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「ハルアキは、この地球の人間たちが、魔石から電力を生み出す研究をしているのを知っているわね?」


 俺は首肯した。まだ桂木が異世界調査隊で幅を利かせていた頃から、魔石の運用については色々研究されてきた。その中で、魔石から電力を作り、火力や水力、原子力とも違う新しい発電媒体として、魔石は注目されている。


「アサノからの情報提供と、キッコたちの研究によると、逆に電磁力を魔石に与える事によって、魔力に変換が可能だと分かったのよ」


「電磁力、ですか」


 俺の呟きに対して首肯するバヨネッタさん。


「つまりこの飛空艇には強力な電池と磁石が搭載されているんですね」


「ええ。それによって電磁力を生み、それを魔力に変換し、この飛空艇を動かす三十個の人工坩堝に魔力を供給しているのよ」


「う~ん? 魔石がある訳ですし、百パーセント魔力でも良かったのでは?」


 しかし俺の答えにバヨネッタさんは首を左右に振る。


「もしも敵に魔力を封じられたらどうするの?」


 ああ、そうか。そんな事されたらあっという間に墜落してしまう。


「魔電ハイブリッドバッテリーのある区画には、元々強力な結界が何重にも張ってあるから、そうそう魔力を封じられる事はないでしょうけれど、それでも絶対ではないわ。そこをこのバッテリーなら、魔力を断たれてもすぐに電池から電磁力を送って魔力を作り出す事が可能なの。たとえ空中で魔力を断たれても、すぐに復旧して、墜落を防げるわ」


 成程ねえ。


「それにこの飛空艇には家電も搭載しているから、普通に電力も必要なのよ」


「家電、ですか?」


「冷蔵庫とかエアコンとか」


 バヨネッタさんが地球の便利家電に毒されている。


「お陰でサングリッター・スローンごと宇宙に放り出されても、一ヶ月は快適に過ごせるわよ」


「わー、凄いですねー」


 思わず棒読みになっちゃったよ。この飛空艇、宇宙にまで行けるのか。それはもう宇宙船なのでは? いや、浅野から提供された情報を加味して建造されたのなら、宇宙船のようになるのも必然か。


「お陰で高品質の魔石が大量に必要だけれど」


 とバヨネッタさんが愚痴をこぼす。


「でも、これだけ大きいと、運用に困りませんか? 置く場所に困ると言うか。そりゃあ、普段は異空間のガレージに格納していれば良いでしょうけど。出し入れの時とか。狭い道とか、街中とか」


「ふふ。そこにも手抜かりはないわ」


 そうなんだ。


「来なさい」


 と立ち上がったバヨネッタさんは、サングリッター・スローンの鍵を引き抜き、それを持って操縦室を出る。俺は後に続いた。



 やって来たのは入口の扉の反対側だ。一枚のドアがあり、バヨネッタさんが前に立つとドアが自動で開いた。


「これは……、サイドカー?」


 そこは小型の格納庫となっており、そこに一台のサイドカー、自動二輪に側車と呼ばれるもう一台の車体が取り付けられたバイクが納められていた。もちろん色は金色で豪奢な装飾が施されている。それでいて未来的だ。


 その自動二輪の方に鍵をセットするバヨネッタさん。成程、これである程度狭い場所でも移動可能か。なんか先頭に銃口の付いたサイドカーに進化したな。でもなんでサイドカー?


「何を呆けているの? 座りなさい。ついでにこのツヴァイリッターの方も試しましょう」


 なんでドイツ語? 格好良いから? 格好良いからなの? とは思ったが、そこはスルーし、バヨネッタさんが言う通り、俺はそそくさと側車の方に乗ろうとしたのだが、


「なんでそっちに行くのよ? そっちは私の席よ」


 との事。え? 俺がバイク運転するの? 免許持っていませんけど?


「大丈夫よ。リコピンの補助があるから」


 バヨネッタさんは俺の不安を言い当てると、笑い飛ばして格納庫の反対側の入口を開ける。そこには開けた真っ白の空間があり、バイクが出やすいようにスロープがせり出した。


「行くわよ」


 いつの間にかバヨネッタさんは側車に座っており、俺はバイクの方に跨がる事になった。その瞬間、ピリリと電流が身体に流れた。


『ハルアキ』


 アニンの言葉に俺は無言で頷き、バヨネッタさんの方を見遣る。


「今のが、ガイツクールリンクシステムによる、ガイツクール同士の接続よ」


「ガイツクールリンクシステム、ですか?」


 次から次へと、驚かされる事ばかりだ。


「名前からすると、うちのアニンとバヨネッタさんのリコピンがリンクした。って事で良いですかね?」


『そうなるわね』


 と念話でバヨネッタさんが語り掛けてくる。マジかー。


『これによってガイツクールの能力を相乗させる事が可能なんですって』


『これも魔法科学研究所の研究成果ですか?』


『ええ』


 改めて凄えな、魔法科学研究所。


『さあ、ぼさっとしていないで、このバイクの試運転をするわよ』


 のりのりなバヨネッタさんに促され、俺はバイクのハンドルを握る。不思議と運転する事に不安はない。何故なら、リコピンから運転するのに必要な感覚情報が送られてきているからだ。


 俺が右手のハンドルをひねると、バイクのモーターが回転を始める。普通のバイクは左手のクラッチレバーを握ったり、足元のチェンジペダルを押し下げたり、必要な事が結構あったはず。って言うか、


「このバイクのモーター、人工坩堝ですよね?」


「そうよ。車軸に人工坩堝を搭載しているの」


 この人は事もなげに。バイクと鍵だけで人工坩堝二つ、いや三つかあ。俺は内心気を引き締めて、スロープからゆっくりと外に出ると、静かなモーターの回転を感じながら、ゆっくりゆっくりサングリッター・スローンの周りを一周した。


「ゆっくり過ぎるわよ」


「分かってますよ」


 俺が徐々に右手をひねれば、バイクはその速度を増していく。


『良いわね! このままどんどん調子を上げていきましょう!』


 速度が増してきて、普通なら風切り音でバヨネッタさんの声が聞き取り難くなる中、念話によってハッキリ聞こえてくる。俺はバヨネッタさんの指示に従って、バイクを右へ左へと動かしてみせる。それでも車体が安定して走行出来ているのは、リコピンによる補助のお陰だろう。


『さあ! 次は飛ぶわよ!』


『と、飛ぶ!?』


 などと俺が動揺している間に、リコピンによりバイクが宙に浮き上がる。


『やっぱり魔女の乗り物は空を飛ばないとね』


 などと空中から何もない空間を眺め悦に入るバヨネッタさん。そんなバヨネッタさんの趣向に嘆息しながらも、俺たちは空飛ぶサイドカーで、しばし空のツーリングを満喫するのだった。

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