天職を見つけたので毎日が幸せです!

水空 葵

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第1章 公爵令嬢、職探しをします

5. 【閑話】取り返しのつかない事

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 マリエットが王宮で契約を結んでいる頃。
 バルテン侯爵邸では怒声が響いた。

「マリエット様との婚約を勝手に破棄しただと!? 何を考えているんだ!」
「料理好きの女と結婚するなんて有り得ません! 代わりに火炎スキルと水のスキルを持っているカミラ嬢と婚約するので、安心してください」

 怒声の主はエルマーの父であるバルテン侯爵だ。
 対するエルマーは冷静で、淡々と自身の考えを口にする。

「そういうことではない! 相手は公爵家、婚約破棄などという無礼を働いたら、我が家は消し飛んでしまうぞ! 今すぐグルース邸に行って、婚約破棄の撤回と謝罪をしなさい!」
「絶対に嫌です。何故、あんな女のために頭を下げる必要があるんですか? そもそも、婚約破棄するのはマリエットが婚約者の責務を果たさないからです」

 堂々としているエルマーを前に、侯爵はついに頭を抱えてしまう。
 仮にエルマーの言葉が事実だとしても、相手は王国で一番権威と武力を持っている家だ。

 おまけにマリエットは優秀かつ美麗な令嬢として貴族界で評判で、婚約者であるエルマーに対して献身的な姿を度々見られている。
 侯爵自身もその姿を見たことがあり、エルマーの言葉は欠片も信じられない。

「婚約者の責務を果たしていないのはお前の方だ! 毎日どこかに出かけるから不信に思っていたが、カミラ嬢と浮気をしていただと!? 恥を知れ!」
「父上は俺が盆暗ぼんくら令嬢と結婚してお先真っ暗になることを望むのですか!? カミラと結婚した方が、この家の将来が明るくなるんですよ?」
 
 一体どこで教育を間違えたのか。ついにバルテン侯爵は頭を抱えてしまった。
 思い出されるのは、どれだけ優秀な家庭教師を雇っても、勉強から逃げ出すエルマーの姿。

(もうこの家は終わりだ……)

 内心で嘆く彼の顔からは血の気が引き、そして再び赤く染まる。

「これ以上の愚行は許さない。勘当されたくなければ、謝罪しに行きなさい」

 護身用の剣を手にとり、そう口にする。
 すると、流石のエルマーも危機感を覚えたようで、すぐに外出の準備を始めた。

「私も同行する。くれぐれも、粗相はしないように」
「はいはい、分かりました」
「はぁ……もうお先真っ暗だ」
「やはり、マリエットと婚約破棄して正解でしたね」
「お前が全ての元凶だ。ここで取返しがつかなければ、勘当する」

 そんな言葉が放たれると、馬車の中は静まり返る。
 聞こえてくるのは、道行く人々の喧騒とガタゴトと揺れる馬車の音だけ。

 やがて、その音も小さくなると、御者が到着を告げた。

「――本日はどういったご用件でしょうか?」
「愚息の愚行を謝罪しに参りました。マリエット様とご夫妻にお会いしたく存じます」

 石のように動かないエルマーに代わり、侯爵が門番の言葉に返す。
 すると、門番は何かに視線を向けてから口を開いた。

「かしこまりました。確認して参りますので、少々お待ちください」

 今までは約束が無くても玄関までは通されていたが、今回は門すら通されなかった。
 この状況に、バルテン侯爵はグルース公爵家がかなりお怒りだと察した。

 一方のエルマーは何も気付いていないようで、本から視線を上げようともしない。
 その時、門番が大勢の使用人を引き連れて戻ってきた。

「――お待たせいたしました。中へご案内致します」
「ありがとうございます」

 普段よりも出迎えの人数が多い事から、侯爵は警戒されていると悟る。

「父上、歓迎されて良かったですね」
「その逆だ」

 もっとも、エルマーは事の重大さに今も気付かない。

 それから少しして、煌びやかな廊下を進み応接室に入ると、グルース公爵夫妻が姿を見せた。

「呼び出す手間が省けて助かりました、バルテン侯爵殿。
 貴方の家が我々に働いた不義理は許し難いものです。よって、今後一切の取引を中止します」
「お、お待ちください。今回、愚息のしでかしたことは大変申し訳なく思っております。今回の件は反省し、出来る限りの謝罪をしますので、どうかお許しください」

 先手を打たれ、慌てて頭を下げるバルテン侯爵。
 その様子を見て、エルマーもようやく危機感を抱く。

 だから遅れて頭を下げるが、返ってきた声は冷ややかなものだ。 

「当家の負う損害を貴殿が払えるとは思えません」
「マリエット様にも謝罪しますので、どうか寛大なご処置を……」
「マリエットは心に深い傷を負い、傷心のまま家を出てしまいました。当家の総力を挙げても見つかっていないので、もしかしたら……」

 グルース公爵に睨まれ、エルマーは一気に顔を青白くする。
 まるで「お前が娘を殺した」と言われているように錯覚したのだ。

 もっとも、グルース公爵家はマリエットの所在を掴んでおり、密かに警護もさせている。
 けれどエルマーを許すつもりは欠片も無く、婚約解消の書類を無言の圧をかけながら突き出すのだった。
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