14 / 61
第四章 交わってはいけない二人
交わってはいけない二人①
しおりを挟む
いつの間にか、羽音は瑞稀に抱き締められたまま眠っていた。羽音は慣れないキスの連続に疲れ果ててしまい、その後の記憶がない。
「ああ……可愛いなぁ」
うつらうつらと微睡みながら、羽音は優しい瑞稀の声を聞いた。
「羽音。起きてください」
「んんっ」
瑞稀に耳元で囁かれれば、くすぐったくて思わず体が震えた。
「起きて。もうすぐ夕食の時間が終わってしまいます」
「夕食……?」
「はい」
羽音が大きな目を擦りながら顔を上げると、至近距離で瑞稀と視線が絡み合う。その瞬間、羽音の顔が真っ赤になった。
「…………⁉」
つい先程までの自分の乱れた姿が、鮮明に思い起こされたのだ。瑞稀の唇に狂わされ、淫らに喘いで意識を失った、そんな姿を……。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……です……」
羽音は顔から火が出そうになり、まともに瑞稀の顔さえ見ることができない。瑞稀の腕の中から逃げ出そうと身じろぎした瞬間、
「離れようとしないでください」
そう呟いた瑞稀に、腕の中へと引き戻されてしまった。
再び瑞稀の腕の中に囚われてしまった羽音は、気まずさのあまり目をギュッと閉じた。つい先程まで、あんな行為をしていた自分が恥ずかしくて仕方ない。一体自分達は図書館でなんてことをしていたのだろうか。
「もしかして恥ずかしいんですか?」
「……はい。恥ずかしくて死んでしまいそうです……」
素直にコクンと首を縦に振る羽音。今どんな嘘をついて強がったところで、こんな傍にいれば飛び出してしまいそうな程高鳴る心音も、熱を帯びて仕方ない頬も、きっと瑞稀にはバレてしまっているだろう。
それでも、緊張から体を硬くする羽音と同じくらい、瑞稀の心臓もドキドキと鼓動を打っているのが伝わってきた。
「大丈夫。僕も恥ずかしいです。聞こえるでしょ? 心臓がドキドキいってるの」
「はい。聞こえます」
照れくさそうに笑う瑞稀に、羽音は何だかホッとしてしまう。
「羽音、貴方は本当に可愛らしい人です」
「僕は男です。可愛いはずなんてありません」
可愛いなどと面と向かって言われた羽音が、林檎のように顔を真っ赤にしながら思わず顔を背ければ、瑞稀はクスクス笑っている。
「いいえ。貴方は可愛らしいです」
瑞稀はうっとりと微笑みながら、羽音の頬を両手で包みこんで、コツンと額と額をくっつけた。
「僕にとって、貴方は天使です」
「……天使……?」
「そう。天使です」
──違う。僕は、天使なんかじゃない。
まるで、今の自分は瑞稀を騙しているように思えて、羽音の胸は何かに抉られたかのように痛んだ。
それでも瑞稀の傍にいたい羽音は、その真実を喉の辺りで咀嚼して、無理矢理心の奥底に飲み込んでしまう。
まだ自分さえも思い出せていない、自分の本当の姿は……もしかしたら天使などとは程遠い正体かもしれない。自分の本当の姿を知った瞬間、瑞稀は自分の元を去っていってしまうかもしれない。羽音は、それが何よりも怖かった。ならば、例え瑞稀の前だけでも姿を偽り、天使で居続けたいと思ってしまう。
それは、真実を欺くという罪悪感と、紙一重の感情だった。
「羽音……明日もこの時間に、図書館に来てくれますか?」
「え? 明日も?」
「はい。俺は、羽音と一緒にいたいです」
普段はとても大人びて見える瑞稀の子供のような表情を見れば、羽音に拒絶などできるはずはなかった。
「わかりました。また明日……ここに来ます」
顔を真っ赤にして、俯いたまま呟けば、
「本当ですか? 嬉しい……本当に嬉しいです」
瑞稀がホッとしたように笑いながら、もう一度優しいキスをくれた。
「ああ……可愛いなぁ」
うつらうつらと微睡みながら、羽音は優しい瑞稀の声を聞いた。
「羽音。起きてください」
「んんっ」
瑞稀に耳元で囁かれれば、くすぐったくて思わず体が震えた。
「起きて。もうすぐ夕食の時間が終わってしまいます」
「夕食……?」
「はい」
羽音が大きな目を擦りながら顔を上げると、至近距離で瑞稀と視線が絡み合う。その瞬間、羽音の顔が真っ赤になった。
「…………⁉」
つい先程までの自分の乱れた姿が、鮮明に思い起こされたのだ。瑞稀の唇に狂わされ、淫らに喘いで意識を失った、そんな姿を……。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……です……」
羽音は顔から火が出そうになり、まともに瑞稀の顔さえ見ることができない。瑞稀の腕の中から逃げ出そうと身じろぎした瞬間、
「離れようとしないでください」
そう呟いた瑞稀に、腕の中へと引き戻されてしまった。
再び瑞稀の腕の中に囚われてしまった羽音は、気まずさのあまり目をギュッと閉じた。つい先程まで、あんな行為をしていた自分が恥ずかしくて仕方ない。一体自分達は図書館でなんてことをしていたのだろうか。
「もしかして恥ずかしいんですか?」
「……はい。恥ずかしくて死んでしまいそうです……」
素直にコクンと首を縦に振る羽音。今どんな嘘をついて強がったところで、こんな傍にいれば飛び出してしまいそうな程高鳴る心音も、熱を帯びて仕方ない頬も、きっと瑞稀にはバレてしまっているだろう。
それでも、緊張から体を硬くする羽音と同じくらい、瑞稀の心臓もドキドキと鼓動を打っているのが伝わってきた。
「大丈夫。僕も恥ずかしいです。聞こえるでしょ? 心臓がドキドキいってるの」
「はい。聞こえます」
照れくさそうに笑う瑞稀に、羽音は何だかホッとしてしまう。
「羽音、貴方は本当に可愛らしい人です」
「僕は男です。可愛いはずなんてありません」
可愛いなどと面と向かって言われた羽音が、林檎のように顔を真っ赤にしながら思わず顔を背ければ、瑞稀はクスクス笑っている。
「いいえ。貴方は可愛らしいです」
瑞稀はうっとりと微笑みながら、羽音の頬を両手で包みこんで、コツンと額と額をくっつけた。
「僕にとって、貴方は天使です」
「……天使……?」
「そう。天使です」
──違う。僕は、天使なんかじゃない。
まるで、今の自分は瑞稀を騙しているように思えて、羽音の胸は何かに抉られたかのように痛んだ。
それでも瑞稀の傍にいたい羽音は、その真実を喉の辺りで咀嚼して、無理矢理心の奥底に飲み込んでしまう。
まだ自分さえも思い出せていない、自分の本当の姿は……もしかしたら天使などとは程遠い正体かもしれない。自分の本当の姿を知った瞬間、瑞稀は自分の元を去っていってしまうかもしれない。羽音は、それが何よりも怖かった。ならば、例え瑞稀の前だけでも姿を偽り、天使で居続けたいと思ってしまう。
それは、真実を欺くという罪悪感と、紙一重の感情だった。
「羽音……明日もこの時間に、図書館に来てくれますか?」
「え? 明日も?」
「はい。俺は、羽音と一緒にいたいです」
普段はとても大人びて見える瑞稀の子供のような表情を見れば、羽音に拒絶などできるはずはなかった。
「わかりました。また明日……ここに来ます」
顔を真っ赤にして、俯いたまま呟けば、
「本当ですか? 嬉しい……本当に嬉しいです」
瑞稀がホッとしたように笑いながら、もう一度優しいキスをくれた。
4
あなたにおすすめの小説
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる