天職を見つけたので毎日が幸せです!

水空 葵

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第3章 公爵令嬢、みんなの胃袋を掴みます

21. 危ないことなので

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 しばらくして。
 無事にパーティーはお開きとなり、マリエット達は一度私室に戻ることになった。

「これから片付けがあるから、もう少しだけ頑張りましょう!」
「分かりました!」

 今までなら、パーティーの後は邸に帰って眠るだけだった。
 けれど王宮仕えとなった今は、後片付けを終わらせないと眠ることも出来ないのだ。

 ダンスに社交。とにかく気を遣うパーティーは疲れるものだが、少しでも休憩すると気が重くなってしまうため、多くの使用人は休まず片付けに取り掛かるらしい。

(私も着替えたらすぐに片付けに行った方が良さそうね)

 マリエットも先輩達の知恵に倣うことにして、私室に戻ると手早く着替えていく。
 ドレスは手間がかかるものの、動きやすいように作られている使用人の制服にはすぐ着替えることが出来る。

 けれど、マリエットが厨房に着いた時。
 既に他の料理人達は片付けを進めている最中だった。

「遅くなってしまい申し訳ありません」
「それくらい気にしなくて良いぞ!」

 料理長の笑顔と明るい言葉で、マリエットの罪悪感は一瞬で吹き飛ぶ。嫌な顔をする人も陰口を叩く人も居ない。

 料理人だって貴族出身の者が多いというのに、パーティー中とは大違いだ。

「マリエットさんの唐揚げ、大人気でしたね」
「玉子焼きの方が人気だった気がするが、お陰で他の料理も好評だった」
「最初は物珍しそうに見るだけの方が多かったのに、気が付いた時には無くなっていたので驚きましたよ」

 皆が褒めるものだから、マリエットはくすぐったさを感じてしまう。
 公爵令嬢として厳しく育てられてきたから、褒められることは慣れないのだ。

「マリエットさんは見習いと思えないくらいすごいわ。でも、不思議なこともあるの。スキルのレシピは一体どこから来ているの?」
「確かに、それは気になるな。世界中を渡り歩いてきた私でも、玉子焼きと唐揚げは知らなかったからな」
「……俺も気になるな」

 一体いつからそこに居たのか。
 テオドールまで話に加わってきて、マリエットは答えに詰まってしまった。

 実のところ、レシピスキルに示される料理がどの国のものなのか、マリエットにも分からない。分かるのは必要な食材と作り方、そして料理が完成した時の見た目だけ。

「――私にも分かりませんの」
「そうだったのか。スキルは神様からの授かりものだから、神様が考えているのかもしれないな」

 明確な答えは出せなかったけれど、テオドールはそう口にしながら納得した表情を浮かべる。
 どうやら今の答えを受け入れてもらえたらしい。

「神様が考えている……一理あると思いますわ。どのレシピで作っても、とても美味しく出来るのですから」
「レシピが良くても、腕が悪いと美味い料理は出来ないと聞いている。マリエット嬢の腕が良いお陰でもあるだろう。君の料理の一部始終を見てみたいものだ」

 褒められることは素直に嬉しいと思う。
 けれど、食事を作る一部始終を王族に見せるわけにはいかない。

 食材調達を省いたとしても、炎に刃物に飛び跳ねる油と、厨房は安全とは程遠い場所になるのだ。
 一部始終となれば、テオドールを危険な獣の前に晒すことになる。何事も無ければ良いものの、発覚すれば懲罰は必至だ。

 もしテオドールが怪我をするようなことになれば、処刑される可能性だってある。

(毎回見に来られたら命がいくつあっても足りないわ)

 だから、マリエットは保身の方法を考えた。

「……料理には危険が伴いますので、陛下の許可を得てからでお願いしますわ」

 国王が認めていれば、責任から逃れることが出来る。
 他の国の王家は理不尽な理由で人を処刑することもあるが、ここレスタン王国でそういう悲しい話は聞いたことが無い。

「料理というのは、それほど危険なのか?」
「はい。牛の角が身体を貫くこともありますわ」
「……分かった。父上に相談してみよう」

 テオドールは落ち着いた口調だが、どこか寂しさも滲み出している。
 一方のマリエットはというと、牛肉を使った料理を思いついた。

 けれど、今日はいつにない忙しさだったため、皆疲れ切っている。マリエットもパーティーで体力と気力を削がれてしまったから、すぐにベッドに入りたい気持ちでいっぱいだ。
 だから……テオドールが厨房を後にした後、片付けが全て終わるとすぐに私室へと足を向ける。

「おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」

 部屋の前でアンナと挨拶を交わし、マリエットは就寝の準備を始める。
 身体は疲れているけれど、次の料理で皆を笑顔にすることを考えたら、楽しみな気持ちが強くなる。

(明日が楽しみだわ)

 不安が無いわけではない。
 けれども、マリエットの表情は明るかった。
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