【完結】 『運命』なんてクソ喰らえ!

ハリネズミ

文字の大きさ
2 / 20

1 ②

しおりを挟む
 ──というわけで抽選会の翌日、一等のチケットを手に旅行にでかけたオレは、現在絶賛ひとり旅を満喫中なわけだ。だけど根っからの小市民である為、想像以上に豪華な旅館にドキドキしながらチェックインを済ませ、部屋の中をじっくり見ることもなく、仲居さんに勧められるまま街へと散策にでかけた。
 オレは今まで遊びを目的とした旅行の経験がない。旅行といえば修学旅行や仕事関係くらいのものだ。どちらもわりときっちり予定が決まっていて、他人との協調性を求められる為、のんびりとは程遠い。今回は一人であることと、特に予定があるわけではないから気楽なものだ。
 だからなのか、それとも旅先での開放感からなのかなんなのか、そう特別でもない街並みであっても目に映るものすべてが新鮮に見えた。心なしか空気も美味しい気がして、深く息を吸い込んでみる。
 うーん、美味しい。こんなに心が軽いのは何年いつぶりだろうか──。

 途中、夕食の時間にはまだ早いことから、時間を調整する為に目についた喫茶店に入ることにした。早めに帰って部屋でのんびりするのもアリだとは思うけれど、こういう突発的な行動も旅の醍醐味なのだと思う。オレの日常にはこういうゆとりのようなものはもうずっとなかったわけだし、たまにはいいだろう。
 ドアを開け、チリンと控えめに鳴るドアベル。店内を軽く見渡した感じ、内装も落ち着いていて好ましい。よくある全国チェーンもいいけれど、こういう雰囲気のあるところの方が今日の気分には合っていた。偶然引いた『当たり』に自然と口角が上がる。
 入店して「いらっしゃいませ」と声がかかった。ギャルソンエプロンを身につけた少し年嵩の店員に案内され、壁際の席に座った。二人用の小さなテーブルではあるものの、オレはそう広いスペースを必要としないし、椅子がソファータイプでゆったりと座れる為狭いとは感じなかった。
 さして迷うことなくオレが注文したのはカフェオレで、最近のお気に入りだ。店が違っていてもそう大きく味は変わらないし、苦くも甘くもないところがいい。ホットかアイスかはその日の気分で決めていて、ちなみに今日はホットにした。
 運ばれてきたカフェオレを飲み、はふぅと小さな息が漏れる。なんというか、素敵な空間で美味しいものを口にする喜びというのだろうか、少し年寄りくさいかもしれないけれど、こういうことに幸せを感じられることは決して悪いことではないと思うのだ。年齢問わず、それは心に余裕があるということだと思うからだ。ちなみにオレは現在二十六歳で、おじさんというほどではないけれど若者とも言い難い、微妙な年頃だ。

 そんな幸せな時間を満喫中、予想もしていなかったノイズ・・・に、オレの身体は一瞬で強張った。
 ノイズ女の声が特別大きかったわけじゃないし、声の主とはそこそこ離れた席に座っていたから普通は聞こえるはずのないモノだった。そもそも店内には音楽が流れている為、近い席であっても話している内容までは普通は分からないはずなのだ。もちろんオレが聞き耳を立てていたわけでもない。
 それなのにはっきりと聞こえてしまったのは、『運命の人』という言葉を女が使ったからだ。それがオレの頭の中でとある人物の声へと変換されてしまった。忘れたくても忘れられない声に。だから、かもしれない。
 「『運命の人』に出会ったから別れて」という身勝手な別れ話が──。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ
BL
 アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。 ━━━━━━━━━━━ 現役人気アイドル×脱落モブ男 表紙はくま様からお借りしました https://www.pixiv.net/artworks/84182395

処理中です...