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6 裏側 2 ① @耕平
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小波と知らない男が一緒にいるのを見かけ逃げるように帰って、すぐに俺は弟の様子がおかしい事に気がついた。「どうかしたか?」と声をかけても「何でもない」と言われ、それ以上訊く事はしなかった。
自分自身小波が男と一緒にいた事と自覚したばかりの恋心に動揺していたのと、弟ももう二十四歳と大人だ。本当に困った事があったらまずは俺に相談するように言ってあるし、あれ以来ずっとそうしてくれていたからまだ大丈夫という事なのだろうと判断した。
あれ以来――とは、俺たちの親が再婚して暫くの間麗は俺と親父を拒絶していた。最初俺は突然現れた俺たちを受け入れられないだけだと思っていた。当時俺はもう大学生だったし今更親の恋愛や結婚についてどうこう言うつもりもなかった。だが麗はまだ十三歳と子どもだった。だから大好きな母親を俺たちに盗られると思ったのだと考えていた。加えて親父の仕事の都合で急遽遠方に転勤が決まり、友だちとも離れ離れにされたのだから怒って当然だと思っていた。
本当なら親父が麗ともっと話をして気を遣ってやるべきだったんだけど、仕事が忙しくとてもそんな余裕はなかった。バタバタと入籍して引っ越したのもそのせいだった。だからというわけではないけど、俺は必要以上に麗を構いたおした。初めてできた小さい弟が可愛くて仕方がなかったのだ。
何度無視されても睨まれても俺はめげなかった。朝昼晩何かにつけて声をかけ、俺たちは家族になったのだと俺たちは麗の味方なのだと分かって貰えるよう頑張った。なかなかの熱量だったと思う。
そんな事が三ヶ月程続き、このままでは何も変わらないと思い踏み込んで話をしてみる事にした。
学校から帰りベッドで布団を被ってふて寝をきめ込んでいる麗を布団の上からぽんぽんと撫でた。
「麗くん――麗が何かに怒っているのは分かるけど、何に怒っているのか言ってくれないと俺も親父も分からないよ。麗が何を言ったとしても全て俺が――兄ちゃんが受け止めるから、だから話してごらん」
そうして布団の中から麗のくぐもった声が聞こえてきて、恩人に不義理をしてしまった事が嫌だった、と。
母親が再婚した事はびっくりしたけど嬉しかったし、兄弟ができた事も嬉しかった。立派な父親に優しくて頼りになるお兄ちゃん。ただそれを手放しで喜ぶには自分がひどく欠陥人間のように思えて、嫌な態度をとってしまったと泣いた。
「俺たち家族なんだから、立派も欠陥もないさ。俺は麗の兄ちゃんだから、何があっても味方だよ。絶対に嫌いにならない。これから何か困った事があったら兄ちゃんに相談すること。約束だ」
麗は布団から出ると俺が差し出した小指に自分の小指を絡めて
「うん。約束!」
と言って笑った。初めて見た麗の笑顔は本当に可愛くて、この愛しい存在を何を置いても守っていこうと強く思った。
*****
それから十一年、俺たち兄弟は本当の兄弟以上に仲が良かった。
今回麗がなかなか相談してくれないのも、麗の成長なのだと思っていた。俺としては四十になっても五十になっても「兄ちゃん兄ちゃん」と頼りにして欲しいが、そろそろ独り立ちも考えなければならないだろう。麗もそのうち大切な誰かと出会って、その誰かを愛し守らなければならない。俺は兄としてあくまでもサポートする程度にとどめておかなければ――と考えて一週間は待った。
だが麗は何も言わずどんどん落ち込んでいっているように見えて、俺の方が我慢の限界だった。
自分自身小波が男と一緒にいた事と自覚したばかりの恋心に動揺していたのと、弟ももう二十四歳と大人だ。本当に困った事があったらまずは俺に相談するように言ってあるし、あれ以来ずっとそうしてくれていたからまだ大丈夫という事なのだろうと判断した。
あれ以来――とは、俺たちの親が再婚して暫くの間麗は俺と親父を拒絶していた。最初俺は突然現れた俺たちを受け入れられないだけだと思っていた。当時俺はもう大学生だったし今更親の恋愛や結婚についてどうこう言うつもりもなかった。だが麗はまだ十三歳と子どもだった。だから大好きな母親を俺たちに盗られると思ったのだと考えていた。加えて親父の仕事の都合で急遽遠方に転勤が決まり、友だちとも離れ離れにされたのだから怒って当然だと思っていた。
本当なら親父が麗ともっと話をして気を遣ってやるべきだったんだけど、仕事が忙しくとてもそんな余裕はなかった。バタバタと入籍して引っ越したのもそのせいだった。だからというわけではないけど、俺は必要以上に麗を構いたおした。初めてできた小さい弟が可愛くて仕方がなかったのだ。
何度無視されても睨まれても俺はめげなかった。朝昼晩何かにつけて声をかけ、俺たちは家族になったのだと俺たちは麗の味方なのだと分かって貰えるよう頑張った。なかなかの熱量だったと思う。
そんな事が三ヶ月程続き、このままでは何も変わらないと思い踏み込んで話をしてみる事にした。
学校から帰りベッドで布団を被ってふて寝をきめ込んでいる麗を布団の上からぽんぽんと撫でた。
「麗くん――麗が何かに怒っているのは分かるけど、何に怒っているのか言ってくれないと俺も親父も分からないよ。麗が何を言ったとしても全て俺が――兄ちゃんが受け止めるから、だから話してごらん」
そうして布団の中から麗のくぐもった声が聞こえてきて、恩人に不義理をしてしまった事が嫌だった、と。
母親が再婚した事はびっくりしたけど嬉しかったし、兄弟ができた事も嬉しかった。立派な父親に優しくて頼りになるお兄ちゃん。ただそれを手放しで喜ぶには自分がひどく欠陥人間のように思えて、嫌な態度をとってしまったと泣いた。
「俺たち家族なんだから、立派も欠陥もないさ。俺は麗の兄ちゃんだから、何があっても味方だよ。絶対に嫌いにならない。これから何か困った事があったら兄ちゃんに相談すること。約束だ」
麗は布団から出ると俺が差し出した小指に自分の小指を絡めて
「うん。約束!」
と言って笑った。初めて見た麗の笑顔は本当に可愛くて、この愛しい存在を何を置いても守っていこうと強く思った。
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それから十一年、俺たち兄弟は本当の兄弟以上に仲が良かった。
今回麗がなかなか相談してくれないのも、麗の成長なのだと思っていた。俺としては四十になっても五十になっても「兄ちゃん兄ちゃん」と頼りにして欲しいが、そろそろ独り立ちも考えなければならないだろう。麗もそのうち大切な誰かと出会って、その誰かを愛し守らなければならない。俺は兄としてあくまでもサポートする程度にとどめておかなければ――と考えて一週間は待った。
だが麗は何も言わずどんどん落ち込んでいっているように見えて、俺の方が我慢の限界だった。
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