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運命さんこんにちは、さようなら
9 運命さんこんにちは、さようなら
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番婚予定前夜、咲からの手紙を燐から受け取った晶馬は、すぐに封を切ることはせずしばらくの間手の中で持て余していた。これを本当に開けてしまっていいのか、なかなか思い切れなかったのだ。決して日和ったわけではないが、実を言うと晶馬は返事をもらえるとは思っていなかったし、もらえずともよいと思っていた。咲にあてた手紙にああは書いたものの現実味のない、どこかの物語の登場人物のような、自分の意思とは関係なく動かされている、そんな感じがしていたからだ。初遭遇のとき以外晶馬は、とった行動とは違い『運命』をそれほど求めてはいなかった。それなのに求めなくてはいけないような脅迫観念にかられた。そしてそれが正解であるかのように思ってしまうのだ。これが『運命』の強制力であるなら自分に争う術はない、と晶馬は『運命』が怖かった。こちらの都合で番わせてしまった燐や『運命』をこれ以上振り回したくもなかった。それでもひとりで制御できる気がしなくて、今まで以上に八生を自分の傍に置いた。晶馬にとって今信じられるのは曽祖父でも自分でもなく、八生だけだったからだ。そして今も八生は晶馬の隣にいる。
晶馬は八生の瞳を見つめ、やがて覚悟を決めて頷いた。肩に八生の手の温もりを感じながら晶馬は咲からの手紙を開いた。だが手紙に書かれていたのは晶馬が予想した内容ではなく、晶馬は思わず「アハハっ!」と声を上げて笑ってしまった。キョトンとする八生にも手紙を見せ、ふたりで微笑み合う。
晶馬は理解した。自分と『運命』との繋がりはすでに切れている。もう怖がる必要はないのだ。そう思うと急に心が穏やかになり、胸に渦巻いていたモヤモヤが消えていった。晶馬の胸にあるのは『恋』でも『愛』でもなく、ましてや『嫉妬』や『未練』の類でもない。純粋な『優しい想い』だけだった。
晶馬は八生と寄り添い合い手紙に踊る、少ない文字を優しい気持ちでしばらくの間見つめていた。
なぜ晶馬が『運命』との別れを穏やかな気持ちで受け止めることができたのか、晶馬は『運命』よりも大切な人と既に出会っていたからだ。八生を大切に想うのに、その上から『運命』という存在がモヤのように八生を隠してしまっていた。先々代の洗脳じみた行いや、出会ってしまった『運命』という存在に惑わされてしまっただけなのだ。もちろん『運命』の強制力も否定できないが、所詮は遺伝子的に最適な相手、というだけのこと。想いの強さには勝てない。
明日、晶馬は予定通り八生と番になる。なんの不安も不満もなく、晴れやかな気持ちで心から愛する相手と結ばれるのだ。
*****
帰宅した燐を出迎えた咲は、やっぱり内容を伝えたいと言った。
「『運命さんこんにちは、さようなら』って書いたんだよ」
「え? それだけ、か?」
「うん。それだけだよ。だってそれ以外書くこともないし。ただね、僕のことを気にかけてくれた人だから、お別れくらいはちゃんとしたいと思ったんだ」
「そうか……」
これでこの話は終わり、と咲は冷蔵庫から高級プリンを持ってきた。微笑み合うふたり。
「食べよ」
「ああ、半分こ、だな」
「そう、半分こ」
ふたりは一個のプリンを仲良く半分ずつ食べた。
『運命』なんか関係ない、それがふたりの幸せ。
『運命さんこんにちは、さようなら』完結。 『運命さんこんばんは、ありがとう』に続きます。
晶馬は八生の瞳を見つめ、やがて覚悟を決めて頷いた。肩に八生の手の温もりを感じながら晶馬は咲からの手紙を開いた。だが手紙に書かれていたのは晶馬が予想した内容ではなく、晶馬は思わず「アハハっ!」と声を上げて笑ってしまった。キョトンとする八生にも手紙を見せ、ふたりで微笑み合う。
晶馬は理解した。自分と『運命』との繋がりはすでに切れている。もう怖がる必要はないのだ。そう思うと急に心が穏やかになり、胸に渦巻いていたモヤモヤが消えていった。晶馬の胸にあるのは『恋』でも『愛』でもなく、ましてや『嫉妬』や『未練』の類でもない。純粋な『優しい想い』だけだった。
晶馬は八生と寄り添い合い手紙に踊る、少ない文字を優しい気持ちでしばらくの間見つめていた。
なぜ晶馬が『運命』との別れを穏やかな気持ちで受け止めることができたのか、晶馬は『運命』よりも大切な人と既に出会っていたからだ。八生を大切に想うのに、その上から『運命』という存在がモヤのように八生を隠してしまっていた。先々代の洗脳じみた行いや、出会ってしまった『運命』という存在に惑わされてしまっただけなのだ。もちろん『運命』の強制力も否定できないが、所詮は遺伝子的に最適な相手、というだけのこと。想いの強さには勝てない。
明日、晶馬は予定通り八生と番になる。なんの不安も不満もなく、晴れやかな気持ちで心から愛する相手と結ばれるのだ。
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帰宅した燐を出迎えた咲は、やっぱり内容を伝えたいと言った。
「『運命さんこんにちは、さようなら』って書いたんだよ」
「え? それだけ、か?」
「うん。それだけだよ。だってそれ以外書くこともないし。ただね、僕のことを気にかけてくれた人だから、お別れくらいはちゃんとしたいと思ったんだ」
「そうか……」
これでこの話は終わり、と咲は冷蔵庫から高級プリンを持ってきた。微笑み合うふたり。
「食べよ」
「ああ、半分こ、だな」
「そう、半分こ」
ふたりは一個のプリンを仲良く半分ずつ食べた。
『運命』なんか関係ない、それがふたりの幸せ。
『運命さんこんにちは、さようなら』完結。 『運命さんこんばんは、ありがとう』に続きます。
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