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第十章 ミセス・サラの過去
ミセス・サラの過去③
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「ハクが恋したのは誰だと思う?」
ミセス・サラは悪戯っ子のような顔をして、羽音と瑞稀を代わる代わる見つめる。でも、二人には見当もつかなくて、フルフルと静かに首を横に振った。
「ハクが恋したのはね、私の兄」
「……え? という事は……」
「そう。ハクが恋したのは神父」
羽音が真ん丸な瞳を、更に見開いた。
「貴方達と似ている。『インキュバス』のハクは、私の兄である『神父』に恋をした」
ミセス・サラが悲しそうに微笑む。
当時の事を、きっと鮮明に思い出しているのだろう。ミセス・サラの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「でもね、美しいインキュバスのハクに、私の兄もどんどん惹かれていって、いつしか愛し合うようになった」
「…………」
「それでも二人は結ばれることはなかった」
「え? どうしてですか?」
羽音が身を乗り出して、ミセス・サラに問い掛ける。
ミセス・サラは指先で涙を拭ってから、そんな羽音を見つめ返した。
「ハクもあなたと同じ。インキュバスである自分が、神父と結ばれる事を頑なに拒んだ。愛する兄から精液を奪いとる行為そのものに、ハクは強い抵抗を感じてしまったの」
「それで、ハクはどうしたんですか?」
羽音は恐る恐るミセス・サラの顔を覗き込んだ。
「ハクはね、本当に真面目で優しいインキュバスだった。愛する兄から精液を奪うこともできず、かと言って全く無関係の男性を襲うこともできずに……どんどん衰弱していったわ」
ミセス・サラの瞳から、堪えきれなかった涙がハラハラと流れ落ちる。その涙は、降り積もった雪のようにキラキラと輝いていた。
「ある日は、満月の綺麗な夜だった。ハクはもう起き上がることもできずに、兄に抱き締められていた。兄は泣きながら、自分の精液をハクに捧げたいと懇願したわ。でも、ハクの意志は揺らぐことなんてなかった」
羽音は、ハクの気持ちが痛いくらいわかってしまった。
ハクは、ミセス・サラの兄にインキュバスとして抱かれたくなかったのだ。一人の人間として、愛されたかったのだろう。
羽音は、そんなどこまでも意地らしいハクを思い、胸を痛めた。
『私は、貴方を愛しています』
「そう囁いて、ハクは微笑んだ。そして……」
ミセス・サラが言葉を詰まらせる。
「兄の胸の中で息を引き取った……。ハクの亡骸は、月明かりを受けながら……」
『神父……貴方を愛しています。永遠に』
『私も、ハクを愛し続けます。永遠に』
「星屑となって、空へと消えていった……。星屑になっていくハクを、兄も私もただ見守ることしかできなかった」
ミセス・サラの頬を、一筋の涙が伝う。彼女のか細い体が、カタカタと小刻みに震えていた。羽音も目頭が熱くなり、思わず両手で顔を覆う。
「羽音……。大丈夫。貴方には俺がついてます」
そう優しく囁く瑞稀に、羽音は思いきりしがみ付く。
羽音は涙が止まらなかった。
ハクは一体、どんな思いで死んでいったのだろうか。
そんなハクを、ただ傍で見守ることしかできなかったミセス・サラの兄は……どんなに辛かっただろうか。
それを思うだけで、羽音の心は、引き裂かれるほど痛む。痛くて痛くて、涙は止まらなかった。
「大丈夫、大丈夫だから……」
羽音をあやすかのように優しく抱き締める瑞稀を見て、ミセス・サラは微笑んだ。
「九条君。私の兄は、愛する人を幸せにすることはできなかった。だから、貴方には羽音を幸せにしてあげてほしい」
すがるような瞳で瑞稀を見つめた。
「インキュバスだって、誰かを愛し、誰かに愛される権利はあるの。悪魔だって、神父に愛される権利はある」
「ミセス・サラ……」
「お願い。羽音は、羽音だけは幸せにしてあげて……お願い……」
ミセス・サラが瑞稀に向かって深々と頭を下げる。
瑞稀は、そんなミセス・サラを見つめながら、羽音を抱き締めることしかできなかった。
***
「今日は、羽音の部屋に泊まっていきます」
「え? 突然なんですか?」
「嫌なら、俺の部屋に泊まりに来てください」
「だからなんですか? 急に……」
「そんな、今にも泣きそうな顔をした羽音を、一人になんてできません」
「瑞稀……」
そう言いながら、羽音のベッドにドカッと遠慮なく座り込む。今言った通り、自分の部屋に帰る気などサラサラなさそうだ。羽音は溜息を付きながらも、自分を気遣ってくれいる、心優しい恋人の隣にちょこんと座る。
「九条君。寮の規則で、生徒同士が部屋を行き来することは禁止されてますよ」
「わっ! 出た……生徒会長様……」
「ふふっ」
嫌そうな顔をする瑞稀を見て、羽音はつい笑ってしまった。
「でも、羽音。本当は部屋の行き来どころじゃなくて……」
「え?」
そのまま瑞稀は羽音をベッドへと優しく押し倒す。逃げられないように、羽音の体に覆いかぶさった。
「もっとエロいことする予定なんですが?」
「なッ……⁉」
「だって好きでしょう? 羽音も俺とエロいことするの」
ニヤッと笑いながら、瑞稀が羽音の体に指を這わせる。それだけの刺激で、羽音の体はピクンピクンと反応してしまう。体が、自然と瑞稀を求め出してしまっていた。
「もうすぐ、聖水の効き目が切れる頃でしょう?」
「あぅ、あん……はぁ……」
瑞稀の手が、羽音の洋服の中をまさぐりはじめる。それだけで羽音の息はどんどん上がっていった。
「俺は、貴方を星屑になんかするもんか。絶対、絶対に、俺は貴方を守ります」
まるで神に誓うように囁く瑞稀の声を、熱く高鳴る鼓動を感じながら、羽音はしっかりと受け止めた。
「瑞稀、中には出さないで……インキュバスに戻っちゃう……」
「わかってるから大丈夫」
「ありがとう」
愛おしそうに羽音の頬を撫でる瑞稀の手に、そっと頬ずりをした。
ミセス・サラは悪戯っ子のような顔をして、羽音と瑞稀を代わる代わる見つめる。でも、二人には見当もつかなくて、フルフルと静かに首を横に振った。
「ハクが恋したのはね、私の兄」
「……え? という事は……」
「そう。ハクが恋したのは神父」
羽音が真ん丸な瞳を、更に見開いた。
「貴方達と似ている。『インキュバス』のハクは、私の兄である『神父』に恋をした」
ミセス・サラが悲しそうに微笑む。
当時の事を、きっと鮮明に思い出しているのだろう。ミセス・サラの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「でもね、美しいインキュバスのハクに、私の兄もどんどん惹かれていって、いつしか愛し合うようになった」
「…………」
「それでも二人は結ばれることはなかった」
「え? どうしてですか?」
羽音が身を乗り出して、ミセス・サラに問い掛ける。
ミセス・サラは指先で涙を拭ってから、そんな羽音を見つめ返した。
「ハクもあなたと同じ。インキュバスである自分が、神父と結ばれる事を頑なに拒んだ。愛する兄から精液を奪いとる行為そのものに、ハクは強い抵抗を感じてしまったの」
「それで、ハクはどうしたんですか?」
羽音は恐る恐るミセス・サラの顔を覗き込んだ。
「ハクはね、本当に真面目で優しいインキュバスだった。愛する兄から精液を奪うこともできず、かと言って全く無関係の男性を襲うこともできずに……どんどん衰弱していったわ」
ミセス・サラの瞳から、堪えきれなかった涙がハラハラと流れ落ちる。その涙は、降り積もった雪のようにキラキラと輝いていた。
「ある日は、満月の綺麗な夜だった。ハクはもう起き上がることもできずに、兄に抱き締められていた。兄は泣きながら、自分の精液をハクに捧げたいと懇願したわ。でも、ハクの意志は揺らぐことなんてなかった」
羽音は、ハクの気持ちが痛いくらいわかってしまった。
ハクは、ミセス・サラの兄にインキュバスとして抱かれたくなかったのだ。一人の人間として、愛されたかったのだろう。
羽音は、そんなどこまでも意地らしいハクを思い、胸を痛めた。
『私は、貴方を愛しています』
「そう囁いて、ハクは微笑んだ。そして……」
ミセス・サラが言葉を詰まらせる。
「兄の胸の中で息を引き取った……。ハクの亡骸は、月明かりを受けながら……」
『神父……貴方を愛しています。永遠に』
『私も、ハクを愛し続けます。永遠に』
「星屑となって、空へと消えていった……。星屑になっていくハクを、兄も私もただ見守ることしかできなかった」
ミセス・サラの頬を、一筋の涙が伝う。彼女のか細い体が、カタカタと小刻みに震えていた。羽音も目頭が熱くなり、思わず両手で顔を覆う。
「羽音……。大丈夫。貴方には俺がついてます」
そう優しく囁く瑞稀に、羽音は思いきりしがみ付く。
羽音は涙が止まらなかった。
ハクは一体、どんな思いで死んでいったのだろうか。
そんなハクを、ただ傍で見守ることしかできなかったミセス・サラの兄は……どんなに辛かっただろうか。
それを思うだけで、羽音の心は、引き裂かれるほど痛む。痛くて痛くて、涙は止まらなかった。
「大丈夫、大丈夫だから……」
羽音をあやすかのように優しく抱き締める瑞稀を見て、ミセス・サラは微笑んだ。
「九条君。私の兄は、愛する人を幸せにすることはできなかった。だから、貴方には羽音を幸せにしてあげてほしい」
すがるような瞳で瑞稀を見つめた。
「インキュバスだって、誰かを愛し、誰かに愛される権利はあるの。悪魔だって、神父に愛される権利はある」
「ミセス・サラ……」
「お願い。羽音は、羽音だけは幸せにしてあげて……お願い……」
ミセス・サラが瑞稀に向かって深々と頭を下げる。
瑞稀は、そんなミセス・サラを見つめながら、羽音を抱き締めることしかできなかった。
***
「今日は、羽音の部屋に泊まっていきます」
「え? 突然なんですか?」
「嫌なら、俺の部屋に泊まりに来てください」
「だからなんですか? 急に……」
「そんな、今にも泣きそうな顔をした羽音を、一人になんてできません」
「瑞稀……」
そう言いながら、羽音のベッドにドカッと遠慮なく座り込む。今言った通り、自分の部屋に帰る気などサラサラなさそうだ。羽音は溜息を付きながらも、自分を気遣ってくれいる、心優しい恋人の隣にちょこんと座る。
「九条君。寮の規則で、生徒同士が部屋を行き来することは禁止されてますよ」
「わっ! 出た……生徒会長様……」
「ふふっ」
嫌そうな顔をする瑞稀を見て、羽音はつい笑ってしまった。
「でも、羽音。本当は部屋の行き来どころじゃなくて……」
「え?」
そのまま瑞稀は羽音をベッドへと優しく押し倒す。逃げられないように、羽音の体に覆いかぶさった。
「もっとエロいことする予定なんですが?」
「なッ……⁉」
「だって好きでしょう? 羽音も俺とエロいことするの」
ニヤッと笑いながら、瑞稀が羽音の体に指を這わせる。それだけの刺激で、羽音の体はピクンピクンと反応してしまう。体が、自然と瑞稀を求め出してしまっていた。
「もうすぐ、聖水の効き目が切れる頃でしょう?」
「あぅ、あん……はぁ……」
瑞稀の手が、羽音の洋服の中をまさぐりはじめる。それだけで羽音の息はどんどん上がっていった。
「俺は、貴方を星屑になんかするもんか。絶対、絶対に、俺は貴方を守ります」
まるで神に誓うように囁く瑞稀の声を、熱く高鳴る鼓動を感じながら、羽音はしっかりと受け止めた。
「瑞稀、中には出さないで……インキュバスに戻っちゃう……」
「わかってるから大丈夫」
「ありがとう」
愛おしそうに羽音の頬を撫でる瑞稀の手に、そっと頬ずりをした。
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