世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
31 / 643

新たな出遭い

しおりを挟む
 何人も出入り出来ないとか、詰んだ。…………何人も?


「バヨネッタさんは結界を出入り出来るんですよね?」


「出来ないわよ。言ったでしょう? 何人も、って」


 そんな結界意味があるのか? ここで一生暮らすつもりなのだろうか? 俺は転移門があるからここから脱出して地球に帰れるが。などと思っていたら、


「何しているの? 行くわよ」


 と、バヨネッタさんに声を掛けられた。


 バヨネッタさんの方を振り向くと、扉があった。扉だけ。両開きの扉だ。その扉が開き、向こうが覗けた。扉の先は明らかにここじゃない場所だった。


 扉の先は、普通であれば同じ島の景色であるはずだが、俺に見えている景色は、町中のそれだ。だって人が往来しているし。


「何をボケーッとしているの? その脱出不能の島に置いてきぼりにされたいの?」


 言って手招きをするバヨネッタさんは、既に扉の向こうに立っていた。あの景色、幻術の類いではなさそうだ。俺は立ち上がると、恐る恐る扉を潜った。



 扉の先は大通りから一本路地に入ったような場所だった。建物は石積みの上に木と漆喰で建てられている。


 キョロキョロしてしまう俺を他所に、バヨネッタさんは扉を閉めると宝物庫に仕舞い、大通りの方へ歩きだした。俺も遅れないようにその後を付いていく。


「バヨネッタさん、ここはどこですか?」


「クーヨンよ」


 クーヨン? 確か船でも五日は掛かるとアニンは言っていたのに、それを一瞬で飛び越えてきたのか? これも魔法、あの扉の魔道具の力か。



 クーヨンの大通りは賑やかで、多くの人々が行き交っており、髪色や瞳の色、肌の色も様々で、服装も多彩だ。通りの両端では屋台が立ち並び、店主たちが街行く人々に「いらっしゃいいらっしゃい!」と元気に呼び込みしていた。大通りの向こうには帆船の帆も見える。向こうが港か。


 そんな大通りを、バヨネッタさんは脇目も振らず真っ直ぐ歩いていく。方向は港の反対。恐らく目的地は決まっているのだろう。



 バヨネッタさんの後をついていくと、大通りが終わり、住宅街に入った。恐らくここら辺は高級住宅地なのだろう。大通りの建物より、見るからにランクの高い庭付き一戸建てが、建ち並んでいる。


 そんな中をバヨネッタさんはズンズン突き進み、一軒の二階建ての邸宅の前で止まった。


「ここよ」


 ここよ、と言われても、ここがどこのどなたの家なのか、全く分からないんだけど。


 俺の心中を察してくれるバヨネッタさんではない。門を通り玄関までやって来たバヨネッタさんは、少々乱暴に玄関の扉に付けられているノッカーをノックした。


「オル。私よ。いるんでしょ?」


 バヨネッタさんの声に反応するように、開かれる玄関扉。中から顔を出したのは、メイドと言うよりお手伝いさんと言った感じのふくよかな女性だった。


「これはバヨネッタ様。ようこそお出でくださいました」


 バヨネッタさんに深々と頭を下げるお手伝いさん。


「アンリ、オルは?」


「オル様は毎度の如く自室で研究をなさっております」


「そう、すぐに呼んできなさい」


 勝手知ったる他人の家と言ったところか、バヨネッタさんはお手伝いさんにそう告げると、ズカズカと家の中に入り込み、応接室のソファに腰をおろした。


 応接室には高級そうな調度品や絵画が飾られ、下には細かな図形の描かれた絨毯が敷かれている。


「何してるの?」


 俺が立ち尽くしていると、バヨネッタさんはパンパンとソファの座面を叩いた。私の横に座りなさい。と言う事なのだろう。俺はそれに従い、バヨネッタさんの左隣に座る。ちょっと硬いソファだ。


 俺がソファに座るとすぐに、二階から階段を駆け下りてくる足音が響き、男性が応接室に入ってきた。


 細くてとても背の高い男性だった。水色のくせ毛で、瞳も水色。眼鏡を掛けている。服装はこれまた貴族と言った装いだが、上着は羽織っていなかった。


「ようこそお越しくださいましたバヨネッタ様。今回はどのような御用でしょうか?」


 お手伝いさんの主人であろうこの男性も、バヨネッタさんに対しては腰が低い。力関係で言えば、バヨネッタさんの方が上みたいだ。ちらりと俺の方を窺いはしたが、詮索はしなかった。何か言ってバヨネッタさんを怒らせたくなかったのだろう。まあ、それはそうだ。あの大蛇を一撃で倒す魔女とは、敵対したくない。


「ベルム島が見付かったわ」


 バヨネッタさんの言葉に驚き、一瞬息を飲む男性だったが、すぐに破顔した。


「それはおめでとうございます! それでは剣神アニンをその手中に収められたのですね?」


 男性の言葉に、バヨネッタさんは途端に嫌そうな顔になった。それを見せられ、男性の方も不安そうな顔になる。


「……なかったのですか?」


「あったわよ。ハルアキ」


 はいはい。アニンを見せれば良いのね。俺は腕輪になっていたアニンを黒剣へと変化させた。


「へえ、本当に剣だったのね」


 軽く驚くバヨネッタさん。そう言えばバヨネッタさんの前で黒剣モードは見せた事がなかったな。


「ふ~む。腕輪から剣に変化する真っ黒い剣ですか」


 男性は眼鏡に手を当て、目の前のアニンをじっくり観察している。


「剣だけじゃないわ。私が初めて見た時には、翼に変化していた」


「ほう? 翼にも?」


 とここで二人の視線が、アニンから俺に移る。説明しろって事か。


「アニンは剣や翼以外にも、槍や斧、盾なんかにも変化出来ます」


 男性の方は驚いているが、バヨネッタさんの方はあまり興味がなさそうだ。


「材質は何か分かっているのですか?」


 と男性。


「さあ? なんでしょう? 本人は自分の事を化神族と言っていますけど」


「化神族ですって!?」


 驚き声を上げるバヨネッタさん。男性の方は驚き過ぎて声も出ていない。


「やっぱり珍しい種族なんですね」


「珍しいなんてものじゃないわ。三千年以上前に滅んだと言われる幻の魔物よ。本によっては神の怒りの代行者とも、神を討つ者とも呼ばれていたわね」


 流石のバヨネッタさんも、身を乗り出して今一度アニンをマジマジと見ている。


「これが、本当に化神族なの?」


「本人の言なので俺には何とも言えません」


 考え込むバヨネッタさん。


「海賊ゼイランが暴れ回っていたのは、五百年程前の事。時代が合わないわ。となると、レプリカ? イミテーション?」


 そんな事俺に尋ねられてもなあ。


『失敬な魔女だな。三千年前であろうと、五百年前であろうと、現代であろうと、我がそれだけ長生きだと言うだけの話よ』


 アニンが話し始めた事に、驚くバヨネッタさんと男性。しかしそれが逆に興味をそそったのか、更にアニンを食い入るように見遣る。


「本当に化神族なの?」


『いかにも』


「それにしては強くなさそうね?」


『それはまだまだハルアキが弱いからだ。我の強さは契約者の強さによるからな』


 アニンの言に考え込むバヨネッタさん。


『どうした? 今更我が惜しくなったか? 魔女よ』


 アニンの言葉に、一瞬悔しそうな顔をしたバヨネッタさんだったが、すぐに不敵な笑みに変わる。


「あら、おかしな事を言うわね? ハルアキは私の従僕。従僕の剣なら私の剣も同然よ」


 それは流石に虚勢だと俺でも分かる。しかし従僕設定、まだ生きていたのか。お断りしたはずだが。


「おお、この少年、何者かと思っていましたが、従僕だったのですね?」


 と男性。良かったね。喉のつかえが取れたみたいで晴れ晴れとした顔だ。


「ハルアキよ。本人の言を信じるなら、異世界転移者だそうよ」


「異世界転移者……! ほう」


 男性の興味の対象がアニンから俺に移ったみたいだ。眼鏡の位置を直して俺の方をじっくり観察している。


「ハルアキ、この男はオル。とある国で貴族の三男坊として生まれ、今は研究者として色んな事をしているわ。私の活動の後援者の一人でもある」


 へえ、後援者ってパトロンって事?


「活動の後援って、宝探しのですか?」


「ああ。ふふっ、後援する意味なんてあるのか? って顔をしているね?」


 失礼。顔に出てましたか。


「意味はあるよ。例えバヨネッタ様の望む宝が見付からなかったとしても、そこで過去の失われた技術や魔法が発見されるかも知れない。それは研究者である僕にとっての宝だ」


 成程、ギブアンドテイクは成立しているのか。


「それに異世界からの転移者となると、聞きたい事が山程あるなあ」


 オルさんの眼鏡がキラリと光った。


「はは、学生なのでお手柔らかにお願いします」


「ほう? 学生とは中々の身分ではないか。これは質問のしがいがありそうだ」


 うげっ、失言だったか。


「さあさあ皆さん。お茶が入りましたよ。まずはお茶の時間としましょう」


 そこにお手伝いさんが入ってきて、ティータイムに突入したのだった。まあ、お茶の時間もオルさんから質問攻めだったが。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜

黒崎隼人
ファンタジー
物流倉庫で不良在庫の管理に追われるだけの42歳、窓際サラリーマンのタケシ。 ある日突然、彼は見知らぬ森の中へと転移してしまう。 彼に与えられたのは、地球で廃棄される運命にあったあらゆる物資を無尽蔵に引き出せる規格外のスキル「無限在庫処分」だった。 賞味期限間近のカップ麺、パッケージ変更で捨てられるレトルトカレー、そして型落ちの電動工具。 地球ではゴミとされるこれらの品々が、異世界では最強のチートアイテムと化す! 森で倒れていたエルフの少女リリアをカップ麺で救ったタケシは、領主の搾取によって滅亡寸前だった彼女の村を拠点とし、現代の物資と物流ノウハウを駆使して商会を立ち上げる。 美味しいご飯と圧倒的な利便性で異世界の人々の胃袋と生活を掴み、村は急速に発展。 さらには、深刻な食糧難で破綻寸前だった美少女魔王ルビア率いる魔王軍と「業務提携」を結び、最強の武力を物流の護衛として手に入れる! 剣も魔法も使わない。武器は段ボールと現代の知識だけ。 窓際おじさんが圧倒的な物量で悪徳領主の経済基盤をすり潰し、異世界の常識を塗り替えていく、痛快・異世界経営スローライフ、開幕!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...