣は一般流通物、そして革のジャケットにズボンだ。これも一般流通物で、こちらも貧弱に見えるが、恐らくあれが魔物から剥ぎ取られた皮を鞣して作られたものだと、スフィアンでも分かる。
理由は革に魔力が流れているからだ。魔属精霊により魔物化された動植物は、元々の生態よりも魔力がより通り易く、より多く流れ易くなり、それだけで防御力が上がる。
対してフェイルーラのジャージは、本当にただのジャージだ。魔力を通す事は可能だが、魔物の革と比べるのも馬鹿らしい程、防御力は上がりはしない。
スフィアンは更に両者の魔力量を比較する。フェイルーラの1.5倍と言ったところか。騎士貴族であるなら並と言える魔力量だ。
「確か、フェイルーラは十二倍あるニドゥーク皇国の侍に勝ったとか聞いたが、本当か? 勝てるのか?」
1.5倍と言うのは、普通に剣や槍などの武器で対戦するとなると、これが結構な差となり、魔力量が少ない者が勝つには、相応の戦闘技術が求められる差である。
「あれくらいならすぐに終わりますから、目を離さず……、いえ、もう少しフェイルーラの位階が上がるまで、適当にザッピングでもしていた方が宜しいかと……」
スフィアンは、先程からジェンタールに落ち着きがない事に、疑問を抱いていた。ジェンタールは実直な性格で、いつも何があっても動じず、魔属精霊の討伐などではスフィアンの盾役となって、とても頼りがいがあると言うのがスフィアンの評価だ。
それが弟、特にフェイルーラの事となると、口籠る事が少なくない。まるでフェイルーラの事を語る事は、ヴァストドラゴン家の恥、いや、禁忌に触れるかのように。
「呼んだのは私だ。ならばこの目で確かめる義務があるだろう」
これに眉尻を下げるジェンタール。
「先程も申しましたが、陰惨な光景を目にする事になりますよ?」
「闘いとは、時に陰惨となるものだろう。これに興奮を抱く者が、この場に集まっているのだ」
スフィアンの言葉に、ジェンタールは嘆息を漏らす。
「殿下は、本当の陰惨と言うものをまだ見た事がないのです」
「何を馬鹿な。私だって、魔属精霊や魔物との戦闘で、部下が私を守る為に殺される場面や、力なき民草が蹂躙される様を見てきている。驚きなどせん」
これ以上言葉を交わしても、スフィアンの意思を変える事は無理だと判断したジェンタールは、頭を垂れて一歩引き下がる。願わくば、フェイルーラが真っ当に闘ってくれる事を望みながら。
ジェンタールが引いた事で、自然とスフィアンの視線はモニターへと戻る。するとフェイルーラの対戦相手はフェイルーラを見て嘲笑していた。それもそうだろう。とスフィアンでも理解出来る。これはフェイルーラの魔力量が少ないからではなく、ジャージを着ているからだ。
ここは闘技場だ。確かにジャージは動き易いが、闘技場に相応しい格好であるかと言えば、答えはノーだ。闘技場の決闘者たちは皆、一戦一戦に文字通り命懸け(仮)で臨んでいるのだ。フェイルーラのジャージ姿はそんな相手への侮辱と捉えられても不思議ではない。いや、侮辱と捉えられるのが常識なのだ。
『もう、闘い始めて良い?』
そんな嘲笑などまるで気にする様子もなく、フェイルーラは対戦相手に戦闘の有無を尋ねる。それはスフィアンには、夕餐のメニューを聞きに来た使用人に、あれが良い。と応える自身と被る、何とも気の抜けた様子であった。
『は、いつでも来いよ!』
対戦相手がそう発すると同時に、対戦相手が身に纏う革服に更に魔力が通り、硬度を上げる。
「は?」
それは自分の声だったのか、それともフェイルーラの対戦相手の声だったのか。信じられないものを突き付けられた。それがスフィアンの受けた衝撃だった。
『な、え……?』
自身に起きた事に驚く対戦相手。まるで街をブラつくようにこちらへ歩いてきたかと思ったら、魔力を通し硬くなった革のジャケットを、柔らかい草でも切り裂くかのように、更には身体強化した自身の胸を、肋骨の隙間を縫うように、フェイルーラのその右手刀が貫き、己の心臓を握り締めているのが分かったからだ。
ぐしゃり。心臓が握られれば、あとはそれが潰されるのは必定。心臓を握り潰された事で、対戦相手の全身から力が抜けていき、まるで糸の切れた操り人形の如く、カクンと崩折れ、フェイルーラが手を引き抜くと、ブチブチと言う音とともに、握り潰された心臓が、対戦相手の身体からもぎ取られ、対戦相手は何もする事叶わず、仰向けに倒れていきながら、既に息絶えたその身体は、倒れ伏す前にバトルフィールドから消滅するのだった。
「はあ……」
これに嘆息するジェンタール。これだから観たくなかったのだ。とジェンタールは眉間を揉みながら首を左右に振る。
(この調子だと、他の試合も同様に陰惨になるだろうなあ)
ジェンタールは、自身の前で豪奢な椅子に座りながら、一言も発する事が出来なくなったスフィアンを憐れむのだった。
スフィアンの側近の一人が、貴賓室に備え付けられたパネルを使い、眼前のガラスがモニターに変わり、そこにフェイルーラが映し出される。
モニターにはその上部両端に対戦者の名前と魔力量を表すマジックバー。そして上部中央には600と言う数字が映し出されている。この600が対戦時間だ。つまり決闘者に与えられた対戦時間は600秒、10分である。もし10分以内に決着が付かなかった場合、どれ程怪我の度合いに差があろうとも、あと一撃で決着が付く瞬間であろうとも、その対戦は引き分けとなる。
モニターに映し出されたフェイルーラは、スフィアンと対面した時同様、ジャージにカンフージュースである。動き易くはあるが、防御力を考えると、とても貧弱と言わざるを得ない。
「あれで、闘えるのか?」
スフィアンはフェイルーラの対戦相手の格好を観る。剣は一般流通物、そして革のジャケットにズボンだ。これも一般流通物で、こちらも貧弱に見えるが、恐らくあれが魔物から剥ぎ取られた皮を鞣して作られたものだと、スフィアンでも分かる。
理由は革に魔力が流れているからだ。魔属精霊により魔物化された動植物は、元々の生態よりも魔力がより通り易く、より多く流れ易くなり、それだけで防御力が上がる。
対してフェイルーラのジャージは、本当にただのジャージだ。魔力を通す事は可能だが、魔物の革と比べるのも馬鹿らしい程、防御力は上がりはしない。
スフィアンは更に両者の魔力量を比較する。フェイルーラの1.5倍と言ったところか。騎士貴族であるなら並と言える魔力量だ。
「確か、フェイルーラは十二倍あるニドゥーク皇国の侍に勝ったとか聞いたが、本当か? 勝てるのか?」
1.5倍と言うのは、普通に剣や槍などの武器で対戦するとなると、これが結構な差となり、魔力量が少ない者が勝つには、相応の戦闘技術が求められる差である。
「あれくらいならすぐに終わりますから、目を離さず……、いえ、もう少しフェイルーラの位階が上がるまで、適当にザッピングでもしていた方が宜しいかと……」
スフィアンは、先程からジェンタールに落ち着きがない事に、疑問を抱いていた。ジェンタールは実直な性格で、いつも何があっても動じず、魔属精霊の討伐などではスフィアンの盾役となって、とても頼りがいがあると言うのがスフィアンの評価だ。
それが弟、特にフェイルーラの事となると、口籠る事が少なくない。まるでフェイルーラの事を語る事は、ヴァストドラゴン家の恥、いや、禁忌に触れるかのように。
「呼んだのは私だ。ならばこの目で確かめる義務があるだろう」
これに眉尻を下げるジェンタール。
「先程も申しましたが、陰惨な光景を目にする事になりますよ?」
「闘いとは、時に陰惨となるものだろう。これに興奮を抱く者が、この場に集まっているのだ」
スフィアンの言葉に、ジェンタールは嘆息を漏らす。
「殿下は、本当の陰惨と言うものをまだ見た事がないのです」
「何を馬鹿な。私だって、魔属精霊や魔物との戦闘で、部下が私を守る為に殺される場面や、力なき民草が蹂躙される様を見てきている。驚きなどせん」
これ以上言葉を交わしても、スフィアンの意思を変える事は無理だと判断したジェンタールは、頭を垂れて一歩引き下がる。願わくば、フェイルーラが真っ当に闘ってくれる事を望みながら。
ジェンタールが引いた事で、自然とスフィアンの視線はモニターへと戻る。するとフェイルーラの対戦相手はフェイルーラを見て嘲笑していた。それもそうだろう。とスフィアンでも理解出来る。これはフェイルーラの魔力量が少ないからではなく、ジャージを着ているからだ。
ここは闘技場だ。確かにジャージは動き易いが、闘技場に相応しい格好であるかと言えば、答えはノーだ。闘技場の決闘者たちは皆、一戦一戦に文字通り命懸け(仮)で臨んでいるのだ。フェイルーラのジャージ姿はそんな相手への侮辱と捉えられても不思議ではない。いや、侮辱と捉えられるのが常識なのだ。
『もう、闘い始めて良い?』
そんな嘲笑などまるで気にする様子もなく、フェイルーラは対戦相手に戦闘の有無を尋ねる。それはスフィアンには、夕餐のメニューを聞きに来た使用人に、あれが良い。と応える自身と被る、何とも気の抜けた様子であった。
『は、いつでも来いよ!』
対戦相手がそう発すると同時に、対戦相手が身に纏う革服に更に魔力が通り、硬度を上げる。
「は?」
それは自分の声だったのか、それともフェイルーラの対戦相手の声だったのか。信じられないものを突き付けられた。それがスフィアンの受けた衝撃だった。
『な、え……?』
自身に起きた事に驚く対戦相手。まるで街をブラつくようにこちらへ歩いてきたかと思ったら、魔力を通し硬くなった革のジャケットを、柔らかい草でも切り裂くかのように、更には身体強化した自身の胸を、肋骨の隙間を縫うように、フェイルーラのその右手刀が貫き、己の心臓を握り締めているのが分かったからだ。
ぐしゃり。心臓が握られれば、あとはそれが潰されるのは必定。心臓を握り潰された事で、対戦相手の全身から力が抜けていき、まるで糸の切れた操り人形の如く、カクンと崩折れ、フェイルーラが手を引き抜くと、ブチブチと言う音とともに、握り潰された心臓が、対戦相手の身体からもぎ取られ、対戦相手は何もする事叶わず、仰向けに倒れていきながら、既に息絶えたその身体は、倒れ伏す前にバトルフィールドから消滅するのだった。
「はあ……」
これに嘆息するジェンタール。これだから観たくなかったのだ。とジェンタールは眉間を揉みながら首を左右に振る。
(この調子だと、他の試合も同様に陰惨になるだろうなあ)
ジェンタールは、自身の前で豪奢な椅子に座りながら、一言も発する事が出来なくなったスフィアンを憐れむのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
黄金の魔導書使い -でも、騒動は来ないで欲しいー
志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。
そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。
‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!!
これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。
「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる