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第三章 君に触れたい
君に触れたい②
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羽音は不審な動きでキョロキョロと辺りを見渡す。その場に瑞稀がいないかを確認し、いないとわかった瞬間に大きな溜息をつく。
「よかった……」
もう何日もそんな事の繰り返しだ。お陰で、食事もゆっくり食べられないし、いつも瑞稀の存在に怯えながら過ごしている。
カチャン。
羽音が体を丸めた瞬間、キャソックのポケットの中にある水晶玉と小瓶がぶつかる音が小さく響いた。
その音を聞いて、思わず水晶玉に指先が伸びる。熱を帯びてきてはいないかと、確かめる癖がついてしまっていた。
瑞稀の存在を感じた時に、いつも水晶玉が熱くなる。なぜそんなことが起こるのか、いまだに謎ではあったが、熱を帯びる水晶玉は羽音にとっては一種の恐怖だった。全身の血の気が引いていくほどの。だからこそ、冷たい水晶玉を肌に感じることができれば、ホッとするのだ。
「大丈夫……うん……」
……それなのに。瑞稀の全てが恋しくて、胸が張り裂けそうになる。気が付けば、羽音はいつも瑞稀のことばかり考えていた。
少し項垂れたまま、羽音が歩を進めていると、ふと鼻腔をくすぐる匂いに気がついてすぐさまに足を止めた。花の香りだ。
待ち焦がれていたのか危険を察知しているのか。自分の咄嗟の反応が、どういった意味のものなのかも判別できないまま、羽音の視界に瑞稀の姿が入ってくる。
「……あ……」
そんな羽音に気付いたのか、少し離れた場所で瑞稀も立ち止まった。久しぶりに見る瑞稀の姿に、胸が甘く疼くのを感じる。
その瞬間、瑞稀がフワリと微笑んだ。まるで冬の陽だまりのように。でもその顔は、笑っているはずなのに、羽音には泣いているように見えた。そんな表情も一瞬のうちで、瑞稀は他の生徒と共に、角を曲がっていき姿はすぐに見えなくなる。花の香りも遠ざかっていくばかりで、羽音は全身の緊張が、どっと抜けていくのを感じた。
決して交わることが許されない『自分』と『瑞稀』。
それでも、会いたくて恋しくて、触れたくて、触れて欲しくて……羽音は、相反する感情に心を掻き乱された。
ある日の放課後。
普段、この時間に瑞稀がよくいる場所は校庭だ。
校庭ではサッカーやバスケットをして、友人と遊んでいた。ただ、渡り廊下からでしか、そんな姿を見ることはできない。渡り廊下までは、花の香りは届かなかったから。
それから、図書館にいることも多かった。
図書館で分厚い本をペラペラめくりながら、勉強をしている姿をよく見かける。そんな彼の周りには、明らかにチラチラと瑞稀を盗み見る生徒で溢れていた。
そんな瑞稀を、羽音も他の生徒と同じように、遠くから見つめることしかできない。いつからか、羽音は瑞稀に触れたい……そう思うようになっていた。あの甘い夜から、一体どれぐらい経っただろうか。
瑞稀の柔らかくて温かい唇に、蜂蜜みたいに甘い唾液。名残惜しそうに唇同士が触れて離れていく音が、鼓膜を震わせるのだ。熱い舌に口内を犯されて、どんどん息が苦しくなって。舌を絡め合う卑猥な水音が響き渡る頃には、羽音は蕩けきってしまう。
あんなに幸せで、満ち足りた時間を忘れられるはずなどない。
この感情がなんなのかなんて、瑞稀のように恋だの愛だの、はっきりと口に出せる性格ではない羽音にはわからない。それも仕方ない。未だかつて、羽音は恋をしたことなどないのだから。だから戸惑っていたし、怖かった。
そんな気持ちを抱えながら、その日も羽音は、瑞稀に近づくことはなかった。
「よかった……」
もう何日もそんな事の繰り返しだ。お陰で、食事もゆっくり食べられないし、いつも瑞稀の存在に怯えながら過ごしている。
カチャン。
羽音が体を丸めた瞬間、キャソックのポケットの中にある水晶玉と小瓶がぶつかる音が小さく響いた。
その音を聞いて、思わず水晶玉に指先が伸びる。熱を帯びてきてはいないかと、確かめる癖がついてしまっていた。
瑞稀の存在を感じた時に、いつも水晶玉が熱くなる。なぜそんなことが起こるのか、いまだに謎ではあったが、熱を帯びる水晶玉は羽音にとっては一種の恐怖だった。全身の血の気が引いていくほどの。だからこそ、冷たい水晶玉を肌に感じることができれば、ホッとするのだ。
「大丈夫……うん……」
……それなのに。瑞稀の全てが恋しくて、胸が張り裂けそうになる。気が付けば、羽音はいつも瑞稀のことばかり考えていた。
少し項垂れたまま、羽音が歩を進めていると、ふと鼻腔をくすぐる匂いに気がついてすぐさまに足を止めた。花の香りだ。
待ち焦がれていたのか危険を察知しているのか。自分の咄嗟の反応が、どういった意味のものなのかも判別できないまま、羽音の視界に瑞稀の姿が入ってくる。
「……あ……」
そんな羽音に気付いたのか、少し離れた場所で瑞稀も立ち止まった。久しぶりに見る瑞稀の姿に、胸が甘く疼くのを感じる。
その瞬間、瑞稀がフワリと微笑んだ。まるで冬の陽だまりのように。でもその顔は、笑っているはずなのに、羽音には泣いているように見えた。そんな表情も一瞬のうちで、瑞稀は他の生徒と共に、角を曲がっていき姿はすぐに見えなくなる。花の香りも遠ざかっていくばかりで、羽音は全身の緊張が、どっと抜けていくのを感じた。
決して交わることが許されない『自分』と『瑞稀』。
それでも、会いたくて恋しくて、触れたくて、触れて欲しくて……羽音は、相反する感情に心を掻き乱された。
ある日の放課後。
普段、この時間に瑞稀がよくいる場所は校庭だ。
校庭ではサッカーやバスケットをして、友人と遊んでいた。ただ、渡り廊下からでしか、そんな姿を見ることはできない。渡り廊下までは、花の香りは届かなかったから。
それから、図書館にいることも多かった。
図書館で分厚い本をペラペラめくりながら、勉強をしている姿をよく見かける。そんな彼の周りには、明らかにチラチラと瑞稀を盗み見る生徒で溢れていた。
そんな瑞稀を、羽音も他の生徒と同じように、遠くから見つめることしかできない。いつからか、羽音は瑞稀に触れたい……そう思うようになっていた。あの甘い夜から、一体どれぐらい経っただろうか。
瑞稀の柔らかくて温かい唇に、蜂蜜みたいに甘い唾液。名残惜しそうに唇同士が触れて離れていく音が、鼓膜を震わせるのだ。熱い舌に口内を犯されて、どんどん息が苦しくなって。舌を絡め合う卑猥な水音が響き渡る頃には、羽音は蕩けきってしまう。
あんなに幸せで、満ち足りた時間を忘れられるはずなどない。
この感情がなんなのかなんて、瑞稀のように恋だの愛だの、はっきりと口に出せる性格ではない羽音にはわからない。それも仕方ない。未だかつて、羽音は恋をしたことなどないのだから。だから戸惑っていたし、怖かった。
そんな気持ちを抱えながら、その日も羽音は、瑞稀に近づくことはなかった。
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