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“良かった”の意味
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“良かった”の意味
おれ、コウジは34歳の会社員。
街コンで、同じ高校・同じ水泳部だったレナと再会した。
当時、彼女はマドンナ的な存在だったが、今は少しぽっちゃり体型になっていた。
おれはレナと一緒にウォーキングを始めた。週1回だが、彼女はだんだん健康的な体型になってきて、それをきっかけに水泳も始めるようになった。久しぶりの水着とぽっちゃり体型が気になって、最初はプールを敬遠していたが、ウォーキングで痩せたことがきっかけになったのだろう。
俺たちがウォーキングを始めて、もう1年半ほど経った。
さすがにシューズもくたびれてきたし、ウェアも新調したい。
明日は土曜日で、レナとプールに行く予定だ。プールでは使わないから、新しいシューズは日曜日に買いに行くことにした。
もしかしたら、レナも誘えるかもしれない。でも、用事があるかもしれないし……いや、言ったもん勝ちだな。
プールの日、迎えに行くとレナはすでに外で待っていた。
「おはよう、早いね」
「おはよう。泳ぐの楽しみだし……コウジくんに会えるのも楽しみだったの」
「お、おれが?……そんな、大したことないよ」
「いいの、私がそう思ってるんだから」
水泳を始めて3ヶ月。俺も、レナの水着姿を見られるのが楽しみ……なんて口が裂けても言えないけど。
プールのあと、レナのおにぎりを食べながら話をした。
「ねえ、明日、あそこのスポーツ用品店に行くんだけど、一緒に行かない?……って、急だよね」
「何か買うの?」
「ウォーキング用のシューズがくたびれちゃってさ。あと、ウェアも新しくしようと思って」
「明日か……行こうかな」
「ほんと?良かった」
「“良かった”?」
「いやいや、こっちの話」
そのあとレナはスマホで何かを調べていた。
「コウジくんって、映画とか見る?」
「うん、見るよ」
「これ、一緒に観ない?」
「これ、流行ってるやつだね」
「コウジくんの用事の後でもいいから、一緒に行きたいな」
「いいよ、観よう」
「ありがとう……良かった」
「“良かった”?」
「なんでもないよ」
俺たちの“良かった”は、同じ意味……なのかな。
次の日、レナが待っていた。
「おはよう、可愛いね。その服」
「ありがとう。コウジくんと会うから、買ったんだ」
「ネイルも可愛いね」
「見てくれた?ありがとう」
俺たちはスポーツ用品店に向かった。ボーナスも入ったので、少し奮発。
「コウジくん、これかっこいいよ」
「これにしようかな」
値段を見てちょっとびっくりしたけど、レナが選んでくれたからな。これも“レナ料金”かな。
買い物が終わって、フードコートでお昼を食べながら、買ったものを広げて見ていた。
「これ、確かにかっこいいね。レナちゃんはセンスいいなー」
「ありがとう、嬉しいな」
すると、レナが少しモジモジしながら小さな包みを出してきた。
「あのさ……これ。来月コウジくんの誕生日だから、プレゼント」
中には青いリストバンドが入っていた。
「コウジくんのリストバンド、もうボロボロだったからさ。でも……要らなかったら大丈夫」
「ありがとう。ありがたくもらうよ」
「実は私もお揃いのリストバンド持ってて。赤だけどね。お揃いとか……嫌かな?」
「レナちゃんとお揃いなんて、嬉しいよ」
映画の時間が近づいてきた。映画はラブコメディで、笑えるシーンも多く、すっかり楽しんだ。
映画が終わったあとも、ショッピングモールを回った。ペットショップや雑貨屋……レナはとても楽しそうだった。
「コウジくん、今日うちでご飯食べない?」
「えっ?いいの?映画も付き合ってくれたし……」
俺たちはスーパーで買い物をしていた。
女の子と一緒にカートを押して歩くのなんて初めてだ。
カートを押しているレナを見ていると、幸せ以上の感情が湧いてきた。
「遅くなるし、惣菜でいいよ」
「うん、わかった」
お互い見繕って、お酒も買って、レナ宅へ。
テーブルの上には、スーパーで買った惣菜がきれいに並べられていた。
それだけで雰囲気が違って見える。
「レナちゃん、乾杯」
「カンパーイ」
楽しかったのか、俺たちの酒のペースは早かった。
「コウジくん、私って魅力ないのかな」
「なんで? 可愛いよ」
「可愛いって、いつも言うけど、本当?」
「本当だよ。レナちゃんは、可愛いよ」
「……私のこと、どう思ってるの?」
「いや、それは……」
「ねぇ、どうなの?」
レナは俺に顔を近づけてきた。
「おれはレナちゃんのことが——」
と言いかけたその時、レナがキスをしてきた。
驚いている俺を見て、レナは笑いながら言った。
「続きはシラフのときに聞きたいなー。今はダメー」
酒の勢いもあって、俺もレナにキスを返した。
「その時は、レナちゃんもちゃんと答えてよ」
“ここは極楽浄土、なんでもありかな”なんて浮かれ気分だった。
そのあとは、何も覚えていない。
明日が仕事なんて、とうに忘れていた。
「バイバイ、コウジくん。今度ちゃんと言ってよ」
「バイバイ、レナちゃんもね」
千鳥足で帰る俺の手首には、レナにもらった青いリストバンドがついていた。
それを見て、ニヤニヤが止まらなかった。
「今度ちゃんと言うんだ」
そう約束してしまった。
今日はやたらと、満月が綺麗だった。
俺の気持ち、全部伝えるぞ。
おれ、コウジは34歳の会社員。
街コンで、同じ高校・同じ水泳部だったレナと再会した。
当時、彼女はマドンナ的な存在だったが、今は少しぽっちゃり体型になっていた。
おれはレナと一緒にウォーキングを始めた。週1回だが、彼女はだんだん健康的な体型になってきて、それをきっかけに水泳も始めるようになった。久しぶりの水着とぽっちゃり体型が気になって、最初はプールを敬遠していたが、ウォーキングで痩せたことがきっかけになったのだろう。
俺たちがウォーキングを始めて、もう1年半ほど経った。
さすがにシューズもくたびれてきたし、ウェアも新調したい。
明日は土曜日で、レナとプールに行く予定だ。プールでは使わないから、新しいシューズは日曜日に買いに行くことにした。
もしかしたら、レナも誘えるかもしれない。でも、用事があるかもしれないし……いや、言ったもん勝ちだな。
プールの日、迎えに行くとレナはすでに外で待っていた。
「おはよう、早いね」
「おはよう。泳ぐの楽しみだし……コウジくんに会えるのも楽しみだったの」
「お、おれが?……そんな、大したことないよ」
「いいの、私がそう思ってるんだから」
水泳を始めて3ヶ月。俺も、レナの水着姿を見られるのが楽しみ……なんて口が裂けても言えないけど。
プールのあと、レナのおにぎりを食べながら話をした。
「ねえ、明日、あそこのスポーツ用品店に行くんだけど、一緒に行かない?……って、急だよね」
「何か買うの?」
「ウォーキング用のシューズがくたびれちゃってさ。あと、ウェアも新しくしようと思って」
「明日か……行こうかな」
「ほんと?良かった」
「“良かった”?」
「いやいや、こっちの話」
そのあとレナはスマホで何かを調べていた。
「コウジくんって、映画とか見る?」
「うん、見るよ」
「これ、一緒に観ない?」
「これ、流行ってるやつだね」
「コウジくんの用事の後でもいいから、一緒に行きたいな」
「いいよ、観よう」
「ありがとう……良かった」
「“良かった”?」
「なんでもないよ」
俺たちの“良かった”は、同じ意味……なのかな。
次の日、レナが待っていた。
「おはよう、可愛いね。その服」
「ありがとう。コウジくんと会うから、買ったんだ」
「ネイルも可愛いね」
「見てくれた?ありがとう」
俺たちはスポーツ用品店に向かった。ボーナスも入ったので、少し奮発。
「コウジくん、これかっこいいよ」
「これにしようかな」
値段を見てちょっとびっくりしたけど、レナが選んでくれたからな。これも“レナ料金”かな。
買い物が終わって、フードコートでお昼を食べながら、買ったものを広げて見ていた。
「これ、確かにかっこいいね。レナちゃんはセンスいいなー」
「ありがとう、嬉しいな」
すると、レナが少しモジモジしながら小さな包みを出してきた。
「あのさ……これ。来月コウジくんの誕生日だから、プレゼント」
中には青いリストバンドが入っていた。
「コウジくんのリストバンド、もうボロボロだったからさ。でも……要らなかったら大丈夫」
「ありがとう。ありがたくもらうよ」
「実は私もお揃いのリストバンド持ってて。赤だけどね。お揃いとか……嫌かな?」
「レナちゃんとお揃いなんて、嬉しいよ」
映画の時間が近づいてきた。映画はラブコメディで、笑えるシーンも多く、すっかり楽しんだ。
映画が終わったあとも、ショッピングモールを回った。ペットショップや雑貨屋……レナはとても楽しそうだった。
「コウジくん、今日うちでご飯食べない?」
「えっ?いいの?映画も付き合ってくれたし……」
俺たちはスーパーで買い物をしていた。
女の子と一緒にカートを押して歩くのなんて初めてだ。
カートを押しているレナを見ていると、幸せ以上の感情が湧いてきた。
「遅くなるし、惣菜でいいよ」
「うん、わかった」
お互い見繕って、お酒も買って、レナ宅へ。
テーブルの上には、スーパーで買った惣菜がきれいに並べられていた。
それだけで雰囲気が違って見える。
「レナちゃん、乾杯」
「カンパーイ」
楽しかったのか、俺たちの酒のペースは早かった。
「コウジくん、私って魅力ないのかな」
「なんで? 可愛いよ」
「可愛いって、いつも言うけど、本当?」
「本当だよ。レナちゃんは、可愛いよ」
「……私のこと、どう思ってるの?」
「いや、それは……」
「ねぇ、どうなの?」
レナは俺に顔を近づけてきた。
「おれはレナちゃんのことが——」
と言いかけたその時、レナがキスをしてきた。
驚いている俺を見て、レナは笑いながら言った。
「続きはシラフのときに聞きたいなー。今はダメー」
酒の勢いもあって、俺もレナにキスを返した。
「その時は、レナちゃんもちゃんと答えてよ」
“ここは極楽浄土、なんでもありかな”なんて浮かれ気分だった。
そのあとは、何も覚えていない。
明日が仕事なんて、とうに忘れていた。
「バイバイ、コウジくん。今度ちゃんと言ってよ」
「バイバイ、レナちゃんもね」
千鳥足で帰る俺の手首には、レナにもらった青いリストバンドがついていた。
それを見て、ニヤニヤが止まらなかった。
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