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第十章 ミセス・サラの過去
ミセス・サラの過去②
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「私が死ねば、水晶玉に閉じ込めてある、インキュバスの『ハノン』の封印が解けます」
「え?」
「インキュバスの封印が……?」
ミセス・サラの言葉に羽音と瑞稀が反応した。
「封印が解けると、羽音はどうなってしまうんですか?」
瑞稀が不安そうにミセス・サラの顔を覗き込んだ。その、あまりにも真剣な表情にミセス・サラが悲しそうな顔をする。
「また羽音は、インキュバスに戻ってしまうわ……」
「そ、そんな……」
羽音が顔を引き攣らせた。
「この綺麗な銀色の髪は烏の羽の色のようになり、背中から真っ黒な片羽が生えてくる」
「……嘘だろう?」
羽音の隣に瑞稀も言葉を詰まらせる。そんな事、信じたくなかったから。
「きっと、長い間水晶玉に閉じ込められていた『ハノン』は怒り狂っているはず。その反動で封印が解けた瞬間暴れ出すことでしょう。恐らく、悪魔であるハノンに、人間である来栖羽音は消されてしまう……」
ミセス・サラが唸るように呟いた。
「そんな……嘘だ……」
羽音は言葉を失い、スッと全身の力が抜け、ガクンとその場に崩れ落ちそうになる。それを咄嗟に瑞稀が抱き留めた。
「羽音、大丈夫ですか?」
顔面蒼白になり目を虚ろにした羽音に、瑞稀はそっと囁きかける。そのまま華奢な羽音の体を強く抱き締めた。
「大丈夫です。貴方には俺がいます」
「僕は、僕はどうしたら……」
羽音が、瑞稀とミセス・サラに縋るような視線を向けながら、苦しそうに言葉を絞り出す。
「僕はどうしたらいいですか? もう、インキュバスには戻りたくない」
「ええ、そうね」
ミセス・サラが羽音の手をギュッと握り締める。
「私、考えたの。もう一度、インキュバスを封印する方法を」
「そんな事できるんですか⁉」
瑞稀が体を乗り出す。何とか羽音を助けたい――。彼の必死さが伝わってきた。
「でもね……それはとても大変な試練だから……」
「なんでもします、羽音の為なら! だから、ミセス・サラ、その方法を教えてください。俺は、羽音の為ならなんでもできます」
あまりにも必死な瑞稀を見れば、羽音の胸は熱くなる。心の底から愛されていることが伝わってきたから。
「わかったわ。それはね……」
ミセス・サラが、まるで魔法の呪文を唱えるかのように言葉を紡いだ。それはまるで、聖母の囁きにも聞こえる。
しかし、羽音と瑞稀には、彼女の言葉の意味が理解できなかった。そんな事はできない……二人の心が絶望で押し潰されそうになる。
「そ、そんな……」
「そんなのは不可能でしょ⁉」
ミセス・サラの言葉を聞き終わった瞬間、カタカタと震え出す羽音に、顔を強張らせる瑞稀。そんな二人を見て、ミセス・サラは困ったように微笑んだ。
「ねぇ、突然なんだけど、昔話をしてもいいかしら?」
「……昔話?」
羽音がボンヤリと呟く。
「そう、私がまだこのセイント・アクシオス学園の生徒になる前のお話よ」
羽音を見下ろしながら、ニッコリと微笑んだ。
「私はね、インキュバスに出会ったことがあるの」
瑞稀は驚いて目を見開いた。でも、そう考えれば納得が行くのだ。彼女がどうして、ここまで羽音のことに気に掛けるのかも。どうして、自分達が恋に落ちても、一切咎めることをしないのか……という事も。
「そのインキュバスは、本当に綺麗な子だった。肌は蝋みたいに真っ白で、髪は闇夜のように真っ黒で……背中には黒光りする大きな羽があった。そして、何よりも印象的だったのが、海のように真っ青な瞳だったわ」
ミセス・サラは、当時の事を思い出すかのように、少しだけ遠い目をする。
「その子は、私の実家にある教会に、ある日ひょっこり現れて、インキュバスだっていうのに教会に住み着いてしまったの」
クスクスとミセス・サラが笑う。
「本当に優しい子で、私達はすぐにお友達になったわ。彼と過ごす時間はとても素敵で、私は彼が大好きだった。私はシスターを目指す身分であり、彼は悪魔なのに……そんなの全然関係なかった」
ミセス・サラが穏やかな瞳で、羽音を見つめる。
「そう、関係ないのよ。神父とか、シスターとか、悪魔なんて……関係ないの」
そう、羽音に言い聞かせるように呟いた。
「彼の名前は『ハク』。そして……」
ミセス・サラが眉間に皺を寄せて、少しだけ苦しそうな顔をする。
「ハクは、一人の青年と恋に落ちた……。ハクは、どうしようもないくらいに、一人の青年を愛してしまったの。はじめは見ているだけで幸せだったのに、いつからか、ハクはその青年に触れたい、抱き合いたいと思うようになった。でも彼はインキュバス。彼が自分と接するということは、決して幸せなことではない……そうハクはわかっていた。それでも、どんどん思いは募っていったわ」
ミセス・サラが大きな溜息をつきながら、それでも少しだけ幸せそうに笑う。ミセス・サラは相変わらずクリスマスツリーを眺めている。オーナメントが、日光に当たりキラキラと輝いた。
「え?」
「インキュバスの封印が……?」
ミセス・サラの言葉に羽音と瑞稀が反応した。
「封印が解けると、羽音はどうなってしまうんですか?」
瑞稀が不安そうにミセス・サラの顔を覗き込んだ。その、あまりにも真剣な表情にミセス・サラが悲しそうな顔をする。
「また羽音は、インキュバスに戻ってしまうわ……」
「そ、そんな……」
羽音が顔を引き攣らせた。
「この綺麗な銀色の髪は烏の羽の色のようになり、背中から真っ黒な片羽が生えてくる」
「……嘘だろう?」
羽音の隣に瑞稀も言葉を詰まらせる。そんな事、信じたくなかったから。
「きっと、長い間水晶玉に閉じ込められていた『ハノン』は怒り狂っているはず。その反動で封印が解けた瞬間暴れ出すことでしょう。恐らく、悪魔であるハノンに、人間である来栖羽音は消されてしまう……」
ミセス・サラが唸るように呟いた。
「そんな……嘘だ……」
羽音は言葉を失い、スッと全身の力が抜け、ガクンとその場に崩れ落ちそうになる。それを咄嗟に瑞稀が抱き留めた。
「羽音、大丈夫ですか?」
顔面蒼白になり目を虚ろにした羽音に、瑞稀はそっと囁きかける。そのまま華奢な羽音の体を強く抱き締めた。
「大丈夫です。貴方には俺がいます」
「僕は、僕はどうしたら……」
羽音が、瑞稀とミセス・サラに縋るような視線を向けながら、苦しそうに言葉を絞り出す。
「僕はどうしたらいいですか? もう、インキュバスには戻りたくない」
「ええ、そうね」
ミセス・サラが羽音の手をギュッと握り締める。
「私、考えたの。もう一度、インキュバスを封印する方法を」
「そんな事できるんですか⁉」
瑞稀が体を乗り出す。何とか羽音を助けたい――。彼の必死さが伝わってきた。
「でもね……それはとても大変な試練だから……」
「なんでもします、羽音の為なら! だから、ミセス・サラ、その方法を教えてください。俺は、羽音の為ならなんでもできます」
あまりにも必死な瑞稀を見れば、羽音の胸は熱くなる。心の底から愛されていることが伝わってきたから。
「わかったわ。それはね……」
ミセス・サラが、まるで魔法の呪文を唱えるかのように言葉を紡いだ。それはまるで、聖母の囁きにも聞こえる。
しかし、羽音と瑞稀には、彼女の言葉の意味が理解できなかった。そんな事はできない……二人の心が絶望で押し潰されそうになる。
「そ、そんな……」
「そんなのは不可能でしょ⁉」
ミセス・サラの言葉を聞き終わった瞬間、カタカタと震え出す羽音に、顔を強張らせる瑞稀。そんな二人を見て、ミセス・サラは困ったように微笑んだ。
「ねぇ、突然なんだけど、昔話をしてもいいかしら?」
「……昔話?」
羽音がボンヤリと呟く。
「そう、私がまだこのセイント・アクシオス学園の生徒になる前のお話よ」
羽音を見下ろしながら、ニッコリと微笑んだ。
「私はね、インキュバスに出会ったことがあるの」
瑞稀は驚いて目を見開いた。でも、そう考えれば納得が行くのだ。彼女がどうして、ここまで羽音のことに気に掛けるのかも。どうして、自分達が恋に落ちても、一切咎めることをしないのか……という事も。
「そのインキュバスは、本当に綺麗な子だった。肌は蝋みたいに真っ白で、髪は闇夜のように真っ黒で……背中には黒光りする大きな羽があった。そして、何よりも印象的だったのが、海のように真っ青な瞳だったわ」
ミセス・サラは、当時の事を思い出すかのように、少しだけ遠い目をする。
「その子は、私の実家にある教会に、ある日ひょっこり現れて、インキュバスだっていうのに教会に住み着いてしまったの」
クスクスとミセス・サラが笑う。
「本当に優しい子で、私達はすぐにお友達になったわ。彼と過ごす時間はとても素敵で、私は彼が大好きだった。私はシスターを目指す身分であり、彼は悪魔なのに……そんなの全然関係なかった」
ミセス・サラが穏やかな瞳で、羽音を見つめる。
「そう、関係ないのよ。神父とか、シスターとか、悪魔なんて……関係ないの」
そう、羽音に言い聞かせるように呟いた。
「彼の名前は『ハク』。そして……」
ミセス・サラが眉間に皺を寄せて、少しだけ苦しそうな顔をする。
「ハクは、一人の青年と恋に落ちた……。ハクは、どうしようもないくらいに、一人の青年を愛してしまったの。はじめは見ているだけで幸せだったのに、いつからか、ハクはその青年に触れたい、抱き合いたいと思うようになった。でも彼はインキュバス。彼が自分と接するということは、決して幸せなことではない……そうハクはわかっていた。それでも、どんどん思いは募っていったわ」
ミセス・サラが大きな溜息をつきながら、それでも少しだけ幸せそうに笑う。ミセス・サラは相変わらずクリスマスツリーを眺めている。オーナメントが、日光に当たりキラキラと輝いた。
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