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第十一章 悲しい別れ
悲しい別れ④
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そんな羽音の身体の内側から、大きく軋むような音がする。
「くぅぅ……く、はぁはぁ……‼」
全身の血が沸騰し、物凄い速さで流れ始める。それと同時に、鼓動がどんどん速くなった。毛穴という毛穴が開き、冷たい汗が滝のように流れ落ちる。息もできなくて、羽音は自分の胸を鷲掴みにして蹲った。
「苦しい……苦しい……‼」
あまりの辛さに、ボロボロと涙が止まらない。その瞬間。
「……来る……」
羽音は目を見開いた。あの時と同じ感覚。背中が熱くて熱くて仕方ない。
「あ、あぁぁぁ、はぁ……あぁ‼ わぁぁぁぁぁぁッ‼」
羽音の絶叫と共に、大きな鳥の羽ばたく音が静かな教会に響き渡り、烏のように真っ黒な羽がヒラヒラと宙を舞った。
「フフッ。なかなか綺麗じゃん。ハノンも……」
カナデがクイッと口角を上げる。
「はぁはぁ……うッ……」
「羽音……羽音……‼」
ガクンと羽音が脱力し床にドサッと崩れ落ちる。そんな羽音に瑞稀は駆け寄り、抱き起こしてくれた。
「羽音、羽音……大丈夫ですか?」
「んッ……み、ずき……」
瑞稀がギュッと羽音を抱き締めれば、羽音は虚ろな瞳で瑞稀を見つめた。
「見ないで……こんな僕を……」
羽音が苦痛に顔を歪める。そんな羽音の頬を瑞稀は優しく撫でた。
「僕は……インキュバスだから……」
「羽音……」
「もう、君の知っている羽音じゃない」
「これが、羽音の本当の姿……」
今、瑞稀の腕の中にいる羽音の髪は黒々と輝き、瞳は綺麗なピンク色をしている。
あの、クリスマスプレゼントの包み紙のような銀色の髪も、茶色の瞳も、今の羽音にはない。
そして、真っ黒な大きな片羽が、その背中でユラユラと揺れていた。
「ごめん……なさい……」
羽音の頬を、幾筋もの涙が伝う。瑞稀はその涙を、愛おしそうに舐め上げた。
「綺麗です」
「……何だと?」
瑞稀の言葉に、カナデが綺麗な眉を顰める。
「凄く……綺麗です」
そう呟いて、瑞稀は優しく微笑んだ。
「お前、頭狂ってんのか? そいつの本当の姿を見て、『綺麗』なんてあり得ないだろう? そいつは淫乱な悪魔であるインキュバスだ」
カナデが唸るように呟く。
瑞稀は、自分の腕の中で、まるで捨て猫のように震える羽音を、ギュッと抱き締めてくれた。
「綺麗に決まってるだろう?」
「何だと?」
「心の底から惚れた人なら、どんな姿をしてたって綺麗なんだよ」
「はぁ?」
「羽音は、綺麗だ」
瑞稀はもう一度、自分のコートに羽音を包み、そっと床に寝かせる。それから羽音のキャソックのポケットから、小さな瓶を取り出した。それを羽音は呆然と眺める。一体、瑞稀は何をしようとしているのだろうか。
「羽音。少しだけ、ここで待っててください」
「瑞稀……駄目、行ったら駄目です」
「大丈夫ですよ。必ず戻ってきますから」
瑞稀を引き留めようと伸ばした羽音の手は、瑞稀にそっと掴まれてしまう。
「大丈夫だから。神よ……、ミセス・サラよ。我々をお守りください」
そっと囁いて、瑞稀は羽音の手の甲に口付ける。
小瓶を握り締めた瑞稀は、カナデと真正面から向き合った。
「カナデ。俺は、今まではインキュバスを前に、何もできなかった」
瑞稀が苦しそうに顔を歪め、そのままカナデを睨み付けた。
「でも、今は違う。俺には愛する人が……守るべきものができた」
一歩一歩とカナデとの距離を詰めれば、カナデが思わず後ずさる。
「俺は、ミセス・サラ程の力はないかもしれない。でも……」
カナデを見つめる瞳には、一切の躊躇いは見られない。そのあまりに凛とした姿に、羽音の胸は熱くなった。
「俺だって神父の卵だ。お前を封印することができるかもしれないぞ?」
「なんだと……?」
「ミセス・サラが羽音に残してくれた、この聖水で、俺はお前をもう一度封印する」
「できると思うのか?」
「できる。今の俺には、怖いものなんてない」
「…………」
怖いくらい静かな時間が、瑞稀とカナデの間に流れていく。空気がピリピリと張り詰めて、痛いくらいだ。羽音は、必死に這って瑞稀へと近付いた。
「瑞稀‼ 目だ‼ 目に聖水を‼」
「え?」
「僕達インキュバスの弱点は目だ‼ 目を狙って‼」
羽音の悲痛な叫び声と同時に、瑞稀は意を決したように小瓶の蓋を開ける。
「ミセス・サラ! 俺に力を与えてください……!」
小さく呟いて、目を閉じた。
瑞稀が再びスッと目を開いた瞬間、瑞稀の姿に、ミセス・サラの姿が重なったように羽音には見えた。瑞稀の腕が振り上げられる。
「神よ! 我々を邪悪なるかの者から、お守りください!」
瑞稀は、カナデの真っ赤に燃え盛る炎のような瞳に向かって、勢いよく小瓶を投げつけた。
「ぎゃあぁぁぁ‼」
カシャン、と小瓶が割れる音と共に、カナデの断末魔が教会に響き渡った。
「くぅぅ……く、はぁはぁ……‼」
全身の血が沸騰し、物凄い速さで流れ始める。それと同時に、鼓動がどんどん速くなった。毛穴という毛穴が開き、冷たい汗が滝のように流れ落ちる。息もできなくて、羽音は自分の胸を鷲掴みにして蹲った。
「苦しい……苦しい……‼」
あまりの辛さに、ボロボロと涙が止まらない。その瞬間。
「……来る……」
羽音は目を見開いた。あの時と同じ感覚。背中が熱くて熱くて仕方ない。
「あ、あぁぁぁ、はぁ……あぁ‼ わぁぁぁぁぁぁッ‼」
羽音の絶叫と共に、大きな鳥の羽ばたく音が静かな教会に響き渡り、烏のように真っ黒な羽がヒラヒラと宙を舞った。
「フフッ。なかなか綺麗じゃん。ハノンも……」
カナデがクイッと口角を上げる。
「はぁはぁ……うッ……」
「羽音……羽音……‼」
ガクンと羽音が脱力し床にドサッと崩れ落ちる。そんな羽音に瑞稀は駆け寄り、抱き起こしてくれた。
「羽音、羽音……大丈夫ですか?」
「んッ……み、ずき……」
瑞稀がギュッと羽音を抱き締めれば、羽音は虚ろな瞳で瑞稀を見つめた。
「見ないで……こんな僕を……」
羽音が苦痛に顔を歪める。そんな羽音の頬を瑞稀は優しく撫でた。
「僕は……インキュバスだから……」
「羽音……」
「もう、君の知っている羽音じゃない」
「これが、羽音の本当の姿……」
今、瑞稀の腕の中にいる羽音の髪は黒々と輝き、瞳は綺麗なピンク色をしている。
あの、クリスマスプレゼントの包み紙のような銀色の髪も、茶色の瞳も、今の羽音にはない。
そして、真っ黒な大きな片羽が、その背中でユラユラと揺れていた。
「ごめん……なさい……」
羽音の頬を、幾筋もの涙が伝う。瑞稀はその涙を、愛おしそうに舐め上げた。
「綺麗です」
「……何だと?」
瑞稀の言葉に、カナデが綺麗な眉を顰める。
「凄く……綺麗です」
そう呟いて、瑞稀は優しく微笑んだ。
「お前、頭狂ってんのか? そいつの本当の姿を見て、『綺麗』なんてあり得ないだろう? そいつは淫乱な悪魔であるインキュバスだ」
カナデが唸るように呟く。
瑞稀は、自分の腕の中で、まるで捨て猫のように震える羽音を、ギュッと抱き締めてくれた。
「綺麗に決まってるだろう?」
「何だと?」
「心の底から惚れた人なら、どんな姿をしてたって綺麗なんだよ」
「はぁ?」
「羽音は、綺麗だ」
瑞稀はもう一度、自分のコートに羽音を包み、そっと床に寝かせる。それから羽音のキャソックのポケットから、小さな瓶を取り出した。それを羽音は呆然と眺める。一体、瑞稀は何をしようとしているのだろうか。
「羽音。少しだけ、ここで待っててください」
「瑞稀……駄目、行ったら駄目です」
「大丈夫ですよ。必ず戻ってきますから」
瑞稀を引き留めようと伸ばした羽音の手は、瑞稀にそっと掴まれてしまう。
「大丈夫だから。神よ……、ミセス・サラよ。我々をお守りください」
そっと囁いて、瑞稀は羽音の手の甲に口付ける。
小瓶を握り締めた瑞稀は、カナデと真正面から向き合った。
「カナデ。俺は、今まではインキュバスを前に、何もできなかった」
瑞稀が苦しそうに顔を歪め、そのままカナデを睨み付けた。
「でも、今は違う。俺には愛する人が……守るべきものができた」
一歩一歩とカナデとの距離を詰めれば、カナデが思わず後ずさる。
「俺は、ミセス・サラ程の力はないかもしれない。でも……」
カナデを見つめる瞳には、一切の躊躇いは見られない。そのあまりに凛とした姿に、羽音の胸は熱くなった。
「俺だって神父の卵だ。お前を封印することができるかもしれないぞ?」
「なんだと……?」
「ミセス・サラが羽音に残してくれた、この聖水で、俺はお前をもう一度封印する」
「できると思うのか?」
「できる。今の俺には、怖いものなんてない」
「…………」
怖いくらい静かな時間が、瑞稀とカナデの間に流れていく。空気がピリピリと張り詰めて、痛いくらいだ。羽音は、必死に這って瑞稀へと近付いた。
「瑞稀‼ 目だ‼ 目に聖水を‼」
「え?」
「僕達インキュバスの弱点は目だ‼ 目を狙って‼」
羽音の悲痛な叫び声と同時に、瑞稀は意を決したように小瓶の蓋を開ける。
「ミセス・サラ! 俺に力を与えてください……!」
小さく呟いて、目を閉じた。
瑞稀が再びスッと目を開いた瞬間、瑞稀の姿に、ミセス・サラの姿が重なったように羽音には見えた。瑞稀の腕が振り上げられる。
「神よ! 我々を邪悪なるかの者から、お守りください!」
瑞稀は、カナデの真っ赤に燃え盛る炎のような瞳に向かって、勢いよく小瓶を投げつけた。
「ぎゃあぁぁぁ‼」
カシャン、と小瓶が割れる音と共に、カナデの断末魔が教会に響き渡った。
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