【完結】恋する雪だるま ⛄

ハリネズミ

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恋する金平糖

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「――Ωが怖い、ですか?」

 αのあなたが?

「ああ、正確にはΩを愛するのが怖い、だ。どういうことかというと、それにはまずうちの両親の話をしなくちゃいけない。うちは暒も知っているように希少なはずのαばかりの一族で、外から嫁にきた母だけがΩだったんだ。珍しいというのもあったかもしれないが、それはもうお姫さまかっていうくらいに一族中から大事にされていたんだ。大事にされすぎて父が何度もヤキモチをやいていたくらいだ。そんな父を母はおかしそうに笑い飛ばしていたよ。俺が今でも覚えてる最初の記憶はそんな幸せな記憶だ。それからも俺の記憶の中の母はいつもカラカラと笑っていたし、元気そうに見えていたんだ。家から外に滅多に出ない意味も、一日のほとんどを布団の上で過ごさなきゃいけない意味も、無知な俺はなにも分かっていなかった」

 そう言って昔を想い、そして悔やむように静夜さんは目を伏せた。

「母が元気だなんていう俺の思い込みは、昔、まだ母が生きていたころ聞いた話も関係しているかもしれない。父は今の姿からは想像もつかないくらい昔は結構やんちゃしてたらしいんだ。地位も名誉も生まれた時から約束されていて、最初から能力も人より高くて増長していたらしい。母と出会って愛を知って、今の父になったんだそうだ。父の昔を知る人から母は『猛獣遣い』だなんて言われていたから、俺は母はΩだが『特別』なんだと思っていた。特別に強いΩだと思ってしまったんだ。本当はその反対で、特別に身体の弱い人だったなんて知らなかった。もしもあのころ本当のことを知っていたら、俺だってもっと遊んで欲しいなんてせがんだりしなかったし、弟か妹が欲しいなんて言わなかった。父だって――、完璧だと思えた『α』である父にも母を護れないなんて――思いもしなかったんだ……」

 α性の無力さや、まるで自分のせいで母親が亡くなってしまったかのような言い方に、俺の胸は締め付けられるようだった。そんなことはないのだと伝えたくて、静夜さんの膝の上で握りしめられた両手の上にそっと自身の手を添えた。静夜さんは少しだけ微笑んでくれたけれど、完全に憂いを晴らすことはできない。

「母が亡くなって父は抜け殻みたいになってしまった。あれほど強く大きく見えた父がすごく小さく見えたよ。そして父をそんな風に変えたΩが怖かった。父が立ち直った後もΩは護るべき存在だとする父の教えに賛同しながらも、無力な自分も、俺を変えるだろうΩも――怖かった。だからΩを愛することなんてないと思っていた」

 そんな風に考えていたなんて思ってもみなかった。Ωを怖がるα、いつも自信満々に見えた静夜さんも俺と同じように二次性に翻弄されていたんだ。

「だけど気づけば暒に恋してた」

「……」

「よく恋に落ちるって言うが、本当にそんな感じなのかもな。落ちたくなくても落ちてしまう、それが恋なんだと思う」

 そう言って祈るように俺をまっすぐに見つめる瞳を俺は知っている。いつもいつも俺を見つめる静夜さんの瞳は俺への想いが溢れていた。そして少しの怯えも――。
 たとえ『好き』という言葉がなくてもこんなにも気持ちを伝えてくれていたのに、俺が弱かったせいでペットだなんだと逃げてしまっていた。俺は色々なことに不満を抱きながらも、楽な方に流されていただけなのかもしれない。逃げてばかりの俺だけど、この人の為に強くありたい、あらねば。

 俺は静夜さんに重ねた手を静夜さんの手を掴むような形に変えた。
 ごくりと息を飲み、絞り出すようにして告げる俺の想い。何度も何度も飲み込んだ想いが言葉になって口から零れ落ちる。
 
「――愛して、ます……」

 俺の告白に静夜さんは一瞬だけキョトンとして、「はぁあああ」っと息を吐き脱力して苦笑した。

「ハハ……、やっと言ってくれた」

 泣き笑いみたいにして笑う静夜さんの笑顔に、俺のはっきりしない態度も静夜さんを不安にさせていたんだと分かった。
 本当に俺は自分のことばっかりだったんだな。悲劇のヒロインぶってなにも見えていなかった。

 静夜さんは繋いだ手をぐいっと引っ張り、包み込むようにして俺を抱きしめた。大きくてあったかくて、いつも傍にあった想い。こんなにも熱い……っ。
 それを素直に受け入れたら、今まで恐れたりこだわっていたことが全部溶けてなくなっていくようだった。俺はこんなにも愛されて、護られていた――。

 静夜さんの方も――と言いたいところだけど、そう簡単な話ではないことを知っている。根付くようにして幼いころから育ってきた不安はそんなにすぐになくなったりはしないのだ。俺は何年もかけて静夜さんから愛情を貰った。だからこの告白ひとつで不安から解放されたわけじゃない。
 俺も静夜さんの『恐れ』や『不安』を包み込んで『幸せ』に変えたい。
 それにはまず言葉を贈ろう。そして約束するのだ。

「静夜さん、愛してます。――もしも俺が先に逝くことになったら、いっぱいいっぱい泣いて下さい。泣いて泣いて、泣き疲れたらごはんを食べてゆっくりと眠って、そしてその先の人生を楽しんで生きて下さい」

「それ……は――っ」

 静夜さんの顔が驚き歪んだ。
 これは静夜さんが怖がっていることを黙って受け入れろと言っているのと同じことだ。それでも俺はにこりと笑って言葉を続けた。
 破壊と再生はふたつでひとつ。多少乱暴に見えたって必要なことなのだ。

「――俺は最初、生まれるときに神さまがくれたギフトを握って生まれてくると思ってました。そしてそれは俺の場合は『Ω性』だって。だけど、多分そうじゃないんです。Ω性これはただの俺の一部で、結んだ手にはなにも握られてはいないんじゃないかって思うんです。だって本当に欲しいものが見つかったとき、なにかを握っていたらしっかりと掴めませんから。それに欲しい物は自分で見つけなきゃ、おもしろくないでしょう?」

 「大事なものならなおのこと」と続く俺の話に、少しは納得してくれているのか静夜さんも「確かにな」と言ってくれた。
 でもまだ弱い。だから更にあなたへの愛を言葉で紡ぐ。荒唐無稽な俺の愛。

「俺は死んでも静夜さんを離す気はありませんよ?」

「――へ?」

 素っ頓狂な声を上げたあなたに俺は内心ほくそ笑む。

「だってそうでしょう? 俺は何度も静夜さんへの想いを捨てなきゃって思ってきたわけですが、結局できませんでした。なのに想いが通じ合って、折角掴んだ静夜さんの手を離すことなんてできるわけがありません。たとえこの身がどうなろうと――なにに姿を変えたとしても、絶対に離しません。もしかしたらこっちの方が怖いかもしれませんね? だって逃げたくても逃しませんから、ふふふ」

 毎日まいにち、毎時間まいじかん、温もりを与え愛を贈ろう。この約束が果たされると信じられるように――。

「――どうなっても……。それでも俺の傍にいてくれる……のか? 逃さないって……俺だって……」

「はい。俺は静夜さんのこと愛してますから、傍にいるのも逃がさないのも当たり前・・・・です」

 少し強気にそんなことを言えば、静夜さんもフッと小さく笑った。
 大丈夫だとその場しのぎのようなことを口にするよりこのくらいの方が俺たちらしくていい。

「そう、か……」

 静夜さんはしみじみとそう言うと、目をつぶり大きく息を吐いた。

「暒、そういうことなら俺も約束する。どちらになにが起こったとしても俺も絶対に暒のことを離さない。ずっと一緒だ。『死』だってふたりを分かつことはできない。俺だって執着は誰にも負けない自信がある。αの本気見せてやるよ」

 そう言って不敵に笑う静夜さんを見つめ、俺は目を細める。
 『死』という言葉を自ら使ったことに、静夜さんの決意のようなものがうかがえた。

「――ぷふふっ、怖い怖い・・・・。αの本気、今から楽しみ・・・です」


 そうして俺たちは確かな幸せを感じながら声を上げて笑い合った。







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