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運命さんこんにちは、さようなら
7 『運命』からの手紙 ①
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「あの、僕もうひとりの『保険』って言ったら分かりますか? 桂木 玲斗です」
それは突然の訪問だった。
燐は急用で朝からバタバタと出掛けており留守にしていた。その為、いつもは燐がしていた来客の対応を咲がすることになったのだ。本来なら誰であっても外部の人間と接触してはいけなかったが、そのことを燐が伝えていなかった為咲はインターフォンに出てしまったのだ。
燐は咲と番ったことで晶馬の傍にいる必要はなくなり、晶馬たちが無事に番うまでは咲の傍を離れないことになっていたし、外部との連絡はすべて燐が取るつもりでいた。部屋に閉じ込めておくことでもストレスだと思うのに、ひとつひとつをいちいち言葉にして鎖で繋ぐようなことはしたくなかった。自分がうまくやりさえすればいいと思っていたのだ。その気遣いが今回は裏目にでてしまった。
そしてこの建物の周りには万が一に備えて鷹取家が用意した者たちで固められていたが、玲斗が羽鳥家の『保険』であり、Ωであることから見逃されてしまったのだ。誰であれあってはならないことだったが、燐が咲と番ったことで周りの人間も少しだけ気が緩んでしまっていた。
咲は目の前に立つ玲斗に少しの間見惚れてしまっていた。首に填められたネックガードから自分と同じΩだと分かるが、目の前に佇む人はとても美しく儚げに見えた。「えっと……」という玲斗の柔らかな戸惑いを含む声にハッとして、咲は現状を思い出した。この人が燐と同じ『保険』だというなら玄関先では失礼だと思い、部屋の中に入るように促したがやんわりと断られた。
「僕はこれをあなたに渡すよう言われて来ただけですから」
と玲斗は控えめに微笑み、手紙をカバンから出した。その手紙からはわずかにあの香りがして、受け取ろうと伸ばしかけていた手が止まった。が、玲斗は咲の手を掴み、その手の中に手紙を無理矢理握らせた。
「中を見るのも見ないのも──どうするかもあなたの自由です」
真剣な玲斗の表情に咲はゴクリと喉を鳴らした。
最初の印象とは違い少し強引な玲斗の態度に驚くが、だからといって咲が玲斗を嫌う理由にはならなかった。たとえ爆弾のようなものを押し付けられたとしても咲は玲斗を嫌いにはなれない、理由は分からないがそんな気がした。
咲はひとり玄関で、手紙を手に閉まったドアをしばらくの間見つめていた。
*****
玲斗が帰った後、咲は自室のベッドに座り手にした手紙を電灯にかざしてみたり、カサカサと振ってみたりとあまり意味のないことをした。わずかに残る匂いはあるものの差出人の名前も書かれていない手紙をどう扱っていいものなのか考えあぐねていたのだ。玲斗の言う通り中身を見ずに捨てる選択肢もあったが、誰からのものであったとしても咲はそれはしたくなかったので結局は中を見ることにした。
『親愛なる運命様
こんな手紙をもらってさぞや驚きのことでしょう。実は私も驚いているのです。私は生まれる前から許嫁と結婚することが決まっていて、二次性がαとΩだと分かってからは番になることも決まっていました。最近まで私はそれになんの疑問も持たず、不満もありませんでした。私の許嫁は本当にとてもいい人ですから。
ですが、私はあなたに出会ってしまった……。
私は自分の果たすべき義務も負うべき責任も理解しています。それでもあなたを諦めたくなく──こんな言い方はずるいのだと承知の上で申します。
もしも私を求めてくださるなら、私はすべてを捨ててあなたを選びます。
202x年xx月xx日』
手紙はそこで終わっていた。あえて名前は書かなかったのだろう。咲の判断に委ね、もしも答えが「No」なら『運命』だったけれど見知らぬ誰かになる為に。
最後に書かれていた日付は今日から十日ほど後のものだった。それはきっと 『運命』が番う日──。
読み終わった咲は、無意識に眉間に皺を寄せた。
それは突然の訪問だった。
燐は急用で朝からバタバタと出掛けており留守にしていた。その為、いつもは燐がしていた来客の対応を咲がすることになったのだ。本来なら誰であっても外部の人間と接触してはいけなかったが、そのことを燐が伝えていなかった為咲はインターフォンに出てしまったのだ。
燐は咲と番ったことで晶馬の傍にいる必要はなくなり、晶馬たちが無事に番うまでは咲の傍を離れないことになっていたし、外部との連絡はすべて燐が取るつもりでいた。部屋に閉じ込めておくことでもストレスだと思うのに、ひとつひとつをいちいち言葉にして鎖で繋ぐようなことはしたくなかった。自分がうまくやりさえすればいいと思っていたのだ。その気遣いが今回は裏目にでてしまった。
そしてこの建物の周りには万が一に備えて鷹取家が用意した者たちで固められていたが、玲斗が羽鳥家の『保険』であり、Ωであることから見逃されてしまったのだ。誰であれあってはならないことだったが、燐が咲と番ったことで周りの人間も少しだけ気が緩んでしまっていた。
咲は目の前に立つ玲斗に少しの間見惚れてしまっていた。首に填められたネックガードから自分と同じΩだと分かるが、目の前に佇む人はとても美しく儚げに見えた。「えっと……」という玲斗の柔らかな戸惑いを含む声にハッとして、咲は現状を思い出した。この人が燐と同じ『保険』だというなら玄関先では失礼だと思い、部屋の中に入るように促したがやんわりと断られた。
「僕はこれをあなたに渡すよう言われて来ただけですから」
と玲斗は控えめに微笑み、手紙をカバンから出した。その手紙からはわずかにあの香りがして、受け取ろうと伸ばしかけていた手が止まった。が、玲斗は咲の手を掴み、その手の中に手紙を無理矢理握らせた。
「中を見るのも見ないのも──どうするかもあなたの自由です」
真剣な玲斗の表情に咲はゴクリと喉を鳴らした。
最初の印象とは違い少し強引な玲斗の態度に驚くが、だからといって咲が玲斗を嫌う理由にはならなかった。たとえ爆弾のようなものを押し付けられたとしても咲は玲斗を嫌いにはなれない、理由は分からないがそんな気がした。
咲はひとり玄関で、手紙を手に閉まったドアをしばらくの間見つめていた。
*****
玲斗が帰った後、咲は自室のベッドに座り手にした手紙を電灯にかざしてみたり、カサカサと振ってみたりとあまり意味のないことをした。わずかに残る匂いはあるものの差出人の名前も書かれていない手紙をどう扱っていいものなのか考えあぐねていたのだ。玲斗の言う通り中身を見ずに捨てる選択肢もあったが、誰からのものであったとしても咲はそれはしたくなかったので結局は中を見ることにした。
『親愛なる運命様
こんな手紙をもらってさぞや驚きのことでしょう。実は私も驚いているのです。私は生まれる前から許嫁と結婚することが決まっていて、二次性がαとΩだと分かってからは番になることも決まっていました。最近まで私はそれになんの疑問も持たず、不満もありませんでした。私の許嫁は本当にとてもいい人ですから。
ですが、私はあなたに出会ってしまった……。
私は自分の果たすべき義務も負うべき責任も理解しています。それでもあなたを諦めたくなく──こんな言い方はずるいのだと承知の上で申します。
もしも私を求めてくださるなら、私はすべてを捨ててあなたを選びます。
202x年xx月xx日』
手紙はそこで終わっていた。あえて名前は書かなかったのだろう。咲の判断に委ね、もしも答えが「No」なら『運命』だったけれど見知らぬ誰かになる為に。
最後に書かれていた日付は今日から十日ほど後のものだった。それはきっと 『運命』が番う日──。
読み終わった咲は、無意識に眉間に皺を寄せた。
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