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申し訳ございません。あいにく先約がございまして。

番外 今後とも変わらぬお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

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あれから俺は多岐に「しばらく会わない」と接近禁止令を発令していた。
会わないだけで毎日スマホで「おはよう」「おやすみ」、日々のとりとめもない話をしたが同棲の話については話題に上る事はなかった。

俺としても避けたかった話題ではあるが、あるのだが―――。
何となく釈然としない思いが俺の中に燻ぶっていた。

夕べの多岐との通話を思い出し知らず眉間に深い皺を刻む。
「なんだよ、まぁーた悩み事か?」
三木だった。
「―――――」
三木の出現に俺は思わず口を尖らせた。
今回の俺のもやもやの原因はこいつにもあるからだ。
「べーつにー」
俺の態度に三木は苦笑いを返すだけだった。

俺の恋人である多岐悠吾は接近禁止令を発令後、三木と頻繁に会っているという事を俺は知っていた。
何もない、とは分かっているのだが恋人としては面白くない。
じゃあ接近禁止令なんてさっさと撤回すればいいじゃないか、という話になるのだがまだ同棲について答えが出ていない今、簡単に撤回はできなかった。
このまま流されて一緒に暮らしてしまってもいいわけがないのだ。




*****
『日下さん、それでですね。……が……で―――』
夜、多岐と通話していた。
いつものように優しい声。
いつものように語られる日常。
語られない愛情――――。

『…………』
『――――どうしました?』

『――――――やだ』

俺以外と頻繁に会わないで…っ

『日下さん?』

好きって言って……っ

『会い、たい……ひっく…っ』
電話口でゴクリと喉が鳴ったのが聞こえた。
『今から行きます。いいですね?そのまま家にいてください』
そう言って通話が切れた。
真っ暗になったスマホの画面を見つめて涙が零れた。

やだ……やだよ……。




*****
多岐はすぐにやって来た。
よほど慌てていたのか息を切らしいつもきっちりとセットされている髪が乱れている。
「――――っ」
俺は多岐の姿を認めると飛びついた。
しっかりと俺を抱きとめてくれる腕に安堵した。

「すみません」
多岐はそう言いながら何度も俺の額に頬に口づけをした。
「―――不安に…させてしまいましたか?」
俺は返事の代わりに多岐の胸にぐりぐりと頭を押し付けた。
「――――本当はもう少し我慢しなきゃって思っていたんですが…。三木さんにも言われてましたし」
「三木?」
俺は三木の名前が出てきて急に不安がぶり返し、顔を上げ至近距離で多岐の顔を見上げた。
俺を見つめる多岐の瞳は柔らかく、いつもと同じように、いやいつもよりもっともっと深く『愛しい』と語りかけていた。
ほっと安心する。
「接近禁止令を受けて三木さんに相談させていただいていたんです。僕があまりにも日下さんを求めてしまうから、日下さんが戸惑っている、と。少し距離を置いて考える時間をあげてほしいと言われました」
三木がそんな事を…。

確かに俺は戸惑っていた。
求められすぎて身体がつらいのも本当だったが、それよりも多岐の溢れる愛情に自分がちゃんと応えられているのか、ある日多岐が共に生きたいと思うのは俺ではないと気づくのではないか、とそちらの方が同棲を始められない本当の理由だった。

友人の思いやりと多岐の俺を想う気持ちに心がじんわりと温かくなった。

「それでこんなにあなたを悲しませていては本末転倒もいいところです。それに僕自身もあなたにこれ以上触れられないのは我慢できません」

ちゅっと唇が触れるだけのキスをし、抱きしめる腕を緩め俺から少しだけ離れた。
途端に身体が冷たさを感じ不安になる。

多岐はズボンのポケットから小さなビロードの箱を出し、俺の前に跪いた。
そして真剣な顔つきで箱を開け俺の前に差し出した。
「一生涯あなたを愛し、あなたと共にありたいと願います。あなたの人生をまるごと僕に下さい。どうか、結婚してください」

多岐の瞳は不安に揺れている。
多岐も不安だったんだと分かる。
多岐も俺と同じだったんだ。

俺は壊れた人形のように何度もなんどもこくこくと頷いた。

法律ではまだ同性婚は認められていない。
だけど、多岐は俺の人生丸ごと欲しいと言った。
俺も多岐の人生が丸ごと欲しい。
もうお互いがお互いを手放す事なんてできやしない。

涙でぐちょぐちょになりながら誓いの口づけを交わし微笑みあった。


「今後とも……変わらぬお付き合いのほど……よろしくお願い、いたします」




-終-
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