天使と悪魔が恋に堕ちて

舞々

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第六章 引き裂かれて募る想い

引き裂かれて募る想い②

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「来栖君、大変なことになりましたね…」


 突然医務室に押しかけてきた羽音とミスター・レンに嫌な顔をするでもなく、ミスター・ハルが心配そうに羽音の顔を覗き込んだ。


「だから、俺にしろって、あれ程言っただろうに?」
「こら、ミスター・レン。こんな時に冗談なんて言うもんじゃありません」
 不貞腐れたような顔をしているミスター・レンを、ミスター・ハルが嗜めている。
「いえ。全て、僕の責任ですから」
 酷く落ち込んだような顔で俯く羽音に、ミスター・レンは大きな溜息を付く。


 ミスター・レンも、まさかこんな結末になるなんて、全く想像もしていなかったのだから。ただ、彼の想像以上に、瑞稀が羽音に惚れ込んでしまったのだろう。それが、大きな誤算だった。


「どんな罰でも受ける覚悟はしています。ただ……」
「ただ?」
「ミセス・サラをこんな形で裏切ってしまったことが、心苦しくてたまりません」
 羽音が、自分の胸の辺りをギュッと掴み、唇を噛み締めている。
「僕を守るためにくださった『滅びの黒薔薇』を、僕は瑞稀に会うために使いました」
「やっぱり九条君に会う為に、あの聖水を使ったのか?」
「はい」
「それは、困った坊やだ」
「申し訳ありません」


 羽音が俯いた瞬間、
「お?」 
 ミスター・レンは羽音の首筋に残る、赤い花弁を見つけてしまう。それはまだ真新しくて、痛々しくさえ見える。明らかに故意に付けられたものだということが見てとれた。


「ところで……君達は、体の関係があるのか?」
「はい?」
「ふふふっ」
 羽音が顔を真っ赤にしながらミスター・レンを見るものだから、思わず楽しくなってしまう。この真面目で初々し過ぎる青年は、本当にからかい甲斐があるのだ。実に、ミスター・レン好みの可愛らしい反応をしてくれる。


「いやな、君の恋人は非常に独占欲が強そうだから」
「え?」
「ここだよ。あと、ここにも」
 ミスター・レンは羽音の首筋と鎖骨をツンツン突ついてみせる。
「キスマーク……あるぜ?」
「えっっ⁉」


「あははは。うっかり君に手を出すと、九条君に噛み付かれそうだな」
「ミスター・レン。貴方は意地が悪いです」
「おや、今頃気がついたのか?」
 羽音の表情が、少し和らぐのを感じたミスター・レンはホッと胸を撫で下ろす。彼は、このどこまでも真面目で、意地らしい青年が愛おしくて仕方ないのだ。


「ミスター・レン。来栖君を虐めるのはそれくらいにしてあげてください。困ってるじゃありませんか」
 すかさずミスター・ハルが助け舟を出してくれる。
「はいはい。…じゃあ、ミセス・サラの所へ行くか」
「……はい……」
 ミスター・レンが大きな溜息を付きながら籐の椅子からゆっくりと立ち上がる。続いて立ち上がった羽音の顔色が、より暗くなっていくのを見たミスター・ハルが、思わず羽音へと声をかけた。


「怖いですか? 彼女に会うのが」
 ミスター・ハルに羽音が視線を向ける。今にも倒れてしまいそうな顔をしながら、羽音は小さく頷いてみせた。
「ええ。凄く怖いです……」
「大丈夫、俺がついて行ってやるから」
 ミスター・レンはそっと囁いてから、優しく羽音の背中を押したのだった。

 
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