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第五章 ウェディングドレス
ウェディングドレス②
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一日の授業終了を知らせる鐘が、学園中に響き渡る。
羽音は慌てて荷物をまとめて、教室を後にした。普段は規則を守って歩いていた廊下を、今日は全速力で走り抜ける。
「ハァハァ……」
どんどん息が上がってくるけど、羽音は走り続けた。
校舎から出れば、ヒラヒラと再び雪が舞い降り始めている。羽音の吐く息は白く染まり、空へと上っていった。羽音の額に落ちた雪が、音も無く消えていく。
薔薇園は、羽音が大好きな教会のすぐ脇にある。そこには、四季折々の薔薇が咲き乱れ、いつも甘い香りに包まれていた。
キリスト教では、薔薇は棘があることから『邪悪な花』として忌み嫌われていた。しかし、現在では『気高い楽園の花』へと、考えそのものが変わってきている。赤薔薇は殉教者の血を象徴し、白薔薇は聖母マリアの純潔のシンボルとされているのだ。
ミセス・サラも薔薇が大好きで、いつも薔薇園を訪れてはお茶会を楽しんでいた。
薔薇園に近づいていくと、薔薇の神々しい香りがより濃くなってくる。こんな冬にも、薔薇が咲くなんて……羽音は不思議でならない。
そんな薔薇の香りさえもかき消してしまう程の甘ったるい香りに、羽音は眉を顰めた。薔薇の花とは全く違う、むせ返るような甘ったるい香り。その香りを少しでも感じただけで、羽音の下半身は切なく疼くのだ。
外は想像以上に寒くて、羽織ってきたコートのフードを被る。手は真っ赤に悴んで、感覚さえ感じなくなっている。そんな手に息を吐きかけて温めた。
触れる外気も雪も冷たいが、羽音の心は温かくて、甘くときめき続ける。
──早く、早く瑞稀に会いたい。
羽音は薔薇園の前で立ち止まり、深く息を吸って乱れた呼吸を整えた。
はやる気持ちを抑え、キャソックから小瓶を取り出して一口その液体を飲み込む。相変わらず苦くて、喉が焼け切れそうになるのを必死に我慢する。そのうちに、少しずつ痛みが引いていき、白百合の甘ったるい香りを感じなくなっていった。
薔薇園の木の扉をギギっと開いて、羽音はそっと辺りを見渡す。
先程まであんなに甘い花の香りがしたのだから、きっと瑞稀はもう薔薇園に来ているはずだ。
羽音の胸が甘く高鳴り、愛しい人に会いたいという思いが、どんどん強くなっていく。
──会いたい……会いたい……!
まるで迷路みたいな薔薇園を走って瑞稀の姿を探す。
「瑞稀、瑞稀……どこにいるの?」
自分よりも背の高い薔薇の木を隙間を縫って、その名前を呼び続けた。
空から止めどなく降り続ける雪が、真っ赤な薔薇に降り積もってとても綺麗だ。それは、まるで気高い瑞稀のように思える。
「羽音」
声がする方を振り返れば、そこには羽音が会いたくて堪らなかった瑞稀がいた。
「おいで、羽音」
いつもみたいに優しい笑みを浮かべながら、両手を広げてくれる。
「瑞稀……瑞稀!」
「羽音」
羽音は、その腕の中に思い切り飛び込む。そんな羽音を、瑞稀はギュッと抱き締めてくれた。
「羽音、体が冷たくなってます」
「え?」
羽音は自分でさえ気付いていなかったが、鼻先と頬は赤くなり、カタカタと体が小さく震えていた。
「本当だ……」
そんな事すら気付かないくらいに、瑞稀のことだけを考えていた自分が可笑しくなってしまう。
──それでも、良かった……瑞稀に会えて。
羽音は嬉しくて、瑞稀の胸に頬擦りをした。
羽音は慌てて荷物をまとめて、教室を後にした。普段は規則を守って歩いていた廊下を、今日は全速力で走り抜ける。
「ハァハァ……」
どんどん息が上がってくるけど、羽音は走り続けた。
校舎から出れば、ヒラヒラと再び雪が舞い降り始めている。羽音の吐く息は白く染まり、空へと上っていった。羽音の額に落ちた雪が、音も無く消えていく。
薔薇園は、羽音が大好きな教会のすぐ脇にある。そこには、四季折々の薔薇が咲き乱れ、いつも甘い香りに包まれていた。
キリスト教では、薔薇は棘があることから『邪悪な花』として忌み嫌われていた。しかし、現在では『気高い楽園の花』へと、考えそのものが変わってきている。赤薔薇は殉教者の血を象徴し、白薔薇は聖母マリアの純潔のシンボルとされているのだ。
ミセス・サラも薔薇が大好きで、いつも薔薇園を訪れてはお茶会を楽しんでいた。
薔薇園に近づいていくと、薔薇の神々しい香りがより濃くなってくる。こんな冬にも、薔薇が咲くなんて……羽音は不思議でならない。
そんな薔薇の香りさえもかき消してしまう程の甘ったるい香りに、羽音は眉を顰めた。薔薇の花とは全く違う、むせ返るような甘ったるい香り。その香りを少しでも感じただけで、羽音の下半身は切なく疼くのだ。
外は想像以上に寒くて、羽織ってきたコートのフードを被る。手は真っ赤に悴んで、感覚さえ感じなくなっている。そんな手に息を吐きかけて温めた。
触れる外気も雪も冷たいが、羽音の心は温かくて、甘くときめき続ける。
──早く、早く瑞稀に会いたい。
羽音は薔薇園の前で立ち止まり、深く息を吸って乱れた呼吸を整えた。
はやる気持ちを抑え、キャソックから小瓶を取り出して一口その液体を飲み込む。相変わらず苦くて、喉が焼け切れそうになるのを必死に我慢する。そのうちに、少しずつ痛みが引いていき、白百合の甘ったるい香りを感じなくなっていった。
薔薇園の木の扉をギギっと開いて、羽音はそっと辺りを見渡す。
先程まであんなに甘い花の香りがしたのだから、きっと瑞稀はもう薔薇園に来ているはずだ。
羽音の胸が甘く高鳴り、愛しい人に会いたいという思いが、どんどん強くなっていく。
──会いたい……会いたい……!
まるで迷路みたいな薔薇園を走って瑞稀の姿を探す。
「瑞稀、瑞稀……どこにいるの?」
自分よりも背の高い薔薇の木を隙間を縫って、その名前を呼び続けた。
空から止めどなく降り続ける雪が、真っ赤な薔薇に降り積もってとても綺麗だ。それは、まるで気高い瑞稀のように思える。
「羽音」
声がする方を振り返れば、そこには羽音が会いたくて堪らなかった瑞稀がいた。
「おいで、羽音」
いつもみたいに優しい笑みを浮かべながら、両手を広げてくれる。
「瑞稀……瑞稀!」
「羽音」
羽音は、その腕の中に思い切り飛び込む。そんな羽音を、瑞稀はギュッと抱き締めてくれた。
「羽音、体が冷たくなってます」
「え?」
羽音は自分でさえ気付いていなかったが、鼻先と頬は赤くなり、カタカタと体が小さく震えていた。
「本当だ……」
そんな事すら気付かないくらいに、瑞稀のことだけを考えていた自分が可笑しくなってしまう。
──それでも、良かった……瑞稀に会えて。
羽音は嬉しくて、瑞稀の胸に頬擦りをした。
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