【完結】マドンナからの愛と恋

山田森湖

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サイダーで乾杯

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サイダーで乾杯

おれ、コウジ。39歳の会社員。

街で、同じ高校・同じ水泳部だったレナと再会した。
当時、彼女はマドンナ的な存在だった。でも今は、少しぽっちゃりしていて──それでも、可愛さは変わっていなかった。

それがきっかけで、レナと週に一度ウォーキングを始めた。やがて一緒にプールにも通うようになり、自然と距離が縮まっていった。
そして俺たちは結婚し、レナは女の子──ユキを出産した。

娘が生まれてからというもの、レナはユキのことが気になって、なかなか子作りに踏み出せなかった。でも、母親のアドバイスもあって「焦らずゆっくりいこう」と、二人で決めた。

やっぱり、平日の夜は難しい。俺たちは「土日祝だけにしよう」と決めた。その際は、それぞれの両親に協力を頼んだ。
だけど“子作り”という名目のせいで、親たちはニヤニヤしながらユキを迎えに来る。

「コウジ、今日はムフフなのね。しっかり励んでおきなさいよ」
なんて、うちの親は優しい顔でからかってくる。

「コウジくん、好きなんだから。はい、これ惚れ薬。燃えるわよ~」
なんて、レナのお母さんは完全にノリノリだ。

「もう、お母さんったら、なに言ってるのよ!」
「いいじゃない。純情な気持ちよ。隠すよりよっぽどいいわよ、ねぇコウジくん」

俺は笑うしかなかった。

ユキを預けると、俺たちは身体を重ねた。
お互いに“パパ”“ママ”として我慢していた想いが、一気にあふれ出した気がした。子作りという名のもとに、俺たちは「愛し合う」ことを再確認していた。

そのときだけ、俺たちは「コウジ」と「レナ」に戻るのだった。

そんな妊活が半年ほど続いた。年齢のこともあるし、「そろそろどうかな」なんて思っていた頃のこと──。

ある日、残業で遅くなった。たぶんユキは寝てるし、レナももう寝ているだろう。
最近は残業続きで、身体も心も疲れていた。でも、明日は金曜日。ウォーキングで少しはストレスを発散できる。

「ただいま」
独り言のように玄関でつぶやくと──

「おかえり」

リビングの電気がついていた。ソファにはレナが座っていた。

「おかえり。お風呂、先に入っちゃった」
「あれ、ユキは?」
「大丈夫、寝てるよ」

なんとなく、レナの顔が少し深刻に見えた。暗かったせいかもしれない。そんなことを考えながら、俺は風呂に入った。

風呂から上がると、俺の好物がテーブルにずらっと並んでいた。

「あれ、今日……誕生日だっけ?」
「いいの、いいの。ほら、乾杯しよ」

グラスに注がれた飲み物は──サイダーだった。

「……ママ、もしかして」
「うん。そう。これ」

レナは、母子手帳を差し出した。

「ママ、おめでとう」
「パパ、ありがとう」

俺たちは抱き合って、喜びを分かち合った。

「頑張ったかいがあったね」
「うん。パパが何度も頑張ってくれたおかげだよ。今日はね、大好きなコウジを待ってたの。ユキがいても、あなたが大好きだから」

思わず、レナにキスをした。

「ありがとう、レナ。俺も、大好きだよ」

すると、2階からユキの声が聞こえた。

「じゃあ、行ってくるね、パパ。ありがとう。パパはお酒飲んでもいいからね」

我が家では妊活の祝いに“サイダーで乾杯”と決まっている。
レナが用意してくれた大好物の料理を、ゆっくり噛みしめた。いつもより、一段と美味しく感じた。

──そういえば俺、疲れてたんだっけ。なんて、忘れるくらい。

レナは「何回も頑張ってくれて」って言ってくれたけど、何回も“受け取ってくれた”から、こうして命が宿ったんだよな。
ふたりの結晶──それが、今日ここにある。

俺は、リビングの薄暗い明かりの中で、サイダーの泡を見つめながら思った。

「レナ、ありがとう。」
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