11 / 30
優しい嘘の見分け方
6 揺れる心・・・
しおりを挟む
「あの……美幸の様子が少しおかしいんです」
「――それで?」
俺はいつものように美幸の母親から経済学について教えてもらいながら、思い切って言ってみた。
だけど美幸の母親は、片方の眉を少し上げただけでそれ以上興味はないと資料に視線を落とした。
「あなたは……母親なのに美幸の事心配じゃないんですか?」
冷たく見えても心は温かい人だと思っていた。
常じゃなくてもいい、明らかにおかしい様子の美幸の事を気遣って欲しかった。
「――私は美幸の母親です。母親だという事は父親がいるはずですね?」
「――え? は、はい」
そういえば美幸の父親の話は聞いた事がなかった。一度も姿を見ないし話にも出て来ないから勝手に亡くなったものだと思っていたけど――。
「美幸の父親は私を犯し、そして逃げました」
――え? それって……。
忘れていたはずのあの夜の事を思い出し、首の後ろがぞわぞわとして気持ちが悪い。
「――そういう事よ。自分の子どもだからといって美幸の父親を憎んでいるのに、私が美幸の事を愛してやらなければならない理由なんてないでしょう?」
美幸の母親はそれだけ言うとそのまま部屋を出て行った。
*****
美幸の母親は父親の事を憎いのだろう。その気持ちは分からないでもない。俺だって――。
だけど美幸にとって、あの人が母親なのだ。それに美幸には何の罪もないじゃないか。
そう思いながらももしもあの時あの中の誰かの子を宿していたとしたら、俺はその子を憎まないでいられただろうか……?
胃のムカつきと口の中に広がる酸っぱさに眉間に皺を寄せた。
愛されて育ったと思っていた美幸は、実は愛されてこなかった。美幸は俺と同じだったんだ。なのに俺の事を愛してくれた。その愛が子どものそれだとしても、この世で初めて俺の事を求め愛してくれたんだ。
両親からも誰からも愛されなかった俺なんかがちゃんと愛せるか分からなかった。だけど、美幸も同じなら下手くそな愛でも……許してくれる――?
――大人の美幸の事は今でも少し怖い。
俺と美幸が番になったという事はあの夜俺は美幸とそういう事になって項を噛まれたという事なのだ。
問題は俺は美幸とのアレコレを覚えていないという事だ。
決してひどい事をされていないと思うけど、絶対ではない。
美幸だってアイツらと同じαだ。αの全てに加虐性があるとは思っていない。だけど力やその存在の差は嫌っていう程思い知らされた。だから今みたいに子どもの美幸だからこそ俺とのバランスが危ういながらもとれていたのだ。
そう思うと大人の、本来の美幸に戻った時俺は美幸に何を思うのだろう……。
あの夜の男たちの顔が写真の中の冷たい目をした美幸になって俺を襲う――。
身体がガタガタと震えだし、不信感という名の種が俺の中で小さく芽吹いた。
「――それで?」
俺はいつものように美幸の母親から経済学について教えてもらいながら、思い切って言ってみた。
だけど美幸の母親は、片方の眉を少し上げただけでそれ以上興味はないと資料に視線を落とした。
「あなたは……母親なのに美幸の事心配じゃないんですか?」
冷たく見えても心は温かい人だと思っていた。
常じゃなくてもいい、明らかにおかしい様子の美幸の事を気遣って欲しかった。
「――私は美幸の母親です。母親だという事は父親がいるはずですね?」
「――え? は、はい」
そういえば美幸の父親の話は聞いた事がなかった。一度も姿を見ないし話にも出て来ないから勝手に亡くなったものだと思っていたけど――。
「美幸の父親は私を犯し、そして逃げました」
――え? それって……。
忘れていたはずのあの夜の事を思い出し、首の後ろがぞわぞわとして気持ちが悪い。
「――そういう事よ。自分の子どもだからといって美幸の父親を憎んでいるのに、私が美幸の事を愛してやらなければならない理由なんてないでしょう?」
美幸の母親はそれだけ言うとそのまま部屋を出て行った。
*****
美幸の母親は父親の事を憎いのだろう。その気持ちは分からないでもない。俺だって――。
だけど美幸にとって、あの人が母親なのだ。それに美幸には何の罪もないじゃないか。
そう思いながらももしもあの時あの中の誰かの子を宿していたとしたら、俺はその子を憎まないでいられただろうか……?
胃のムカつきと口の中に広がる酸っぱさに眉間に皺を寄せた。
愛されて育ったと思っていた美幸は、実は愛されてこなかった。美幸は俺と同じだったんだ。なのに俺の事を愛してくれた。その愛が子どものそれだとしても、この世で初めて俺の事を求め愛してくれたんだ。
両親からも誰からも愛されなかった俺なんかがちゃんと愛せるか分からなかった。だけど、美幸も同じなら下手くそな愛でも……許してくれる――?
――大人の美幸の事は今でも少し怖い。
俺と美幸が番になったという事はあの夜俺は美幸とそういう事になって項を噛まれたという事なのだ。
問題は俺は美幸とのアレコレを覚えていないという事だ。
決してひどい事をされていないと思うけど、絶対ではない。
美幸だってアイツらと同じαだ。αの全てに加虐性があるとは思っていない。だけど力やその存在の差は嫌っていう程思い知らされた。だから今みたいに子どもの美幸だからこそ俺とのバランスが危ういながらもとれていたのだ。
そう思うと大人の、本来の美幸に戻った時俺は美幸に何を思うのだろう……。
あの夜の男たちの顔が写真の中の冷たい目をした美幸になって俺を襲う――。
身体がガタガタと震えだし、不信感という名の種が俺の中で小さく芽吹いた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる