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俺のかわいい幼馴染さま
1 俺の幼馴染
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俺はあの日の事を今も悔やみ続けている。
ぽっかりと空いてしまった胸の穴がいつか埋まる日は来るのだろうか――――。
*****
俺は暇を持て余し、沢山の花に囲まれた庭で池の鯉に餌をあげていた。
俺は花が好きだ。
俺の家は華道の家元をしていて、小さい頃は沢山のお弟子さんに交じって活け花を習った事もあったけれど、自分の才能のなさに気づいて早々に辞めてしまった。
本当に花が好きだった。だからこそうまく活けてあげられない事が悔しくて絶望したんだ。
そして俺は他の事で大好きな花に関われる道を探した。
楓に対してもそうできていたら……今も俺は大好きな楓の幼馴染で、親友でいられたのかな――。
小さい頃から大好きで、いつかは結婚したいと思っていた幼馴染の楓。お互いにαだけど、それでも愛があれば大丈夫だって思っていた。それなのに、突然ひと回り以上も年の離れたイカツイΩが現れたんだ。そんなの絶対に認める事なんかできなくて、二人の仲を裂くような事をしてしまった。
何がどうなったって俺の想いに楓が応えてくれる事なんてなかったのに――――。
それに気づいたのは俺のせいで二人の仲が壊れた後で、何度か相手のΩの元へも行こうとしたけど結局は行く事もできず、楓の望み通り二人に近づいちゃダメなんだと自分に言い訳をしただけだった。
苦しくて辛くて……でもそれが俺に対する罰だったから、二人は俺以上に苦しんだはずだから、俺に辛いなんて言う資格なんてなくて、4年過ぎた今も俺はどこへも行けないまま――――――。
「ちょお、なんやのまた辛気臭い顔してはるなぁ。そないにぎょうさん餌あげても鯉も迷惑やで」
というのんびりした声が聞こえ振り返ると、俺のもうひとりの幼馴染である三条 桜花が呆れ顔で立っていた。
顎のラインでぱつんと切りそろえられたサラサラの真っすぐな黒髪と大きな瞳に桜色の小さな唇。見た目は儚げで愛らしいのだが、一旦口を開けばおっとりした口調ながらも辛辣な言葉がぽんぽん飛び出してくる気の強い男性Ωだ。
桜花との出会いは、華道の家元であるうちの生徒として訪れた桜花が6歳の頃だった。
当時、周りの大人たちは年齢も2歳差と近い事から俺たちを将来番にさせようと思っていたらしい。
そんなもくろみもあって、頻繁に会わされ一緒に遊ばされていた。
だけど、俺は既に楓の事が好きだったから桜花と番う気なんてまったくなくて、ただの子分、よくて弟くらいにしか思っていなかった。
桜花の方は何が良かったのかいくらぞんざいに扱っても俺のうしろをぴょこぴょことついて回り、何が楽しいのかいつもにこにことバカみたいに笑っていた。
そして俺が10歳、桜花が8歳の頃だったか、
「ボクな、はるかくんのことスキやねん。おおきゅうなったらケッコンしよなぁ」
と、桜花は大きな瞳をキラキラと輝かせ、ぷっくりとした頬を赤く染めながら言ったんだ。
ドキリと心臓が跳ねたけど、俺が結婚したいのは楓であって桜花ではない。
まだ二次性も分からなかったけれど、俺はαだと思っていたし、楓も恐らくαで桜花はΩだ。
だとしても俺の相手は楓しか考えられなかった。
だから、
「俺は楓が好きだから桜花とは結婚しない」
とはっきりと言ってやった。
すると桜花の大きな瞳にみるみる透明な膜が張っていき、やがて大粒の涙がぽろぽろと零れた。
そして大きな声でわんわんと泣きだしてしまったんだ。
*****
あの日、桜花が大泣きしてから8年が過ぎたが、あれ以来桜花が泣く姿をいちども見る事はなかった。
そして、あんなに可愛くて何を言っても何をしてもにこにこと笑っていたのに、ちょっとひねくれてしまった。少しだけ責任を感じないでもないが、それを言うと桜花はきまって
「遥君にフラれたからって、どうって事あらしまへん。自意識過剰ちがいますの?ふふふ」
と笑うのだ。
桜花の言う『フラれる』という言葉にズキリと良心が痛むが、桜花の辛辣な物言いに俺も遠慮なく言い返したりして、桜花の傍は俺にとってとても楽な場所だった。
「どんな顔してたって俺の勝手だろう」
ふいっとそっぽを向くと桜花は苦笑した。
「せやかてくさぁてたまらんのや。あぁ辛気くさぁー」
そう言いながら鼻をつまんで、もう片方ではぱたぱたとあおいで見せた。
「んだよっ。いつもいつもうるせぇよ。お前、何しに来たんだよ。稽古は明日だろう?」
「――今日はせんせにお話があって寄らせてもろうたんや」
「話? ああ、来月の発表会に出す作品についてか? お前頑張ってたもんな。俺も見に行ってやるから『きばりよし』変なもん出したら笑ってやるからさ」
おちゃらけてそう言うと、桜花がおかしそうに笑って、俺も一緒になって笑った。
「――――ほんま……楽しみやなぁ……」
ぽつりと零れた桜花の言葉にどこか違和感を覚えた。
「――――桜花?」
「いややわ、おそなってしもた。もう帰らへんといかんねん」
桜花は俺の言葉を聞かなかった事にして、わざとらしいくらいに大声てそう言った。
「明日は……稽古だろう? 来るよな? また明日な?」
なんだか不安で、何がとはっきりとは分からないけどとにかく不安で、桜花に確かめるようにそう言った。
「そう、やね……。遥君、さよぅなら」
桜花は今まで見た事もないような笑顔を残し帰って行った。
ひとり残された俺は知らず眉間に皺を寄せていた。
ぽっかりと空いてしまった胸の穴がいつか埋まる日は来るのだろうか――――。
*****
俺は暇を持て余し、沢山の花に囲まれた庭で池の鯉に餌をあげていた。
俺は花が好きだ。
俺の家は華道の家元をしていて、小さい頃は沢山のお弟子さんに交じって活け花を習った事もあったけれど、自分の才能のなさに気づいて早々に辞めてしまった。
本当に花が好きだった。だからこそうまく活けてあげられない事が悔しくて絶望したんだ。
そして俺は他の事で大好きな花に関われる道を探した。
楓に対してもそうできていたら……今も俺は大好きな楓の幼馴染で、親友でいられたのかな――。
小さい頃から大好きで、いつかは結婚したいと思っていた幼馴染の楓。お互いにαだけど、それでも愛があれば大丈夫だって思っていた。それなのに、突然ひと回り以上も年の離れたイカツイΩが現れたんだ。そんなの絶対に認める事なんかできなくて、二人の仲を裂くような事をしてしまった。
何がどうなったって俺の想いに楓が応えてくれる事なんてなかったのに――――。
それに気づいたのは俺のせいで二人の仲が壊れた後で、何度か相手のΩの元へも行こうとしたけど結局は行く事もできず、楓の望み通り二人に近づいちゃダメなんだと自分に言い訳をしただけだった。
苦しくて辛くて……でもそれが俺に対する罰だったから、二人は俺以上に苦しんだはずだから、俺に辛いなんて言う資格なんてなくて、4年過ぎた今も俺はどこへも行けないまま――――――。
「ちょお、なんやのまた辛気臭い顔してはるなぁ。そないにぎょうさん餌あげても鯉も迷惑やで」
というのんびりした声が聞こえ振り返ると、俺のもうひとりの幼馴染である三条 桜花が呆れ顔で立っていた。
顎のラインでぱつんと切りそろえられたサラサラの真っすぐな黒髪と大きな瞳に桜色の小さな唇。見た目は儚げで愛らしいのだが、一旦口を開けばおっとりした口調ながらも辛辣な言葉がぽんぽん飛び出してくる気の強い男性Ωだ。
桜花との出会いは、華道の家元であるうちの生徒として訪れた桜花が6歳の頃だった。
当時、周りの大人たちは年齢も2歳差と近い事から俺たちを将来番にさせようと思っていたらしい。
そんなもくろみもあって、頻繁に会わされ一緒に遊ばされていた。
だけど、俺は既に楓の事が好きだったから桜花と番う気なんてまったくなくて、ただの子分、よくて弟くらいにしか思っていなかった。
桜花の方は何が良かったのかいくらぞんざいに扱っても俺のうしろをぴょこぴょことついて回り、何が楽しいのかいつもにこにことバカみたいに笑っていた。
そして俺が10歳、桜花が8歳の頃だったか、
「ボクな、はるかくんのことスキやねん。おおきゅうなったらケッコンしよなぁ」
と、桜花は大きな瞳をキラキラと輝かせ、ぷっくりとした頬を赤く染めながら言ったんだ。
ドキリと心臓が跳ねたけど、俺が結婚したいのは楓であって桜花ではない。
まだ二次性も分からなかったけれど、俺はαだと思っていたし、楓も恐らくαで桜花はΩだ。
だとしても俺の相手は楓しか考えられなかった。
だから、
「俺は楓が好きだから桜花とは結婚しない」
とはっきりと言ってやった。
すると桜花の大きな瞳にみるみる透明な膜が張っていき、やがて大粒の涙がぽろぽろと零れた。
そして大きな声でわんわんと泣きだしてしまったんだ。
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あの日、桜花が大泣きしてから8年が過ぎたが、あれ以来桜花が泣く姿をいちども見る事はなかった。
そして、あんなに可愛くて何を言っても何をしてもにこにこと笑っていたのに、ちょっとひねくれてしまった。少しだけ責任を感じないでもないが、それを言うと桜花はきまって
「遥君にフラれたからって、どうって事あらしまへん。自意識過剰ちがいますの?ふふふ」
と笑うのだ。
桜花の言う『フラれる』という言葉にズキリと良心が痛むが、桜花の辛辣な物言いに俺も遠慮なく言い返したりして、桜花の傍は俺にとってとても楽な場所だった。
「どんな顔してたって俺の勝手だろう」
ふいっとそっぽを向くと桜花は苦笑した。
「せやかてくさぁてたまらんのや。あぁ辛気くさぁー」
そう言いながら鼻をつまんで、もう片方ではぱたぱたとあおいで見せた。
「んだよっ。いつもいつもうるせぇよ。お前、何しに来たんだよ。稽古は明日だろう?」
「――今日はせんせにお話があって寄らせてもろうたんや」
「話? ああ、来月の発表会に出す作品についてか? お前頑張ってたもんな。俺も見に行ってやるから『きばりよし』変なもん出したら笑ってやるからさ」
おちゃらけてそう言うと、桜花がおかしそうに笑って、俺も一緒になって笑った。
「――――ほんま……楽しみやなぁ……」
ぽつりと零れた桜花の言葉にどこか違和感を覚えた。
「――――桜花?」
「いややわ、おそなってしもた。もう帰らへんといかんねん」
桜花は俺の言葉を聞かなかった事にして、わざとらしいくらいに大声てそう言った。
「明日は……稽古だろう? 来るよな? また明日な?」
なんだか不安で、何がとはっきりとは分からないけどとにかく不安で、桜花に確かめるようにそう言った。
「そう、やね……。遥君、さよぅなら」
桜花は今まで見た事もないような笑顔を残し帰って行った。
ひとり残された俺は知らず眉間に皺を寄せていた。
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