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第十一章 悲しい別れ
悲しい別れ⑤
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「んッ……」
「あ、羽音! 大丈夫ですか?」
羽音が目を覚ますと、心配そうな顔をしながら、自分の顔を覗き込む瑞稀と視線が合った。余程心配してくれていたのだろう……。心から安堵したような顔をしている。
ここはどこだろう……と、羽音がキョロキョロと辺りを見渡せば、教会にある小部屋だということに気が付く。そこは、二人が初めて結ばれた場所だった。暖炉からは薪が燃える音が響ている。
羽音は、近くにいる瑞稀の顔をそっと覗き込んだ。
「瑞稀、カナデは?」
羽音が静かに問えば、瑞稀の顔が一瞬曇る。そして、静かに首を横に振った。
「残念ながら、俺の力では、カナデを完全に封印することはできなかった。でも、この学園からは姿を消しましたよ」
「良かった……」
羽音が弱々しく微笑めば、その頬を瑞稀が優しく撫でてくれる。
「黒髪の羽音も可愛いです」
「え?」
「それに艶っぽい……」
意地悪く囁く瑞稀に、羽音は思わず赤面してしまう。
「それに、黒い羽だって綺麗……まるで夜空みたい……」
羽音の真っ黒な片羽を、優しく優しく慈しむように撫でてくれた。
「しばらくの間、ここに身を隠しましょう。悪魔の姿をした貴方が、この世界で生きていくのは難しい」
「でも……」
「大丈夫。俺が貴方を守ります」
それでも羽音は不安で仕方なかった。
自分はインキュバスに戻ってしまったのだから、誰かの精液がなければ生きていくことはできない。
それにミセス・サラがくれた聖水を失った今、いつ『ハノン』が暴れ出し、自分自身を見失ってしまうのかなんて全く想像がつかなかった。
瑞稀から精液を貰わない限り、きっと『戒めの白百合』の誘惑にも、インキュバスの本能にも……打ち勝つことなどできないだろう。
「それでもインキュバスの姿をした僕は、もう瑞稀に抱かれるわけにはいかない……」
羽音は、愛おしげに自分を撫でてくれる瑞稀の手を取り、そっと頬擦りをした。
「悪魔の僕が、君と結ばれるなんて……それに、僕は、瑞稀から精液を奪い取ることなんて絶対にしたくないんだ……」
つい先程、瑞稀に口付けられた時に、羽音は無意識に瑞稀の唾液を「美味しい」と感じてしまっていた。自分が、インキュバスに戻りつつあることに気付いた羽音は、強い恐怖を感じる。
──もう、二度と、インキュバスになんて戻りたくなかったのに……。
「僕は、絶対に瑞稀を汚したりはしないから」
羽音は、瑞稀の胸に顔を埋めながら誓ったのだった。
***
「羽音、少しは食事をとってください」
「ごめんなさい。食欲がなくて」
「羽音……」
瑞稀がミスター・レンに、事情を話して用意してもらっている食事を、羽音は一切食べようとしない。元々華奢だった体が、どんどんやつれていくのを感じた。
「やっぱり、人間の食事は受け付けませんか?」
「……はい……」
羽音は素直に頷く。
自分がどれだけ瑞稀に迷惑を掛けているのか分かる羽音は、苦しくて仕方ない。今すぐ、ここから消えてしまいたかった。
「なら、俺の精液を……」
「駄目‼ それは絶対に駄目です‼」
羽音は今にも泣きそうな顔で瑞稀を見つめた。
「お願い……僕は、もうインキュバスには戻りたくないから……」
「羽音……」
「だから、君の精液は貰えない」
その揺るぎない瞳に、瑞稀は溜息を付いた。
「わかりました」
「ごめんなさい」
「いいえ。大丈夫ですよ」
瑞稀は羽音をギュッと抱き締める。羽音はそんな瑞稀の温もりを感じながら、そっと目を閉じた。
「また痩せたか?」
羽音は、眠る時には羽があるせいで、ベッドの上で体を丸めるようにして眠った。
段々とやつれていくその姿に、瑞稀は強い焦燥感に襲われているようだ。ギュッと拳を握り締めている。
「いっその事、無理矢理抱いてしまおうか……」
瑞稀の頬をそっと涙が伝う。
「羽音が、あんなに楽しみにしていたクリスマスが終わってしまいました。来年のクリスマスは、二人でお祝いできるかな……」
羽音が眠るベッドの脇に、瑞稀がそっとしゃがみ込む。恋人である瑞稀が、こんなに心を痛めていることが羽音は
辛くて仕方がない。心が粉々に砕け散りそうだ。
「キス、じゃ駄目かな」
両頬を大きな手で包み込まれ、柔らかなものが唇に触れた感覚に羽音は瞳を開いた。
「瑞稀……?」
「ん?」
「瑞稀のキス、気持ちいい……」
「少しは、栄養になりそうですか?」
「はい。温かくて……すごく甘い。まるで、ココアを飲んだ時みたい」
羽音がフワリと微笑んでから、瑞稀の首にそっと腕を絡めた。
「ねぇ……もっと、キスして……?」
「はい。もっと……しましょう?」
「ありがとう」
羽音が目を閉じたのが合図だったかのように、再び瑞稀の唇が、羽音の唇と重なった。
「あ、羽音! 大丈夫ですか?」
羽音が目を覚ますと、心配そうな顔をしながら、自分の顔を覗き込む瑞稀と視線が合った。余程心配してくれていたのだろう……。心から安堵したような顔をしている。
ここはどこだろう……と、羽音がキョロキョロと辺りを見渡せば、教会にある小部屋だということに気が付く。そこは、二人が初めて結ばれた場所だった。暖炉からは薪が燃える音が響ている。
羽音は、近くにいる瑞稀の顔をそっと覗き込んだ。
「瑞稀、カナデは?」
羽音が静かに問えば、瑞稀の顔が一瞬曇る。そして、静かに首を横に振った。
「残念ながら、俺の力では、カナデを完全に封印することはできなかった。でも、この学園からは姿を消しましたよ」
「良かった……」
羽音が弱々しく微笑めば、その頬を瑞稀が優しく撫でてくれる。
「黒髪の羽音も可愛いです」
「え?」
「それに艶っぽい……」
意地悪く囁く瑞稀に、羽音は思わず赤面してしまう。
「それに、黒い羽だって綺麗……まるで夜空みたい……」
羽音の真っ黒な片羽を、優しく優しく慈しむように撫でてくれた。
「しばらくの間、ここに身を隠しましょう。悪魔の姿をした貴方が、この世界で生きていくのは難しい」
「でも……」
「大丈夫。俺が貴方を守ります」
それでも羽音は不安で仕方なかった。
自分はインキュバスに戻ってしまったのだから、誰かの精液がなければ生きていくことはできない。
それにミセス・サラがくれた聖水を失った今、いつ『ハノン』が暴れ出し、自分自身を見失ってしまうのかなんて全く想像がつかなかった。
瑞稀から精液を貰わない限り、きっと『戒めの白百合』の誘惑にも、インキュバスの本能にも……打ち勝つことなどできないだろう。
「それでもインキュバスの姿をした僕は、もう瑞稀に抱かれるわけにはいかない……」
羽音は、愛おしげに自分を撫でてくれる瑞稀の手を取り、そっと頬擦りをした。
「悪魔の僕が、君と結ばれるなんて……それに、僕は、瑞稀から精液を奪い取ることなんて絶対にしたくないんだ……」
つい先程、瑞稀に口付けられた時に、羽音は無意識に瑞稀の唾液を「美味しい」と感じてしまっていた。自分が、インキュバスに戻りつつあることに気付いた羽音は、強い恐怖を感じる。
──もう、二度と、インキュバスになんて戻りたくなかったのに……。
「僕は、絶対に瑞稀を汚したりはしないから」
羽音は、瑞稀の胸に顔を埋めながら誓ったのだった。
***
「羽音、少しは食事をとってください」
「ごめんなさい。食欲がなくて」
「羽音……」
瑞稀がミスター・レンに、事情を話して用意してもらっている食事を、羽音は一切食べようとしない。元々華奢だった体が、どんどんやつれていくのを感じた。
「やっぱり、人間の食事は受け付けませんか?」
「……はい……」
羽音は素直に頷く。
自分がどれだけ瑞稀に迷惑を掛けているのか分かる羽音は、苦しくて仕方ない。今すぐ、ここから消えてしまいたかった。
「なら、俺の精液を……」
「駄目‼ それは絶対に駄目です‼」
羽音は今にも泣きそうな顔で瑞稀を見つめた。
「お願い……僕は、もうインキュバスには戻りたくないから……」
「羽音……」
「だから、君の精液は貰えない」
その揺るぎない瞳に、瑞稀は溜息を付いた。
「わかりました」
「ごめんなさい」
「いいえ。大丈夫ですよ」
瑞稀は羽音をギュッと抱き締める。羽音はそんな瑞稀の温もりを感じながら、そっと目を閉じた。
「また痩せたか?」
羽音は、眠る時には羽があるせいで、ベッドの上で体を丸めるようにして眠った。
段々とやつれていくその姿に、瑞稀は強い焦燥感に襲われているようだ。ギュッと拳を握り締めている。
「いっその事、無理矢理抱いてしまおうか……」
瑞稀の頬をそっと涙が伝う。
「羽音が、あんなに楽しみにしていたクリスマスが終わってしまいました。来年のクリスマスは、二人でお祝いできるかな……」
羽音が眠るベッドの脇に、瑞稀がそっとしゃがみ込む。恋人である瑞稀が、こんなに心を痛めていることが羽音は
辛くて仕方がない。心が粉々に砕け散りそうだ。
「キス、じゃ駄目かな」
両頬を大きな手で包み込まれ、柔らかなものが唇に触れた感覚に羽音は瞳を開いた。
「瑞稀……?」
「ん?」
「瑞稀のキス、気持ちいい……」
「少しは、栄養になりそうですか?」
「はい。温かくて……すごく甘い。まるで、ココアを飲んだ時みたい」
羽音がフワリと微笑んでから、瑞稀の首にそっと腕を絡めた。
「ねぇ……もっと、キスして……?」
「はい。もっと……しましょう?」
「ありがとう」
羽音が目を閉じたのが合図だったかのように、再び瑞稀の唇が、羽音の唇と重なった。
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