天使と悪魔が恋に堕ちて

舞々

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第三章 君に触れたい

君に触れたい⑤

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「今日は、あの綺麗な片羽は出ないんですか?」
「……羽……?」
「そう。あの雪みたいに真っ白な、大きな羽です」 
 瑞稀が意地悪く羽音の背中を撫で回す。その刺激に、羽音は背中を仰け反らせた。


「また見てみたい……あの純白の片羽を。あの日の貴方は、本当に綺麗だった」
 また吸い寄せられるように重なる、唇と唇。羽音は夢中で瑞稀にしがみつき、口付けを交わす。そんな羽音を、瑞稀は強く抱き締めてくれた。
 あまりにも激しいキスに、羽音はクラクラと目眩がしてくる。


 こんな図書館で何をやっているんだろうと、残された冷静な羽音が警笛を鳴らしている。誰かに見つかったら、本当に洒落にならない。自分も瑞稀も、もうこの学園にはいられないだろう。
「でも、でも……」
 焦らしに焦らされた羽音の体は熱く火照り、切なさのあまりに涙がボロボロと溢れ出す。


「このままじゃ体が切ない……。でも、僕はどうしたらいいわからない。だから……」
「だから?」
「お願い。どうしたらいいか教えてほしい……」
「羽音……」
「瑞稀と、もっと気持ち良くなりたい……」
 羽音は頬を紅潮させ、潤んだ瞳で瑞稀の顔を覗き込む。そんな羽音を見た瑞稀が頬を緩めた。


「キスをし過ぎてサクランボのように赤い唇に、乱れた呼吸。はだけた洋服からは、綺麗に浮き出た鎖骨……。そんなあられのない姿は、俺を欲情させるには十分過ぎる程の艶っぽさだ」
「……そんな、恥ずかしい……」
 戸惑いを隠せない表情をしながらも、羽音は既に熱くなっている瑞稀の手を強く握り締める。


「お願い……瑞稀……どうしたらいい? 教えて?」
「羽音……そんな事言われても、俺だってどうしたらいいか……」
 瑞稀が顔を真っ赤にしながら、片手で口元を覆う。いつもは余裕に満ち溢れたその顔に、明らかに動揺が浮かんでいた。
 瑞稀の傍にいると、少しずつ優等生としての鍍金が剥がれて、本能が剥き出しになっていくのがわかる。羽音は、それが少しだけ怖かった。
「羽音……めちゃくちゃエロくて可愛い……」
 瑞稀が頬を撫でてくれことが気持ちよくて、羽音は思わずその手に頬擦りをする。大きくて温かい手。羽音は、この手が大好きだった。


「じゃあ羽音。こっちに来て」
「え?」
 羽音はグイッと瑞稀に腰を抱かれると、綺麗に整列して並べられているテーブルにそっと横たえられる。
「もっといっぱいキスしよう。ほら……」
「ちょ……ちょっと瑞稀……あん、あ、はぁ」
 二人は夢中でキスをした。何度口付けを交わしても、満足なんてできない。
 時々遠慮がちに羽音の体を這う瑞稀の指が擽ったくて、「んッ」と甘ったるい声が口から洩れる。


「可愛い」
 自分を愛しそうに見つめながら微笑む瑞稀の表情に、羽音は欲深い疼き以上の、愛情を感じていた。
 羽音の熱に魘されたかのように潤んだ瞳からは、ハラハラと宝石みたいな涙が溢れ出し、頬もほんのりと紅く染まっている。瑞稀の唾液にまみれた唇は卑猥に輝き、生糸のような銀色の髪が、汗で額に張り付いた。


「羽音、綺麗。やっぱり貴方は天使だ」
 瑞稀がうっとりと溜息をついた。
「瑞稀、瑞稀……」
「羽音、キス気持ちいい?」
「うん、気持ちいい……瑞稀は? 瑞稀も気持ちいい?」
「俺も……気持ちいいよ」
 今更ながら照れくさくなってしまい、二人で顔を見合わせて微笑んだ。


「……ん?」
「え?」
 その時、突然瑞稀が眉を顰め振り返る。瑞稀は目を凝らして暗闇を凝視しているが、彼が見つめる先は暗闇が広がっていて羽音には何も見えない。突然どうしたのだろうと不安に駆られた羽音は、そっと瑞稀に問い返した。
「瑞稀、どうしたの?」
「……いや、誰かの気配を感じたのですが……。俺の気のせいだったようです。それより羽音、大丈夫ですか?」
 瑞稀は羽音の顔を両手で包み込んで自分の方を向かせたけれど、羽音はトロトロに蕩けきってしまっていて……恥ずかしくて視線を逸らした。


「大……丈夫……です」
「ふふっ。全然大丈夫そうに見えないんですが?」
「少しだけこのままでいてください。気持ちいい余韻から、抜け出せなくて……」
「本当に貴方って人は……」
 そんな甘い時間を過ごしていた二人には、気付く余裕なんて全く無かった。そもそもこんな時間に、他の生徒が図書館にいるなんて思いもしなかったのだ。


「エッロ……」
 そんな二人をジッと見つめていた人物が、ポツリと呟いた。
「あの容姿端麗、成績優秀……みんなの憧れの的の生徒会長様が、こんな所で男とあんなエロいことを……」
 その人物は、形のいい唇を歪めてクスクス笑っている。


「これは、面白いことになりそうだ」
 まるで悪魔のように冷淡な笑みを浮かべて。
 しかし、幸せの余韻に浸る羽音は、そんな事など全く知る由もなかった。
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