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第十一章 悲しい別れ
悲しい別れ③
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「嘘だ、嘘だ……こんなの信じられない」
羽音は顔を歪めながら首を振る。
「……ミスター・ハル……」
羽音の消え入りそうな声が、静かな教会に響き渡った。
あんなに綺麗だったミスター・ハルの栗色の髪は、闇夜のように真っ黒になり、背中には大きな羽が生えている。
絵本に出てくるような悪魔そのものだった。
「嘘じゃない。俺は、ミセス・サラに人間にされた後、優しくて生徒からの人望も厚い、学校医のミスター・ハルとしてこの学園で暮らしてきた。その日々が、どんなに屈辱的だったか……」
カナデが苦虫を噛み潰したように顔を顰める。もうその表情には、あの優しく微笑むミスター・ハルの面影なんてなかった。その姿を見るだけで羽音は泣きたくなってしまう。
そしていつか自分も、こんな姿になってしまうのだろうか……。そう思うと、怖くて仕方なかった。
「嫌だ……嫌だ……」
羽音はギュッと目を閉じて瑞稀にしがみつく。この現実から目を背けてしまいたかった。
「戒めの白百合は俺のものだ。離れろ……!」
カナデが真っ赤な目を見開き、羽音にジワジワと滲み寄る。
「お前だけ、なんで戒めの白百合に愛されるんだ……」
「カナデ……」
「なんでお前だけ? 同じ、汚れたインキュバスなのに?」
カナデが真っ赤な目をカッと見開き、羽音を睨み付ける。それを見た瑞稀は、咄嗟に羽音を自分のキャソックの中へと隠した。
「許せない……俺だって、戒めの白百合に抱かれたい」
カナデが突然羽音に掴みかかり、その体を瑞稀から強引に奪い去る。
「カナデ! やめろ!」
瑞稀が慌てて羽音を取り戻そうとカナデに掴みかかろうとした瞬間、羽音は強く床に叩きつられた。
「……クゥッ⁉」
「羽音⁉」
羽音は体を強く床に打ち付けられた衝撃で、一瞬意識が遠退くのを感じた。
「羽音! 羽音、大丈夫か!?」
瑞稀が羽音の体を抱き起こし、その顔を覗き込んだ。
コロコロと何かが床を転がる音が静かな教会に響き渡る。
「あ、水晶玉が……」
羽音が床に叩きつけられた瞬間、キャソックのポケットに入っていた水晶玉が、教会の床に転がり落ちたのだ。それを見た羽音が、慌ててその水晶玉に手を伸ばしてつかみとろうとする。が、その水晶玉の変貌の様子に、手の動きが一瞬止まる。
水晶玉は、夜の海のように黒く濁っていた。
ミセス・サラが生きていた頃は、太陽の光を受けて、あんなにキラキラ輝いていたのに……。あの美しかった水晶玉は、どこにもない。
「そんな……」
羽音の目に、熱い涙が溜まっていく。
もう、自分が人間でいられる時間は、短いのかもしれない。それでも、羽音はその水晶玉が大切だった。ミセス・サラがくれた水晶玉。いつも、肌身離さず持ち歩いていた。
「待って!」
瑞稀に抱きかかえられたまま水晶玉に手を伸ばすけど、もう少しで手が届く……羽音がそう思った瞬間、その水晶玉はカナデによって奪われてしまった。
「返せよ! それは羽音のものだ!」
「うるさいな」
瑞稀が声を張り上げながらカナデに掴みかかれば、意図も簡単に再び突き放されてしまう。
「くう……ッ!」
所詮、人間が悪魔の力に適うはずなどないのだ。羽音は唇を噛み締める。
「返して! お願い……! それだけは……!」
「へぇ……そんなにこれが大事なんだ?」
「大事だから……お願い……返して……お願い……」
羽音の涙が、教会の床にポトリと落ちて、消えていく。
「水晶玉が割れれば、その中に封印されたインキュバスが目覚めてしまう……」
羽音の体がガタガタと震え出す。もう目の前にいる悪魔に許しを請う以外に方法はないのだろうか? そんな自分が心底情けなくなってくる。
「僕は、人間でいたいんだ……」
「へぇ? 人間でね?」
カナデがニヤリと微笑む。その、あまりにも冷たい笑顔に、羽音の背中にゾクゾクっと寒気が走り抜けた。
「そんな事できるはずないだろう? 俺達は、所詮、インキュバスだ」
「違う……!」
「お前は所詮、インキュバスだ」
「嫌だ! 嫌だ!」
「戻っちまえよ。ハノンに……」
「………ッ⁉」
カナデが低く呟き、水晶玉をグッと握り締める。その瞬間、ピキピキッと小さな亀裂が走った。
「くたばれ」
「嫌だぁぁぁぁぁ‼」
硝子が割れる音が響き渡り、羽音の目の前で、水晶玉が粉々に砕け散る。羽音はそれを、まるで映画のワンシーンのように眺めた。クリスマスツリーのオーナメントがキラキラと輝き、他人事のように「綺麗だな……」と思う。
「そうだ、今日はクリスマスイブだ……」
羽音は、生まれて初めて、クリスマスが楽しみだと思えた。
それでも、羽音は特別豪華なパーティーをしたかったわけではない。ただ、瑞稀とクリスマスツリーを眺めながら、二人きりでお祝いをしてみたかった。ただ、それだけだった。
「羽音‼」
瑞稀が、自分の名前を呼ぶ声が、遥か遠くで聞こえた気がした。
「ごめん、瑞稀……。もう、君の傍にいられない……」
羽音の瞳から、ハラハラと涙が溢れた。
羽音は顔を歪めながら首を振る。
「……ミスター・ハル……」
羽音の消え入りそうな声が、静かな教会に響き渡った。
あんなに綺麗だったミスター・ハルの栗色の髪は、闇夜のように真っ黒になり、背中には大きな羽が生えている。
絵本に出てくるような悪魔そのものだった。
「嘘じゃない。俺は、ミセス・サラに人間にされた後、優しくて生徒からの人望も厚い、学校医のミスター・ハルとしてこの学園で暮らしてきた。その日々が、どんなに屈辱的だったか……」
カナデが苦虫を噛み潰したように顔を顰める。もうその表情には、あの優しく微笑むミスター・ハルの面影なんてなかった。その姿を見るだけで羽音は泣きたくなってしまう。
そしていつか自分も、こんな姿になってしまうのだろうか……。そう思うと、怖くて仕方なかった。
「嫌だ……嫌だ……」
羽音はギュッと目を閉じて瑞稀にしがみつく。この現実から目を背けてしまいたかった。
「戒めの白百合は俺のものだ。離れろ……!」
カナデが真っ赤な目を見開き、羽音にジワジワと滲み寄る。
「お前だけ、なんで戒めの白百合に愛されるんだ……」
「カナデ……」
「なんでお前だけ? 同じ、汚れたインキュバスなのに?」
カナデが真っ赤な目をカッと見開き、羽音を睨み付ける。それを見た瑞稀は、咄嗟に羽音を自分のキャソックの中へと隠した。
「許せない……俺だって、戒めの白百合に抱かれたい」
カナデが突然羽音に掴みかかり、その体を瑞稀から強引に奪い去る。
「カナデ! やめろ!」
瑞稀が慌てて羽音を取り戻そうとカナデに掴みかかろうとした瞬間、羽音は強く床に叩きつられた。
「……クゥッ⁉」
「羽音⁉」
羽音は体を強く床に打ち付けられた衝撃で、一瞬意識が遠退くのを感じた。
「羽音! 羽音、大丈夫か!?」
瑞稀が羽音の体を抱き起こし、その顔を覗き込んだ。
コロコロと何かが床を転がる音が静かな教会に響き渡る。
「あ、水晶玉が……」
羽音が床に叩きつけられた瞬間、キャソックのポケットに入っていた水晶玉が、教会の床に転がり落ちたのだ。それを見た羽音が、慌ててその水晶玉に手を伸ばしてつかみとろうとする。が、その水晶玉の変貌の様子に、手の動きが一瞬止まる。
水晶玉は、夜の海のように黒く濁っていた。
ミセス・サラが生きていた頃は、太陽の光を受けて、あんなにキラキラ輝いていたのに……。あの美しかった水晶玉は、どこにもない。
「そんな……」
羽音の目に、熱い涙が溜まっていく。
もう、自分が人間でいられる時間は、短いのかもしれない。それでも、羽音はその水晶玉が大切だった。ミセス・サラがくれた水晶玉。いつも、肌身離さず持ち歩いていた。
「待って!」
瑞稀に抱きかかえられたまま水晶玉に手を伸ばすけど、もう少しで手が届く……羽音がそう思った瞬間、その水晶玉はカナデによって奪われてしまった。
「返せよ! それは羽音のものだ!」
「うるさいな」
瑞稀が声を張り上げながらカナデに掴みかかれば、意図も簡単に再び突き放されてしまう。
「くう……ッ!」
所詮、人間が悪魔の力に適うはずなどないのだ。羽音は唇を噛み締める。
「返して! お願い……! それだけは……!」
「へぇ……そんなにこれが大事なんだ?」
「大事だから……お願い……返して……お願い……」
羽音の涙が、教会の床にポトリと落ちて、消えていく。
「水晶玉が割れれば、その中に封印されたインキュバスが目覚めてしまう……」
羽音の体がガタガタと震え出す。もう目の前にいる悪魔に許しを請う以外に方法はないのだろうか? そんな自分が心底情けなくなってくる。
「僕は、人間でいたいんだ……」
「へぇ? 人間でね?」
カナデがニヤリと微笑む。その、あまりにも冷たい笑顔に、羽音の背中にゾクゾクっと寒気が走り抜けた。
「そんな事できるはずないだろう? 俺達は、所詮、インキュバスだ」
「違う……!」
「お前は所詮、インキュバスだ」
「嫌だ! 嫌だ!」
「戻っちまえよ。ハノンに……」
「………ッ⁉」
カナデが低く呟き、水晶玉をグッと握り締める。その瞬間、ピキピキッと小さな亀裂が走った。
「くたばれ」
「嫌だぁぁぁぁぁ‼」
硝子が割れる音が響き渡り、羽音の目の前で、水晶玉が粉々に砕け散る。羽音はそれを、まるで映画のワンシーンのように眺めた。クリスマスツリーのオーナメントがキラキラと輝き、他人事のように「綺麗だな……」と思う。
「そうだ、今日はクリスマスイブだ……」
羽音は、生まれて初めて、クリスマスが楽しみだと思えた。
それでも、羽音は特別豪華なパーティーをしたかったわけではない。ただ、瑞稀とクリスマスツリーを眺めながら、二人きりでお祝いをしてみたかった。ただ、それだけだった。
「羽音‼」
瑞稀が、自分の名前を呼ぶ声が、遥か遠くで聞こえた気がした。
「ごめん、瑞稀……。もう、君の傍にいられない……」
羽音の瞳から、ハラハラと涙が溢れた。
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