[完結]妹が些細な事で欲情するから困る

深山ナオ

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3-2「ねえ、お兄ちゃん……覚えてる?」

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 一時間後。
 ちょうどマンガを読み終えたタイミングで、自室のドアがノックされた。

「お兄ちゃん、入っていい?」
「いいぞー」

 おれの返事を聞いて、久瑠葉が部屋に入ってくる。

「お願いしてもいいかなっ?」

 久瑠葉が問題集を体の前で抱えながら、首をかしげる。
 長いツインテールが波打つように揺れた。

「いいよ、座って」

 久瑠葉を机に座るように促す。
 机に座った久瑠葉が問題集とノートを開いて準備する。

「まず、ここなんだけど……」
「どれどれ……」

 久瑠葉の後ろから、問題集を覗き込む。
 久瑠葉の髪から漂うほんのり甘い香りが鼻孔をくすぐった。
 一瞬気をとられかけたが、すぐに問題文へと目を通す。
 二次関数の問題だ。

「これはまず、式を整理してだな……」

 一つひとつ丁寧に教えていく。
 久瑠葉も熱心におれ説明を聞き、理解できたところはコクコクと頷き、理解できなかったところは聞き返してくる。
 そんな風にして、時間は過ぎ……。

「これで終わりだな」

 最後の問題を教え終えた。

「ありがと、お兄ちゃんっ」

 久瑠葉が振り向いて、お礼を言った。
 その動作が急だったため、顔が近い。
 おれは慌てて一歩後ろに下がった。
 
「ねえ、お兄ちゃん……覚えてる?」

 不意に久瑠葉がそんな問いかけを口にした。

「何をだ?」
「小学生のころ、お兄ちゃん、こんな風にあたしに勉強教えてくれたよね? いや、結構頻繁に教えてもらってるけど……。えっと、あたしが小学二年生のころ」
「いや、勉強教えた記憶がありすぎて、その内のどれだったかいまいちピンとこないけど……」
「えっと、あたしが初めてお兄ちゃんに勉強教えてもらったとき――あたしがクラスの男子たちにからかわれて、泣きながら帰ってきたときのことなんだけど……」
「ああ、確か頭クルクルくるぱのとき……」

 当時、久瑠葉は成績が悪くて、そう呼ばれてからかわれていたのだ。

「それがどうかしたのか?」
「あのときお兄ちゃんが勉強教えてくれて、それからも一緒に勉強してくれたから……。あたしは勉強嫌いじゃなくなったんだ。おかげで、頭クルクルくるぱって言われなくなったしだから……今更かもしれないけれど、ありがとっ、お兄ちゃんっ!」

 満面の笑みを浮かべる久瑠葉。
 突然そんなことを言われると照れる。

「まあ、先に生まれてきたんだし、勉強くらい教えてやらないとな」

 顔をそらしながら、おれはそう呟いた。
 ちなみに、このエピソードには続きがあって、久瑠葉がくるぱって呼ばれなくなったのは、久瑠葉をからかった男子たちをおれがこっそり呼び出して、きつーいお灸を据えてやったからだ。

「勉強だけじゃないよ」
 久瑠葉がそっと囁く。
「あのとき、お兄ちゃんが男子たちをボコボコにしてあたしを守ってくれたこともだよ」
「おまっ、それ……知ってたのか?」
「うん。だって、男子たち痣だらけで、そのときから男子にからかわれなくなったんだもん。それに、お兄ちゃんも少し怪我してたし……」
「そうか、バレてたのか……」
「古倉さんにはすっごく怖いお兄さんがいるってクラスで噂だったんだから」

 言いながら、久瑠葉は悪戯っぽい微笑を浮かべた。

「それはそれで問題だったんじゃ?」
「ううん、大丈夫だよ。悪い虫が寄って来なくなっただけ」
「そうか」

 余計な事をしたわけではないとわかって、おれはほっと息を吐き出した。
 
「それに……」
 久瑠葉が立ち上がる。
「あたしはわかってるからね。お兄ちゃんはすっごく優しいんだってこと」

 そう言って久瑠葉はおれの頬にキスをして……。
 恥ずかしそうにはにかんで部屋から出ていった。

 おれは、その場に立ったまま呆気にとられていた。

「勉強道具忘れたっ!!!」
 
 久瑠葉が部屋に戻ってきて、机の上からかっさらうように勉強道具を手に取って、今度こそ本当に部屋から出ていった。
 …………。
 あいつは未だに、頭クルクルくるぱなのかもしれない……。
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