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第二章 ボーダーラインを超えていけ

26 装備製作

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 一行は装備製作のため、平民街にある鍛冶屋が並ぶ区画へと向かった。

 ブレイブはこれまで鍛冶屋で装備の製作を依頼したことがない。

 というのも、オーダーメイドの装備は高価であり、高ランクの冒険者でなければ注文するのは難しいのだ。

「なあシズル、鍛冶屋に装備を注文なんかして、俺達破産しないよな?」
〔EKOでは素材を揃えれば、製作費はそれほど高くはなかったぞ。それに鍛冶屋で制作すると装備の性能が通常のものよりも高くなるから、僕は必ず鍛冶屋を使っていた〕
「へぇ……それは楽しみだな!」

 ブレイブは新しくできるであろう装備に胸を膨らませる。

 バッツはと言えば、スキップをしながら「かっじや! かっじや!」などとリズム良く口ずさんでいる。

 それにメグは、「ちょっとお兄ちゃん、恥ずかしいよ……」と小声で注意する。

 しかし、バッツはまるで聞いていない。

 ケイナはそんな二人を笑顔で見守っている。


 そうこうしているうちに目的地に到着し、シズルがいた世界でよく利用していたという鍛冶屋に向かった。

 そこはドワーフが運営する鍛冶屋らしく、親方と思われるドワーフが部下へ忙しそうに指示を出していた。

 働いている人種は様々で、ドワーフはもちろん、人間や獣人なども多い。

 非常に人気がある店らしく、多くの冒険者が列を成して自分が注文する番を待っている。

 ブレイブ達もその列に並ぶことにした。

 バッツはその列から、食い入る様に店内の工房を見ている。

 そんなバッツにブレイブが声をかける。

「列には俺達が並んでるから、バッツは近くで見てていいぞ」
「本当か、ブレイブ兄ちゃん!? ……なら行ってくる! メグも行こうぜ!」

 そういってメグの手を取り、バッツは走り出す。

「ちょっと、お兄ちゃん!?」

 メグは驚くが、それを気にする様子もなくバッツは彼女を引っ張っていく。

 そうして二人は店内に入ると、ギリギリまで工房に近づき見学を始めた。

 バッツは先ほど同様に工房へ釘付けだが、メグはなんだか気まずそうだ。

 しばらくしてブレイブ達の注文する番がきた。

「いらっしゃい! 待たせたな! 注文を聞こうか!」

 受付をしている筋骨隆々のドワーフがブレイブに声をかけてくる。

「青銅の装備を作りたい。素材はこれを使ってもらえるか?」

 そう言うとブレイブは、素材をカウンターに乗せ、製作を頼みたい装備を説明した。

 装備のほとんどがアシッドスラッグに溶かされたり破壊されたので、ブレイブの持つ〈狼牙〉以外はほとんど全部製作する必要がある。

「なるほど。まあこれだけあれば十分だな。……で、このインゴットは黄銅か。どうやって手に入れた?」
「ああ、アシッドスラッグの変異種を倒したらドロップしたんだ。これも使えるかな?」
「もちろんだ。ついてるな、坊主。そこらにゃ売ってねえ、強えぇ装備を作ってやるぜ!」

 筋骨隆々のドワーフはやる気満々だ。

「ほ、本当か!?」
「任せとけ! だが、どの装備に使う?」

 何に使うかまで考えていなかったブレイブは「うーん……」と悩む。

〔バッツ用の盾にでもしておけばいい。黄銅なら多少はアシッドスラッグの酸にも耐えられるだろう〕

 シズルの言葉にブレイブは小さく頷く。

「タワーシールドに使ってくれ!」
「分かった。納品までの時間はそうだな……三日、いや二日でできるだろう」
「なら二日後に取りにくるよ」
「よし。で、費用は金貨五枚だ。先払いでも後払いでもいいぞ。ただ、後払いなら前金で金貨一枚をもらう」
〔……は?〕

 シズルはドワーフの言葉を信じられないといった様子だ。

〔いくらなんでも高過ぎるだろ……相場の二倍以上だぞ? こいつ、僕達を子供だと舐めてやがるのか? それとも、EKOと相場が違うのか……?〕
「ちょっと聞いてみるか」

 ブレイブはドワーフに確かめる。

「かなり費用が高いみたいだが、間違いではないか?」
「……昔の相場と比べてってことか? なかなか詳しいな、坊主。確かに、しばらく前に値上げしたんだよ。イカれたギャング、ヴァルチャーのくそったれ共に場所代を要求されて、仕方なくな。断ったらこの店も、他の鍛冶屋もぶっ壊すなんて言いやがる。この店は俺達の命みたいなもんだ。それが人質に取られたようなもんだよ」
「……本当かよ。許せねぇな、あいつら!」

 ドワーフの無念そうな表情に、ブレイブは怒りが込み上げてくる。

 そんなブレイブに、ケイナが横から冷静な意見を述べる。

「ブレイブさん。金貨一枚なら手元にあるので、前金は払えます。残りのお金はみんなでポーションを作れば、三日でなんとかなるのではないでしょうか?」
〔……ケイナの言う通りだな。ギャングに金を払っているようで癪だが、今は仕方がないだろう。ブレイブ、ケイナの案でいこう〕
「……わ、分かったよ」

 ブレイブは納得がいかないが、二人の言葉に頷く。

 そしてドワーフに製作を依頼し、金貨一枚を払った。


 オーダーメイドのため、ブレイブ達は寸法を測るように言われて店内に入る。

 寸法を測り終えると、奥から親方らしきドワーフが姿を現した。

 そのドワーフはブレイブ達を鋭い目で見回す。

 そして、工房をキラキラした目で見つめるバッツと、なんとなく眺めているメグに目を止め、話しかけた。

「……おい小僧ども。オメェら、鍛治が好きなのかい?」
「もちろんだ! 最高だよ!」

 バッツはそう言って大きく頷く。

「わ、私はあまり……」

 メグはそう呟くと下を向く。

「そうか。なら坊主、工房の中を少し見ていくかい?」
「い、いいのか!?」
「ああ。オレがガキの頃も、坊主みたいによく工房を眺めてたもんだ。やっぱりドワーフと言ったら鍛治だからな。わははははっ!」

 そのドワーフは豪快に笑うと、「着いてこい!」と言って工房に入っていく。

「ちょっとお兄ちゃん、そんな勝手なことをしたらまずいよ……」

 メグはちらちらブレイブの方を見ながら、バッツに注意する。

 バッツはハッとして、ブレイブに聞く。

「あ……。そ、そうだな。ブレイブ兄ちゃん、行ってきてもいいか……?」
「いいぞ! 俺達の方は大丈夫だ!」
「そっか、ありがとう!」

 そう言って、バッツはバタバタと工房に入って行った。

「もう、お兄ちゃんったら……」
「ならメグには、バッツの分もポーション作りに協力してもらうとするかな?」

 申し訳なさそうなメグに、ブレイブがニヤリと笑みを浮かべて言う。

「ま、また私が作ってもいいんですか!?」
「もちろんだ。むしろメグが一番うまいから手伝って欲しいと思ってたんだよ」
「ほ、本当ですか!? じゃあ、早速行きましょう!」

 今度はメグがパタパタと店を出ていく。

 その様子を見て、「二人とも、なんだかんだ似てますね」とケイナが苦笑する。

 そうしてブレイブ達は、バッツを鍛冶屋に残し、キュアポーションを作るべく宿屋へと向かった。
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