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対亡霊女戦士(前編)

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 七人に分裂したエルデタータ。


「『分体』ですか。それにしてはレベルがマチマチですね」


 最初は『鑑定(低)』で見てもステータスが『?』だったのが、今俺の前にいるエルデタータのステータスは見える。それだけでなく、武田さん、カッテナさん、ダイザーロくんの前にいるエルデタータのステータスもだ。しかしバヨネッタさん、ミカリー卿、デムレイさんの前にいるエルデタータのステータスは見えない。理由は簡単で、エルデタータのレベルが眼前の相手と同じレベルだからだ。その為に俺よりレベルの高いバヨネッタさんたちと同等だろうエルデタータのステータスは見えないのだ。


「それはスキル『鏡位』の特性だ。これはレベルを相手と同じレベルにする事が出来るんだ」


「それは! …………相手は馬鹿なんですか!?」


「馬鹿だ!」


 断言する武田さん。だってそうだろう。先程までの異様な闘気が今は感じられない。いや、ミカリー卿の前のエルデタータからは感じるが、それだけだ。と言う事は、分裂前のエルデタータの『鏡位』は、俺たちをパーティとして認識し、その合算したレベルだったのだ。だとすればレベル三百近く行っていたとしてもおかしくない。エルデタータ一人で魔王が倒せるな。


「酷い言われようだな。これが私の戦士道の矜持なのだが」


 そう言い返してくるエルデタータ。分体化したと言うのに、尊大な態度が変わらないと言う事は、己に勝機があるとの自信だろう。そうなると気になるスキルがある。


「武田さん、あの『魔技複写』ってスキルは?」


「そのまんまだよ。あれで相手のギフト以外のスキル、プレイヤースキルをコピーするんだ」


「はあ!? 戦士道どこに行ったんだよ!?」


「己に打ち勝ってこその戦士道だ」


 エルデタータも、上手い事言ってやった。みたいな顔してんじゃねえよ!


 さて、どうしたものかと俺の前に立つエルデタータのステータスを見遣るに、HPやMP、耐久値や精神値みたいなステータスはエルデタータ自身準拠のようだ。エルデタータ自身は膂力、耐久、敏捷が高いので、MPよりHPのほうが高い。そして武田さんが言っていたように、ギフトである『清浄星』や『超時空操作』は使えないようだが、俺の場合、相手が『有頂天』を使えるのがヤバい。ヤバ過ぎる。


 それに武田さんの前のエルデタータが『空織』と『転置』を持っているのもヤバいし、そうなると、ミカリー卿の相手をするエルデタータは、『不老』のユニークスキルを持っている事になる。本当にヤバ過ぎる。


「これ、どれか一体倒したら、他の分体が消える。みたいな事ないですよね?」


「ない。救いはエルデタータが自己中心的な戦士道に即して、倒された分体を補充しないくらいだ」


 成程。本来なら倒した分体を、残った分体が補充したりするのか。ヤベエ。こいつが一番弱いとか、アルティニン廟ヤバ過ぎでしょ。


「どうするんだ? 話し合っても良いが? それとも帰って戦略を練るか? 戦力を増やすか?」


 エルデタータが、わざとらしく心配しているふりをしてくる。


「ちなみに、戦う相手を変えると言うのは?」


「己の前にいる私を倒せたなら構わんよ」


 あくまで眼前のエルデタータを倒してから、他の加勢に向かえって事か。ふう。と俺は一息吐いて、仲間と目配せする。どうやら皆やる気のようだ。ここが地下二十一階ならば、二十階に戻ってワープゲートで地上に戻る選択肢もあるが、まだ地下十階だ。そんなの単に手間が増えるだけ。ここは倒して突破させて貰おう。


「せっかく広いフロアを用意して頂いたんですから、広く使いましょうか」


 俺の言に皆首肯して、同士討ちにならないよう、バラけて行く面々。その間に俺はアニンをバトルスーツに変化させ、右手には黒い曲剣を持つ。そして『有頂天』状態へ。


「フフ。気になっていたのだ。お主のステータスに記載されている、化神族との融合。私では再現出来ぬからな」


 言いながら、エルデタータは夢幻香も使わずに『有頂天』状態となった。


「マジかよ」


「マジだ。だって夢中になれば良いのだろう? なら私はお主との戦いに夢中だよ」


 ああ、そうですか。全く嬉しくないな。


『気を抜くなよ、ハルアキ』


 分かっているよ。と俺がアニンに返事をした次の瞬間には、エルデタータはこちらへ一足飛びで近付いていた。速い!


 ドンッ!


 エルデタータが横薙ぎに振り回した戦鎚を、とっさにアニンを盾に変化させて受け止めるも、踏ん張りさえ利かずに吹っ飛ばされる俺。


『気を抜くなと言っただろう!』


「『反撃』持っている奴が、自分から攻撃してくるとは思わないだろう」


『『鑑定(低)』でエルデタータのステータスを見ただろう? あいつはHPの高い肉体戦闘タイプだ。反撃の機会なんて待たずにガンガン攻めてくるぞ』


 それならそうだと先に教えておいて欲しかったよ。と俺は『時間操作』タイプBで自分の速度を上げて、エルデタータが接近して上から振り下ろした次撃を避けた。


 ズドンッ!!


 床面にちょっとしたクレーターが出来る。威力が初撃と段違いだ。


『『重拳』を使ってきたな』


 あの重そうな戦鎚に『重拳』って、相性良さそうだねえ。などと少し思考する間に、距離を詰めてくるエルデタータ。その攻撃をバックステップで躱す。


「その独特の機動。『超時空操作』だな?」


「ギフトを使うのをズルいとは言わないよな?」


「ああ、問題ない、よ!」


 とエルデタータが手でおいでおいでしたら、俺の身体が見えない力によって、エルデタータに引っ張られた。まさしくエルデタータが重力の中心であるように。そしてエルデタータの前まで強制連行された俺に向かって、エルデタータは戦鎚を振り下ろすのだ。この魔物、俺より『重拳』の扱いが上手え。

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