俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ

文字の大きさ
20 / 87
俺のかわいい幼馴染さま

1 俺の幼馴染

しおりを挟む
俺はあの日の事を今も悔やみ続けている。
ぽっかりと空いてしまった胸の穴がいつか埋まる日は来るのだろうか――――。



*****
俺は暇を持て余し、沢山の花に囲まれた庭で池の鯉に餌をあげていた。

俺は花が好きだ。
俺の家は華道の家元をしていて、小さい頃は沢山のお弟子さんに交じって活け花を習った事もあったけれど、自分の才能のなさに気づいて早々に辞めてしまった。
本当に花が好きだった。だからこそうまく活けてあげられない事が悔しくて絶望したんだ。
そして俺は他の事で大好きな花に関われる道を探した。
かえでに対してもそうできていたら……今も俺は大好きな楓の幼馴染で、親友でいられたのかな――。

小さい頃から大好きで、いつかは結婚したいと思っていた幼馴染の楓。お互いにαだけど、それでも愛があれば大丈夫だって思っていた。それなのに、突然ひと回り以上も年の離れたイカツイΩ婚約者が現れたんだ。そんなの絶対に認める事なんかできなくて、二人の仲を裂くような事をしてしまった。
何がどうなったって俺の想いに楓が応えてくれる事なんてなかったのに――――。
それに気づいたのは俺のせいで二人の仲が壊れた後で、何度か相手のΩの元へも行こうとしたけど結局は行く事もできず、楓の望み通り二人に近づいちゃダメなんだと自分に言い訳をしただけだった。
苦しくて辛くて……でもそれが俺に対する罰だったから、二人は俺以上に苦しんだはずだから、俺に辛いなんて言う資格なんてなくて、4年過ぎた今も俺はどこへも行けないまま――――――。

「ちょお、なんやのまた辛気臭い顔してはるなぁ。そないにぎょうさん餌あげても鯉も迷惑やで」

というのんびりした声が聞こえ振り返ると、俺のもうひとりの幼馴染である三条 桜花さんじょう おうかが呆れ顔で立っていた。
顎のラインでぱつんと切りそろえられたサラサラの真っすぐな黒髪と大きな瞳に桜色の小さな唇。見た目は儚げで愛らしいのだが、一旦口を開けばおっとりした口調ながらも辛辣な言葉がぽんぽん飛び出してくる気の強い男性Ωだ。

桜花との出会いは、華道の家元であるうちの生徒として訪れた桜花が6歳の頃だった。
当時、周りの大人たちは年齢も2歳差と近い事から俺たちを将来番にさせようと思っていたらしい。
そんなもくろみもあって、頻繁に会わされ一緒に遊ばされていた。
だけど、俺は既に楓の事が好きだったから桜花と番う気なんてまったくなくて、ただの子分、よくて弟くらいにしか思っていなかった。
桜花の方は何が良かったのかいくらぞんざいに扱っても俺のうしろをぴょこぴょことついて回り、何が楽しいのかいつもにこにことバカみたいに笑っていた。

そして俺が10歳、桜花が8歳の頃だったか、

「ボクな、はるかくんのことスキやねん。おおきゅうなったらケッコンしよなぁ」

と、桜花は大きな瞳をキラキラと輝かせ、ぷっくりとした頬を赤く染めながら言ったんだ。
ドキリと心臓が跳ねたけど、俺が結婚したいのは楓であって桜花ではない。
まだ二次性も分からなかったけれど、俺はαだと思っていたし、楓も恐らくαで桜花はΩだ。
だとしても俺の相手は楓しか考えられなかった。
だから、

「俺は楓が好きだから桜花とは結婚しない」

とはっきりと言ってやった。
すると桜花の大きな瞳にみるみる透明な膜が張っていき、やがて大粒の涙がぽろぽろと零れた。
そして大きな声でわんわんと泣きだしてしまったんだ。



*****
あの日、桜花が大泣きしてから8年が過ぎたが、あれ以来桜花が泣く姿をいちども見る事はなかった。
そして、あんなに可愛くて何を言っても何をしてもにこにこと笑っていたのに、ちょっとひねくれてしまった。少しだけ責任を感じないでもないが、それを言うと桜花はきまって

「遥君にフラれたからって、どうって事あらしまへん。自意識過剰ちがいますの?ふふふ」

と笑うのだ。
桜花の言う『フラれる』という言葉にズキリと良心が痛むが、桜花の辛辣な物言いに俺も遠慮なく言い返したりして、桜花の傍は俺にとってとても楽な場所だった。

「どんな顔してたって俺の勝手だろう」

ふいっとそっぽを向くと桜花は苦笑した。

「せやかてくさぁてたまらんのや。あぁ辛気くさぁー」

そう言いながら鼻をつまんで、もう片方ではぱたぱたとあおいで見せた。

「んだよっ。いつもいつもうるせぇよ。お前、何しに来たんだよ。稽古は明日だろう?」

「――今日はせんせにお話があって寄らせてもろうたんや」

「話? ああ、来月の発表会に出す作品についてか? お前頑張ってたもんな。俺も見に行ってやるから『きばりよし』変なもん出したら笑ってやるからさ」

おちゃらけてそう言うと、桜花がおかしそうに笑って、俺も一緒になって笑った。

「――――ほんま……楽しみやなぁ……」

ぽつりと零れた桜花の言葉にどこか違和感を覚えた。

「――――桜花?」

「いややわ、おそなってしもた。もう帰らへんといかんねん」

桜花は俺の言葉を聞かなかった事にして、わざとらしいくらいに大声てそう言った。

「明日は……稽古だろう? 来るよな? また明日な?」

なんだか不安で、何がとはっきりとは分からないけどとにかく不安で、桜花に確かめるようにそう言った。

「そう、やね……。遥君、さよぅなら」

桜花は今まで見た事もないような笑顔を残し帰って行った。

ひとり残された俺は知らず眉間に皺を寄せていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

君に二度、恋をした。

春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。 あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。 ――もう二度と会うこともないと思っていたのに。 大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。 変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。 「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」 初恋、すれ違い、再会、そして執着。 “好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか―― すれ違い×再会×俺様攻め 十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...