22 / 49
22. 水魔法以外でも
しおりを挟む
あれから少しして、私は学んだばかりの風魔法を使いやすいように改変して放った。
魔法の改変というのは、上級者が魔力の効率や威力を高めるために用いる技法で、私はまだ習ったばかりだ。
今回使ったのは生活魔法だから、改変しても強めの風が吹くくらいの効果しかない。
けれど、イアン様は何かに気付いたらしく、嬉しそうな表情を浮かべ口を開いた。
「アイリス、今の魔法をもう一度かけて欲しい」
一体何を考えているのか、彼は自らの手の甲に引っかき傷を作った。
戸惑いながらも同じ風魔法を放つと、その傷が少しずつ塞がっていく。
「……これって」
「水魔法の時と同じだ。治りは水の方が早いが、こちらは場所を選ばずに使えると思う」
どういうわけか、私が使いやすいような改変をすると、治癒の効果が混ざってしまうらしい。
この後すぐに火魔法でも試してみたのだけど、治癒の効果は出ず火傷をするだけだった。
「……水魔法を」
「はいっ!」
真っ赤になってしまったイアン様の手に水魔法をかけると、一瞬にして火傷が癒える。
すぐに治せるとはいえ痛みは伴うから、申し訳なく感じてしまう。
「もしかしたら、極寒の中で使えば違うのかもしれないな」
「そうかもしれません。闇魔法でも試しますか?」
「ああ。光と闇は反発するから、慎重にお願いしたい」
本来なら光魔法は闇魔法を打ち消すためにも用いられる。
だから治癒魔法を混ぜた闇魔法というのは不可能に思えた。
でも、試す前に諦めるわけにはいかないから、また引っかき傷が作られたイアン様の手に向けて闇魔法を放った。
すると一瞬で彼の手の周りが真っ黒になる。
今使った闇魔法は視界を奪うためのもので、本来は相手の目の辺りに使う。
それを解くと、傷がそのままになっているイアン様の手が現れた。
「無理だったみたいです」
「流石に厳しかったか。だが、効果は桁違いに高かった。
この改変は実戦で使えると思う」
今のところ風魔法と水魔法、そして治癒魔法でしか傷を治すことは出来ない。
正直、これだけでも十分だと思うけれど、何が起きるかは分からないから、色々な魔法を使えるようになりたかった。
そう思った時。
衛兵がこんな報告をしに来た。
「殿下、魔物の群れが出たと報告が入りました。危険度が低い魔物なので、アイリス様の練習に使えるかと」
「分かった。馬車の用意を」
ただ魔法を使うだけの練習はいくらでも出来るけれど、魔物と戦うには実戦を交えないと、いざ強い魔物が出ても戦えないらしい。
魔物の対処を行う騎士団や魔導師団も訓練には実戦を取り入れているから、私も同じように練習したいと希望していた。
服装はドレスのままだけれど、魔法を使う時に邪魔になることはないから、足早に馬車寄せへと向かう。
魔物の報告があった場所までは一時間ほどかかるから、勉強のための魔法書も忘れない。
そうして王都を出ると、しばらくしたところで護衛が声を上げた。
「――前方にアンデッドの群れが居ます! 数が多いので、殿下達だけでも引き返すべきかと」
「アンデッドだと!? あれは夜にしか出ないはずだ」
「昼間にも出たことはありますが、極めて稀です。瘴気の影響かもしれません」
アンデッドというのは、夜になると現れる魔物だ。数年に一度は昼間にも目撃されることがある程度で、今日の私達は運が悪いと思う。
腐った人間のような見た目からこの名前が付けられているけれど、人間の死体というわけではないらしい。
光に弱く、本来なら夜にしか現れない。けれど、御者台に繋がる窓のカーテンを開けて前の方を見ると、低めの壁のように見えるほどの数が目に入った。
「ここまで影響が出ているとは……。
光魔法が効かないとなると厄介だが、他の魔法でも倒せる。この場で対処しよう」
ここは王都からあまり離れていないから、放置する方が危険だと判断したらしい。
いつでも逃げられるように馬車の向きを変えると、イアン様は窓を開けて魔法を放つ構えをした。
直後、彼の手から無数の光の筋が放たれる。
攻撃したことで私達の存在がアンデッドの群れに気付かれたようで、壁のように見えるものが動き出す。
「殿下、殆ど効いてません!」
「光以外の魔法も使うんだ!」
私はまだ攻撃魔法を使っていないけれど、宙に浮かべた水魔法で遠くの光景を拡大してみると、少しずつアンデッドが倒れているところは見えた。
少し前に私が戦った時は水の攻撃魔法で簡単に倒せたのに、今はいくつもの攻撃魔法が当たってやっと倒せている状況。
「アイリス、光魔法が効いているか分かるか?」
「少しだ効いています」
「分かった。光魔法で攻撃を頼む」
「まだ準備してるので、少し待ってください!」
イアン様にそう言われたけれど、まだ魔力を込めている最中だ。
慣れている魔法なら手を動かすのと同じように放てるのだけど、慣れていないと魔力を込めるだけでも数十秒はかかる。
でも、彼の言葉に返事をして十秒ほどで準備が出来たから、私も攻撃魔法を放つ。
本来なら攻撃魔法は狙いを定めてから放たないと当てられないけれど、今使っているのは魔法自ら標的に向かっていくものだから、一度にいくつ放っても当てられる。
「この量を一度に撃てるのか……」
「アイリス様、いきなりこの量の魔法を使うとすぐに魔力切れになってしまいます!」
感心しているのか、それとも驚いているのか。イアン様は間抜けな顔をして呟く。
一方で護衛は魔力切れの心配をしてくれているけれど、改変しているお陰で魔力は殆ど使わずに済んでいるから、同じ魔法を一万回くらいは使えると思う。
「これくらい大丈夫です!」
私が放った攻撃魔法は一瞬でアンデッドの群れを貫き、この一撃だけで壁が崩れ落ちるようにして倒れていく。
だから、二回目の攻撃魔法を放つことはしなかった。
「アイリス、今までも魔物の群れと戦うことがあったのか?」
「ジュリア達が移動する時に護衛をさせられて、遭遇した魔物は全部私が倒していました」
「水魔法だけで倒していたのか……。
一応聞いておくが、魔物と戦う練習の必要は本当にあるのか?」
「水魔法以外は慣れていないので、絶対に必要です! 今のままだと、魔力を込めている間に死んでしまいます」
そう説明するとイアン様も護衛達も納得してくれたようで、私達はこのまま本来の目的だった魔物の群れを探して移動することになった。
魔法の改変というのは、上級者が魔力の効率や威力を高めるために用いる技法で、私はまだ習ったばかりだ。
今回使ったのは生活魔法だから、改変しても強めの風が吹くくらいの効果しかない。
けれど、イアン様は何かに気付いたらしく、嬉しそうな表情を浮かべ口を開いた。
「アイリス、今の魔法をもう一度かけて欲しい」
一体何を考えているのか、彼は自らの手の甲に引っかき傷を作った。
戸惑いながらも同じ風魔法を放つと、その傷が少しずつ塞がっていく。
「……これって」
「水魔法の時と同じだ。治りは水の方が早いが、こちらは場所を選ばずに使えると思う」
どういうわけか、私が使いやすいような改変をすると、治癒の効果が混ざってしまうらしい。
この後すぐに火魔法でも試してみたのだけど、治癒の効果は出ず火傷をするだけだった。
「……水魔法を」
「はいっ!」
真っ赤になってしまったイアン様の手に水魔法をかけると、一瞬にして火傷が癒える。
すぐに治せるとはいえ痛みは伴うから、申し訳なく感じてしまう。
「もしかしたら、極寒の中で使えば違うのかもしれないな」
「そうかもしれません。闇魔法でも試しますか?」
「ああ。光と闇は反発するから、慎重にお願いしたい」
本来なら光魔法は闇魔法を打ち消すためにも用いられる。
だから治癒魔法を混ぜた闇魔法というのは不可能に思えた。
でも、試す前に諦めるわけにはいかないから、また引っかき傷が作られたイアン様の手に向けて闇魔法を放った。
すると一瞬で彼の手の周りが真っ黒になる。
今使った闇魔法は視界を奪うためのもので、本来は相手の目の辺りに使う。
それを解くと、傷がそのままになっているイアン様の手が現れた。
「無理だったみたいです」
「流石に厳しかったか。だが、効果は桁違いに高かった。
この改変は実戦で使えると思う」
今のところ風魔法と水魔法、そして治癒魔法でしか傷を治すことは出来ない。
正直、これだけでも十分だと思うけれど、何が起きるかは分からないから、色々な魔法を使えるようになりたかった。
そう思った時。
衛兵がこんな報告をしに来た。
「殿下、魔物の群れが出たと報告が入りました。危険度が低い魔物なので、アイリス様の練習に使えるかと」
「分かった。馬車の用意を」
ただ魔法を使うだけの練習はいくらでも出来るけれど、魔物と戦うには実戦を交えないと、いざ強い魔物が出ても戦えないらしい。
魔物の対処を行う騎士団や魔導師団も訓練には実戦を取り入れているから、私も同じように練習したいと希望していた。
服装はドレスのままだけれど、魔法を使う時に邪魔になることはないから、足早に馬車寄せへと向かう。
魔物の報告があった場所までは一時間ほどかかるから、勉強のための魔法書も忘れない。
そうして王都を出ると、しばらくしたところで護衛が声を上げた。
「――前方にアンデッドの群れが居ます! 数が多いので、殿下達だけでも引き返すべきかと」
「アンデッドだと!? あれは夜にしか出ないはずだ」
「昼間にも出たことはありますが、極めて稀です。瘴気の影響かもしれません」
アンデッドというのは、夜になると現れる魔物だ。数年に一度は昼間にも目撃されることがある程度で、今日の私達は運が悪いと思う。
腐った人間のような見た目からこの名前が付けられているけれど、人間の死体というわけではないらしい。
光に弱く、本来なら夜にしか現れない。けれど、御者台に繋がる窓のカーテンを開けて前の方を見ると、低めの壁のように見えるほどの数が目に入った。
「ここまで影響が出ているとは……。
光魔法が効かないとなると厄介だが、他の魔法でも倒せる。この場で対処しよう」
ここは王都からあまり離れていないから、放置する方が危険だと判断したらしい。
いつでも逃げられるように馬車の向きを変えると、イアン様は窓を開けて魔法を放つ構えをした。
直後、彼の手から無数の光の筋が放たれる。
攻撃したことで私達の存在がアンデッドの群れに気付かれたようで、壁のように見えるものが動き出す。
「殿下、殆ど効いてません!」
「光以外の魔法も使うんだ!」
私はまだ攻撃魔法を使っていないけれど、宙に浮かべた水魔法で遠くの光景を拡大してみると、少しずつアンデッドが倒れているところは見えた。
少し前に私が戦った時は水の攻撃魔法で簡単に倒せたのに、今はいくつもの攻撃魔法が当たってやっと倒せている状況。
「アイリス、光魔法が効いているか分かるか?」
「少しだ効いています」
「分かった。光魔法で攻撃を頼む」
「まだ準備してるので、少し待ってください!」
イアン様にそう言われたけれど、まだ魔力を込めている最中だ。
慣れている魔法なら手を動かすのと同じように放てるのだけど、慣れていないと魔力を込めるだけでも数十秒はかかる。
でも、彼の言葉に返事をして十秒ほどで準備が出来たから、私も攻撃魔法を放つ。
本来なら攻撃魔法は狙いを定めてから放たないと当てられないけれど、今使っているのは魔法自ら標的に向かっていくものだから、一度にいくつ放っても当てられる。
「この量を一度に撃てるのか……」
「アイリス様、いきなりこの量の魔法を使うとすぐに魔力切れになってしまいます!」
感心しているのか、それとも驚いているのか。イアン様は間抜けな顔をして呟く。
一方で護衛は魔力切れの心配をしてくれているけれど、改変しているお陰で魔力は殆ど使わずに済んでいるから、同じ魔法を一万回くらいは使えると思う。
「これくらい大丈夫です!」
私が放った攻撃魔法は一瞬でアンデッドの群れを貫き、この一撃だけで壁が崩れ落ちるようにして倒れていく。
だから、二回目の攻撃魔法を放つことはしなかった。
「アイリス、今までも魔物の群れと戦うことがあったのか?」
「ジュリア達が移動する時に護衛をさせられて、遭遇した魔物は全部私が倒していました」
「水魔法だけで倒していたのか……。
一応聞いておくが、魔物と戦う練習の必要は本当にあるのか?」
「水魔法以外は慣れていないので、絶対に必要です! 今のままだと、魔力を込めている間に死んでしまいます」
そう説明するとイアン様も護衛達も納得してくれたようで、私達はこのまま本来の目的だった魔物の群れを探して移動することになった。
1,086
あなたにおすすめの小説
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる