優しい嘘の見分け方

ハリネズミ

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優しい嘘の見分け方

12 もう一度 ①

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 俺はΩの幸せがα次第だというのと同じで、αの幸せもΩ次第だと思うんだ。
 今のままの俺では美幸に嘘ばかり吐かせてしまう。悲しい顔ばかりさせてしまう。
 俺がここで最初に目覚めた時、美幸が嘘を吐いてくれなかったら俺はきっと壊れていた。大人の美幸に何を言われてもあの時は恐怖しか感じなかっただろう。
 美幸の手を払いのけ必死に走って走って、逃げて逃げて――生きる事からも逃げていたかもしれない。
 だからどんなに辛くても悲しくても今は引くよ。弱いままじゃダメなんだ。

 俺にあんな風に言わなくちゃいけなかった美幸の気持ちを思うと、ここがものすごく痛い。

 何とかしてあそこに戻って、あのふたりに謝って許してもらう。それで誰からも後ろ指をさされない俺になって必ず帰ってくるから、だから少しだけ待っていて?

 痛む胸を押さえ、泣きながら一宮邸を出るとすぐにふたりがいて、抱きしめられた。
 いきなりの事に混乱する中、ふたりが俺の本当の両親なのだという事を告げられ、今までの事を謝られた。
 詳しい話は屋敷に戻ってからと車に乗せられ、お母さんは俺を抱きしめ「ごめんね」「ごめんなさいね」と何度も謝ってくれたけど、俺は嬉しいというより戸惑いの方が大きくて、とても居心地が悪いと感じていた。

 そうこうしているうちに屋敷に着き、俺はあの部屋に戻される事はなく広い部屋へと両親とともに向かった。
 そこには土下座をしている老人の姿があり、部屋の隅には当時より年齢を重ねた最初のメイドたちが控えていた。
 訳も分からずその場に立ち尽くしていると、老人はそのままの姿勢でこれまでの事を説明しだした。

 俺を屋敷の奥に隠したのはその老人(俺のおじいちゃんらしい)の独断で、両親はつい最近まで知らなかったのだと言う。
 そこで一旦お母さんは休むように言われメイドに付き添われて出て行き、部屋には俺とお父さんとおじいちゃん、残ったメイド数人だけになった。

 そして語られた話は、その時の記憶を失くしているというお母さんには聞かせられないものだった。俺自身最後まではされていないとはいえ似たような経験をしているので、その時のお母さんの気持ちを思うと胸が痛いし、あの時の恐怖を思い出すと全身が震えた。
 だから忘れているというのなら思い出さない方がいい、俺たちの運命を別けたはじまりの悲劇なんて――。

 お母さんが受けた恥辱に対して激しく憤っていたのはお父さんだけではなく、お母さんの父親つまりはおじいちゃんも同じだった。幸せに向っていたはずの最愛の娘を穢されたのだ、許せるはずがなかった。
 それでも、色々と狂いはしたけど予定通り番になり婚姻届を出すだけになってしまったけど結婚もできた、今更騒ぎ立てて折角忘れている娘に思い出させるような事はしたくないとおじいちゃんはなんとか気持ちに折り合いをつけようとしていた。
 だけどその数か月後、お母さんのお腹には赤ちゃんがいる事が分かりストーカー男へのおじいちゃんの怒りが再燃してしまった。あの時より強く、激しく。


◇◇◇◇◇

 万が一あの男の子どもであったなら娘は捨てられてしまうかもしれない。いくら優しい男でもあんな目にあった娘におまけに他の男の子など……自分もαだ、婿の悔しさや怒りも分かるのだ。だから娘と添い遂げると言ってくれた婿に感謝した。
 だが憎っくきストーカー男の血を引く子どもが生まれてしまえば、いつまでもあの忌まわしい出来事が付いて回る事になる、そうなってしまえば多分もう無理だ。

 一度番ってしまったΩが捨てられるなんて、生きながら死ねと言ってるようなものだ。そんな事は許せるはずがなかった。
 今はまだ婿はDNA鑑定を望んでいない。だけどいつ気が変わるか分からないのだ。そしてもしもおぞましい結果が出てしまったら、と生まれたばかりの赤子を屋敷の奥深くへと隠した。そうする事で全てを無かった事にしようとしたのだ。

 幸いふたりは若い、この子がいなくなっても次に正真正銘ふたりの血を引いた子どもが生まれるだろう。


◇◇◇◇◇

 俺をこの世から消し去ってしまわなかったのは、父親はどうであれ今はまだ無垢な魂を持つ赤子だったからだ。だから必要最低限といってもそこそこ上質な食事と世話を与えた。

 それがおじいちゃんの言い分。


 床に頭を擦り付けながら詫びるおじいちゃんに、もっとおじいちゃんと話をするべきだったと謝るお父さん、今更恨みなんてないと言えば嘘になる。だけどお父さんはお母さんの事でいっぱいいっぱいだったろうし、おじいちゃんもまた愛する娘を守ったにすぎないのだ。
 俺がメイドによって売られてしまったのも、おじいちゃんが悪人にはなり切れず俺の管理から中途半端に手を引いた事に起因する。

 おじいちゃんの行き過ぎた行い、そのせいで当然俺が貰えるはずだった愛情も貰えず、両親とは知らず見つめたふたり。寄り添い合う相手がいるのに何がそんなに悲しいのかと、ふたりの事を贅沢だと思った。だけどそれはがいない事を悲しんでくれていたのだ――。
 俺は知らないうちに両親の愛情を育ったという事になる。

 もう俺はそれでいい。俺は両親に愛されていた。
 その事実だけで俺はいいんだ。


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