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第二章 ボーダーラインを超えていけ

25 ダンジョン中層の攻略② 素材集め

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〔中層はとにかく量で攻めてくる。それに質も決して低くはない。今回の僕達の目的は素材集めだ。つまりまともに戦う必要はないから、ここを走り抜けろ〕
「こ、この中を……? くそっ! みんな、走り抜けるぞぉ!」
「えぇ!?」

 ケイナが小さく悲鳴を上げる。バッツもメグも顔を青くしている。

 ブレイブ達は一斉にモンスターの群れの中を駆け出した。

 第九階層への道を知るブレイブを先頭に、バッツとメグがそれに続き、しんがりをケイナが務める。

 途中、どうしても敵を排除しないと切り抜けられない場合を除き、一行は逃げ続けた。

 そして、そのままどんどん階層を下りて行き、ついに第九階層に到達した。

 全員が肩で息をしており、疲労困憊の状態だ。

「ダンジョン中層って、こういう感じなのかよ……!」
〔そうだ。いい経験になっただろう〕
「そうかも知れないが、二度と経験したくねえな」

 苦々しい口調でブレイブが言う。

〔鉱床まではもう少しの距離だ。ここで休んで疲れを癒したら、また走るぞ〕
「……了解」

 少しの休憩の後、一行は再び走り出した。

 そしてついに銅と錫の鉱床にたどり着いた。

「うおぉお!? すっげぇ!」

 バッツが興奮した様子でそのフロアを見渡す。

 フロアは広い空洞のようになっており、壁一面に様々な色の金属の鉱石が埋まっている。

 ランタンの光がその金属を照らすと、キラキラと反射して美しい。

 ブレイブ達はその光景に見惚れてしまう。

「さ、早速掘っていいか!?」

 採掘道具を手にすると、待ちきれないといった様子でバッツがブレイブに聞く。

「待って、バッツ! ブレイブさん、なにかいます……!」

 ケイナの目が向いた先はフロアの最奥だった。

 確かに、なにやら「シュー」っという音やモゾモゾと蠢く音が聞こえてくる。

 ブレイブ達が近づいて見ると、その正体はアシッドスラッグの群れだった。

 しかし体の色は、白ではなく褐色だ。

〔ほう、こいつは銅と錫を食ったアシッドスラッグの変異種だな。倒せば青銅のインゴットをドロップするぞ。良かったな〕
「よ、良かったのか……? 変異種って強いんじゃ?」
〔まあな。メグの魔術を中心に攻撃すれば、そのうち倒せるだろう〕

 シズルがこともなげに言う。

「みんな、こいつが最後だ! こいつを倒して素材をゲットするぞ!」
「「「おー!」」」

 バッツを中心に、みんな元気よく返事をする。


 ブレイブ達は、通常のアシッドスラッグと同じような戦法で戦いを始めた。

 通常の個体と変異種で違うところは、後者の方が攻撃が素早く、酸性の粘液を避けきれないことだ。

 ケイナとバッツは仕方なく、手にした盾でその攻撃をガードする。

 すると盾から煙が立ち、「シュー」っと音を立てて溶けていく。

 ブレイブも度々攻撃を避けられず、粘液を身体に受けてしまい装備が破壊されてしまう。

 幸い、変異種は通常の個体と同様に炎が弱点らしく、メグの魔術が効きやすい。

 メグは必死で魔術を連発し、ブレイブがアーツを繰り出してトドメを刺すことで、一体一体撃破していく。

 そうして、装備がボロボロになりながらも、何とかアシッドスラッグを全滅させた。

「「「「やったー!!」」」」

 ブレイブ達は勝利の雄叫びを上げる。

「ギリギリだったな……。少し休むか……」

 ブレイブの言葉に、ケイナとメグが同意する。

 しかしバッツだけは妙に元気いっぱいだ。

「ブレイブ兄ちゃん、オレ、採掘しててもいいか?」
「お、おう。むしろ助かるけど……」
「じゃあ、行ってくるわ!」

 バッツは装備を脱ぎ捨てると、採掘道具を持って鉱床に駆け出した。

 カーン! カーン! カーン!

 早速バッツは採掘を開始したようだ。

「お兄ちゃんのあんなに楽しそうな姿、初めて見た……」

 メグは呆気にとられた様子でバッツを見ている。

 しばらく休憩した後、ブレイブ達も採掘に加わった。

 そして、全員が持てる限界の量を採掘して作業を終えた。

 鉱石の半分以上はバッツが掘り出したものだ。

 また、アシッドスラッグの変異種がドロップしたインゴットも回収する。

 よく見ると、インゴッドの色が黄色い。

〔これは黄銅か。変異種のレアドロップだな。青銅よりも強力な装備が作れるぞ!〕

 シズルが少しウキウキした様子で喋る。

「まじかよ!? 頑張って倒して良かった!」

 強い装備に目がないブレイブは、テンションが跳ね上がる。

「よぉし、じゃあ帰って装備を作りに行こう!」
「おう!」
「「は、はい……」」

 ブレイブとバッツは元気一杯だが、ケイナとメグは疲れ果ててげっそりしている。

 元気な二人が鉱石の大半を持ち、鉱床のあるフロアから出た。

 上層への階段の付近まで来た時、ケイナは何かに気づく。

「ブレイブさん、あっちから何かがすごい速さで近づいてきます! この音、聞いたことがないです。アシッドスラッグでも、デスモダスでもないですよ!」
〔この階層には他のモンスターは出ないはずだが。まさか……〕

 ブレイブ達がケイナの指さす方に目を向ける。

 音はどんどん大きくなり、ブレイブ達にも聞こえるほどになった。

 コツコツコツコツコツコツコツコツ!

 蜘蛛だ。無数の蜘蛛がこちらに向かってくる。

〔ア、アラニドだと!? 第十階層以降に出てくるモンスターだぞ!〕
「まっ、またディビアントかよ!?」
〔とりあえず、逃げろ!〕
「くそっ、全員走れ!」

 ブレイブはそう言うと、一目散に上層に向かって駆け出した。ケイナ達も全力でその後を追う。

 全員が階段を駆け上がる。しかし、アラニドの群れが追いかけてくる。

〔おいブレイブ、虫除香を使え!〕
「な、なんだそれ?」
〔以前よろず屋で買っただろ! その瓶を奴らの目の前に叩きつけるんだ!〕
「わ、分かった!」

 ブレイブは走りながら、バッグの中身を漁る。しかし、鉱石が詰まっていてどれがどれだか分からない。

 アラニドはもう直ぐ背後に迫っている。その姿は近くで見ると、悍ましいものだった。

 全身がビロードのような産毛で覆われており、その色は白がベースで時々黒が入ったまだら模様になっている。

 体はアシッドスラッグと同程度の大きさで、口からは鋭い針が出ている。

 四つある目は全て真っ黒で、殺意以外感じ取ることはできない。

 先頭のアラニドは、口を前方に突き上げ、針の先端をブレイブ達に向ける。

〔早くしろ! 毒針を飛ばしてくるぞ!〕
「そ、そんなこと言ったって……、あ、これか?」

 ブレイブは紫色の液体が入った小さな小瓶を取り出した。

〔それだ! 先頭の奴に投げつけろ!〕
「お、おう!」

 ブレイブは後ろ走りになりながら振り向くと、小瓶を先頭のアラニドに投げつけた。

 パリン!

 アラニドの額にぶつかって割れた小瓶から紫色の液体が飛び出すと、そこから薄い煙が発生し周囲に広がっていく。

「ギィィィィィイイイイイ!」

 高い耳障りな鳴き声を発すると、アラニドの群れは進軍を止め、すぐさま後方に引き返していった。

「はぁ、はぁ、あっぶねえ……」
「し、死ぬかと思いました……」

 ブレイブとケイナがそう言うと、息を切らしながらバッツとメグも頷く。

 危機を切り抜けたブレイブ達は、少し休憩してダンジョンを上っていく。

 その後は何も起こることなく、ダンジョンを抜けて町に戻ることができた。

 そして一行は装備製作のため、平民街にある鍛冶屋が並ぶ区画へと向かった。
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