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第二章 ボーダーラインを超えていけ

18 新たな仲間

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「さぁて、次はダンジョンの中層だな!」

 日課のポーション作りを終え、ブレイブはいつもの宿の部屋でケイナに向かって話しかけた。

 彼女は青い目を輝かせて返事をする。

「そうですね。楽しみです!」

 しかし、シズルはそんなブレイブに釘を刺す。

「先に言っておくが、中層に行くならこのメンバーじゃ厳しい。さらに仲間を増やす必要があるぞ」
「二人じゃダメなのか?」
「ああ。上層よりも中層の方が、単純にモンスターの出現数が多いんだ。こちらも人数を揃えないと話にならない」
「そ、そうか。どうしよう……」

 孤児院にはもう冒険者になりたい子供はいないはずだから、何か他の手を考えるしかなさそうだ。

 ブレイブが頭を悩ませていると、ケイナが話しかけてくる。

「あの、シズル様はなんと……?」
「中層に行くならパーティーのメンバーを増やす必要があるらしいんだよ」
「そうですか! それなら、冒険者になりたいっていう子がいますよ!」

 ケイナが待ってましたと言わんばかりの反応をする。

「え、前にそんな子供いたか?」
「いえ。その後のことなのですが、私が孤児院へ戻った時にダンジョン探索の話を子供達にしていたら、冒険者になりたいという子が出てきたんです」
「おお、本当か!? ケイナのおかげだな、ありがとう!」
「はい! ……シ、シズル様も喜んでくれていますか?」

 おずおずとケイナがブレイブに聞く。

「どうなんだ、シズル?」
〔なんでわざわざ僕に聞く? 仲間が増やせるならいいに決まっているだろう〕

 シズルが面倒くさそうに答える。

「ケイナ、シズルは喜んでるぞ」
「ほ、本当ですか!?」

 ケイナは尻尾をブンブン振る。かなり嬉しいらしい。

〔おい、適当なことを言うんじゃない。それにこいつ、なんで僕には様づけなんだ? 神様か何かだと思っていやがるのか。僕は神が嫌いなんだ。特に女神が──〕

 前に聞いた話のようなので、ブレイブはシズルの話をスルーすることにした。

「よぉし、じゃあ孤児院に行くか!」
「はい!」

 シズルが何やら文句を言っている気はするが、今は仲間を増やす方が重要だろう。

 二人は早速孤児院に向かう。途中でブレイブは、差し入れの花とパンを買う。


 孤児院に着くと、この辺ではまず見かけない貴族が使用する馬車が停まっていた。

 孤児院の入り口はドアが開いている。

「絶対に後悔はさせません! させませんとも!」

 中から、見知らぬ男の声が聞こえてくる。

 来客かと思いつつブレイブが中に入ると、シスターのユリアが身なりの小奇麗な男と会話をしている最中だった。

 ユリアは愛想笑いを浮かべ、何やら困った様子だったが、ブレイブに気がつくと手を振ってきた。

「ブレイブ君! 来てくれたのね!」

 そういうと、逃げるように小走りでブレイブに近づいてくる。

 すると、先程ユリアと会話していた男が振り返り、こちらをギロリと睨みつける。

 その男の身なりは確かに小綺麗だった。

 しかし、服がはち切れんばかりに肥えた腹、禿げ上がった頭、『ぶふぅ!』という荒い鼻息が、どうしても下品に見えてしまう。

 男もこちらに近づいてきて、ブレイブとケイナを蔑むような目で一瞥する。

「ユリア殿! 考えておいてくださいよ!」

 ユリアにそう言い残すと、男は数歩歩くだけで『ぶふぅ!』と荒い呼吸をして去っていった。

「今のは誰ですか、ユリアさん?」

 ブレイブはユリアに聞いてみる。

 すると彼女は、少し困惑した様子で話し始めた。

「あの方はデッボ・ツンべ・ヴットケ様という名の貴族なの。しばらく前から教会や孤児院に寄付をしてくれるようになってね。親切な方だからとても感謝していたの。でも最近になって、さらに寄付する代わりに、私との結婚を求めるようになったのよ」
「ええ!? そ、そんな! でも、結婚となると貴族は色々しがらみがあるんじゃ?」
「そのはずなんだけど、私をどこかの貴族の養子にして身分を与え、デッボ様の家柄に恥じないようにするそうよ。困ったわ……」

 ブレイブはその話に愕然とする。

 ユリアには幸せになって欲しいが、状況を聞く限り、まるで金でユリアを買おうとしているようではないか。

 そんなこと、俺は許さない。

 ブレイブは決心した。その思いをユリアにぶつける。

「ユ、ユリアさん!」
「なぁに?」
「俺、ユリアさんには幸せになって欲しいんです! でも、あの男はユリアさんに相応しくありません! だから、俺が代わりにユリアさんを幸せにします!」

 ブレイブは、思いの丈をユリアにぶつけた。

〔ほう〕
「わぁ!」

 シズルもケイナも、何やら感心したような反応をする。

 ユリアは驚いたように目を見開く。そして、いつもの穏やかな表情に戻った。

「ふふふっ、ありがとう。ブレイブ君は相変わらず優しいわね。この孤児院は寄付で成り立っているから、デッボ様の申し出を断ると寄付もなくなってしまうかもしれない。でも、私はこの孤児院を離れたくないわ。だって、子供達と暮らしているのが幸せなんですもの。ブレイブ君がこうして来てくれるのも、とっても幸せよ」

 彼女はそう言ってニコリと微笑む。その笑顔はまるで天使のように尊く美しい。

「デッボ様の申し出は断るわ。お金なら、何とかしてみせる。そして子供達も、自分も、幸せにしてみせる。……それに気づけたのは、ブレイブ君のおかげよ。ありがとう!」

 ユリアは再びブレイブに礼を言う。

 彼女の表情は穏やかながら、目には強い意思が宿っている。

「え? そ、それだけ、ですか?」
「それだけって、何かしら?」
「あ、いや、……なんでも、ないです」


 どうやらブレイブ一世一代の告白は玉砕したらしい。彼は肩をがっくりと落とす。

〔むう……〕
「あぁ……」

 シズルとケイナからは、憐憫の情がこもった声が漏れる。

「そういえば、今日はどんな用件かしら?」

 ユリアはいつものように、ブレイブに聞く。

 しかし、傷心のブレイブには答えられそうもない。

 それを察したらしいケイナが、ブレイブに変わってユリアに事情を説明した。

「ブレイブ君は信用できる人だし、ケイナちゃんもいれば安心ね。じゃあ、冒険者になりたい子を連れてくるわ」

 そうしてユリアが連れてきた子供は二人だった。

「二人とも、挨拶してくれる?」
「おう!」「は、はい」

 二人はそれぞれ返事をする。

「オレはバッツで、コイツはメグ! オレ達は十四歳、ドワーフ族の双子だ! ブレイブ兄ちゃん、これからよろしくな!」
「よ、よろしくお願いします……」

 二人とも同じぐらいの身長で、高さはブレイブの腰より少し上ぐらいだろうか。

 見た目は十歳ぐらいの人間の子供のようだ。つぶらな瞳が可愛らしい。

〔へえ、ドワーフか。悪くない〕

 シズルが何やら呟く。

 ブレイブは何とか気を持ち直して、二人と目を合わせる。

「おう! これからよろしくな!」

 こうしてブレイブのパーティーに、新しく双子のドワーフが入ることになった。
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