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優しい嘘の見分け方
7 美幸の母親 @一宮 美香 ① ※R-18 男女の行為描写が少しだけ
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初めてあの子に会った時、睨むように私を見つめていた美幸のパートナー。
自分の子どもがあんな状態なのに今まで何をやっていたんだと言わんばかりの目だった。
ああ、あなたは幸せね、パートナーが傍にいるのだもの。
*****
私は一度だけ恋をした。彼は執事見習いをしていた。
私は一宮家の跡取り娘で、時代錯誤だとは思うけど執事見習いの彼とは身分違いの恋だっだ。
とは言え彼はαで能力も高かったから私と結婚してもどうとでもなったはずなのに、彼は彼の瞳が赤いというだけで周りからは軽んじられ、いつまでも正式な執事にもなれず見習いのままだった。それを彼自身が仕方がない事だと受け入れてしまっていた事が問題だった。
だけど私は彼の事が好きで好きでたまらなかったし、お嬢さま育ちの私は我慢も諦めもした事がなく、当時の私はふたりが愛し合ってさえいれば大丈夫だと思っていた。
来る日も来る日も気持ちを伝え続け、数ヶ月かかってやっと彼も私の事を受け入れてくれて、私たちはふたりで幸せになれると思っていた。
だけど彼は「好きだ」とは言ってくれてもキスもしてくれなくて、私たちの関係に気づいたお父様にどこかのαとの縁談話まで用意されてしまった。
焦った私は彼に「ふたりで逃げましょう」って言ったのだ。
でも彼は「お嬢さま、申し訳ございません」と繰り返すだけで頷いてはくれなかった。だから私はしてはならない事をしてしまった。
発情期に彼を呼び出し、わざとふたりっきりになり襲わせたのだ。勿論噛んでもらう為にネックガードは前もって外しておいた。流石に番になってしまえば両親も反対できないと思ったからだ。それは未熟なΩの底の浅い考えだった――。
私の狙い通り、発情期のフェロモンにあてられたαが正気を保てるはずもなく、キスもしてくれなかった彼が私を犯してくれた。
「あぁっ。好き……好きよっ」
私は秘所に彼の硬くなったモノを受け入れ、彼が激しく腰を振るのに狂喜した。
これで私たちは番よっ!
「噛んでっ」
最奥に熱を受け、自ら項を晒した。
だけど……彼は私の項を噛む事なく、事が終わると脱ぎ捨てた衣服を掴み逃げて行ってしまった。
あの時の彼の青ざめた顔が今でも忘れられない。
大好きだった彼。愛していた彼。彼も私の事を好きだったはずだ。
なのにあんな状況でも項を噛んではくれなかった。
そして、執事見習いだった彼は姿を消した。
彼は一宮という家に負けたのだ。父に恩があったと言うし、彼の立場を考えれば当然の事かもしれない。
美幸はその時の子だ。彼と私の交わりの末の結果――。
美幸は私を捨てた彼に似過ぎていた。だけど、一番好きで一番嫌いだった彼の赤い瞳には似ていなかった。
彼の瞳は燃えるように赤い色をしていて、他とは違うというだけでαだというのに散々見下されて生きてきた彼。それが彼の負い目となって彼から自信を奪った――。
もしも彼の瞳が違う色だったら――私から逃げなかった?
もしも彼がもう少しだけ強かったら私を捨てなかった?
憎い、憎くて仕方がない。彼の『弱さ』が憎い――。
弱い事は『悪』だ。
だから私は決めたのよ。何者にも負けない力が必要なのだと。恩なんか私と一緒になっても返す事ができたはずだし、瞳の色だって権力の頂点に立つ人間なら誰も何も言えないわ。なのに彼の心は弱く、最初から諦めていた。
だから、私は彼に似た美幸を強く、誰にも膝を折る事なくいられるようにしようと思った。
憎いと言いながら。愛せないと言いながら、本当は愛していた。彼との子どもだもの当然だわ。だけど、愛していたからこそ愛せなかった。
あの子が大切にしていた赤い瞳をした兎のぬいぐるみを取り上げ、捨ててしまった事がある。
私の傍にいてくれない赤い瞳をあの子が独り占めする事が許せなかった。
その後どうやってか探し出してきた兎の赤い瞳を新しく買い与えたクマのぬいぐるみに付け替えていたわね。もう一度捨てても同じ事になりそうで、さすがにその時は見て見ぬフリをしたのだけど……。
ぬいぐるみへの興味が薄れるように沢山のおもちゃを買い与えてもあの子はあのクマのぬいぐるみだけをずっと大事にしていた。
あなたは私と違って、何があっても大事な物は離さないのね。探し出して付け替えるくらいあの赤い瞳が大事だった。父親の瞳が赤いとは知らないはずなのに――。
*****
「――そういう事よ。自分の子どもだからといって美幸の父親を憎んでいるのに、私が美幸の事を愛してやらなければならない理由なんてないでしょう?」
そう冷たく言い放つと美幸のパートナーは眉根をきゅっと寄せた。
私と彼の事を詳細に話すつもりなんかない。話しても何も変わらないから。過去も彼も、私の気持ちも。
自分の子どもがあんな状態なのに今まで何をやっていたんだと言わんばかりの目だった。
ああ、あなたは幸せね、パートナーが傍にいるのだもの。
*****
私は一度だけ恋をした。彼は執事見習いをしていた。
私は一宮家の跡取り娘で、時代錯誤だとは思うけど執事見習いの彼とは身分違いの恋だっだ。
とは言え彼はαで能力も高かったから私と結婚してもどうとでもなったはずなのに、彼は彼の瞳が赤いというだけで周りからは軽んじられ、いつまでも正式な執事にもなれず見習いのままだった。それを彼自身が仕方がない事だと受け入れてしまっていた事が問題だった。
だけど私は彼の事が好きで好きでたまらなかったし、お嬢さま育ちの私は我慢も諦めもした事がなく、当時の私はふたりが愛し合ってさえいれば大丈夫だと思っていた。
来る日も来る日も気持ちを伝え続け、数ヶ月かかってやっと彼も私の事を受け入れてくれて、私たちはふたりで幸せになれると思っていた。
だけど彼は「好きだ」とは言ってくれてもキスもしてくれなくて、私たちの関係に気づいたお父様にどこかのαとの縁談話まで用意されてしまった。
焦った私は彼に「ふたりで逃げましょう」って言ったのだ。
でも彼は「お嬢さま、申し訳ございません」と繰り返すだけで頷いてはくれなかった。だから私はしてはならない事をしてしまった。
発情期に彼を呼び出し、わざとふたりっきりになり襲わせたのだ。勿論噛んでもらう為にネックガードは前もって外しておいた。流石に番になってしまえば両親も反対できないと思ったからだ。それは未熟なΩの底の浅い考えだった――。
私の狙い通り、発情期のフェロモンにあてられたαが正気を保てるはずもなく、キスもしてくれなかった彼が私を犯してくれた。
「あぁっ。好き……好きよっ」
私は秘所に彼の硬くなったモノを受け入れ、彼が激しく腰を振るのに狂喜した。
これで私たちは番よっ!
「噛んでっ」
最奥に熱を受け、自ら項を晒した。
だけど……彼は私の項を噛む事なく、事が終わると脱ぎ捨てた衣服を掴み逃げて行ってしまった。
あの時の彼の青ざめた顔が今でも忘れられない。
大好きだった彼。愛していた彼。彼も私の事を好きだったはずだ。
なのにあんな状況でも項を噛んではくれなかった。
そして、執事見習いだった彼は姿を消した。
彼は一宮という家に負けたのだ。父に恩があったと言うし、彼の立場を考えれば当然の事かもしれない。
美幸はその時の子だ。彼と私の交わりの末の結果――。
美幸は私を捨てた彼に似過ぎていた。だけど、一番好きで一番嫌いだった彼の赤い瞳には似ていなかった。
彼の瞳は燃えるように赤い色をしていて、他とは違うというだけでαだというのに散々見下されて生きてきた彼。それが彼の負い目となって彼から自信を奪った――。
もしも彼の瞳が違う色だったら――私から逃げなかった?
もしも彼がもう少しだけ強かったら私を捨てなかった?
憎い、憎くて仕方がない。彼の『弱さ』が憎い――。
弱い事は『悪』だ。
だから私は決めたのよ。何者にも負けない力が必要なのだと。恩なんか私と一緒になっても返す事ができたはずだし、瞳の色だって権力の頂点に立つ人間なら誰も何も言えないわ。なのに彼の心は弱く、最初から諦めていた。
だから、私は彼に似た美幸を強く、誰にも膝を折る事なくいられるようにしようと思った。
憎いと言いながら。愛せないと言いながら、本当は愛していた。彼との子どもだもの当然だわ。だけど、愛していたからこそ愛せなかった。
あの子が大切にしていた赤い瞳をした兎のぬいぐるみを取り上げ、捨ててしまった事がある。
私の傍にいてくれない赤い瞳をあの子が独り占めする事が許せなかった。
その後どうやってか探し出してきた兎の赤い瞳を新しく買い与えたクマのぬいぐるみに付け替えていたわね。もう一度捨てても同じ事になりそうで、さすがにその時は見て見ぬフリをしたのだけど……。
ぬいぐるみへの興味が薄れるように沢山のおもちゃを買い与えてもあの子はあのクマのぬいぐるみだけをずっと大事にしていた。
あなたは私と違って、何があっても大事な物は離さないのね。探し出して付け替えるくらいあの赤い瞳が大事だった。父親の瞳が赤いとは知らないはずなのに――。
*****
「――そういう事よ。自分の子どもだからといって美幸の父親を憎んでいるのに、私が美幸の事を愛してやらなければならない理由なんてないでしょう?」
そう冷たく言い放つと美幸のパートナーは眉根をきゅっと寄せた。
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