【完結】指先が触れる距離

山田森湖

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第37話 帰国

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第37話 帰国

六か月ぶりの日本の空港は、懐かしい匂いがした。

長い飛行時間を経て、ようやく羽田空港に降り立った時、私の心は期待で高鳴っていた。美咲が迎えに来てくれることになっている。

到着ロビーに出ると、人々の中に美咲の姿を探した。

「佐藤さん!」

声の方向を見ると、美咲が手を振っていた。六か月ぶりに見る彼女は、以前よりも少し大人っぽく見えた。

「美咲さん、ただいま」

「おかえりなさい」

私たちは自然に抱き合った。空港という公共の場所だったが、そんなことは気にならなかった。

「本当に帰ってきてくれたんですね」

美咲の目に涙が浮かんでいた。

「約束しましたから」

「ロンドンのお仕事のオファー、本当に断ってよかったんですか?」

「もちろんです。美咲さんがいない人生なんて考えられません」

---

電車で家に向かう途中、私たちは六か月間の出来事について話した。

「美咲さん、少し痩せましたね」

「そうでしょうか。忙しかったので」

「無理していませんでしたか?」

「大丈夫です。でも、佐藤さんがいない生活は、思っていた以上に寂しかったです」

美咲の正直な言葉に、私は申し訳ない気持ちになった。

「すみません。もう離れ離れになることはありません」

「本当ですか?」

「約束します」

---

翌日から、私は日本のオフィスに復帰した。

「佐藤さん、おかえりなさい!」

同僚たちが温かく迎えてくれた。

「ただいまです」

美咲の隣の席に座ると、まるで時間が巻き戻ったような感覚になった。でも、六か月前とは明らかに違っていた。私たちは婚約者として、より深い絆で結ばれていた。

「おはようございます」

「おはようございます。また一緒に働けて嬉しいです」

「僕も嬉しいです」

朝のコーヒーを淹れながら、私はこの日常の大切さを改めて実感していた。

「ロンドンはいかがでしたか?」

課長が私の席にやってきた。

「とても良い経験をさせていただきました」

「成果も素晴らしかったと聞いています。本社からも高い評価を受けていますよ」

「ありがとうございます」

「それで、今度新しいプロジェクトのリーダーをお願いしたいのですが」

新しい挑戦の話だった。国内での大規模なプロジェクトで、やりがいがありそうだった。

「ぜひお任せください」

---

昼休み、美咲と久しぶりに二人でランチを取った。

「新しいプロジェクトのお話、どうでしたか?」

「とても面白そうです。でも今度は、美咲さんも一緒に参加してもらおうと思っています」

「私も?」

「はい。美咲さんの企画力が必要です」

美咲の顔が明るくなった。

「ありがとうございます。一緒に働けるなんて、夢みたいです」

「僕も同じ気持ちです」

---

夕方、私たちは一緒にオフィスを出た。

「佐藤さん、今日は本当に帰ってきたんだなって実感します」

「僕も。この六か月間、毎日この瞬間を夢見ていました」

駅に向かう途中、美咲が立ち止まった。

「佐藤さん、お話があります」

「はい」

「実は、佐藤さんがロンドンにいる間に、色々と準備していたことがあるんです」

「準備?」

美咲は少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「結婚式の準備です」

「え?」

「会場の下見をしたり、ドレスを見に行ったり...一人で進めていました」

その話を聞いて、私は深く感動した。

「美咲さん...」

「佐藤さんが帰ってきたら、すぐに結婚式ができるようにと思って」

「ありがとうございます。でも、一人で大変だったでしょう」

「大丈夫です。楽しかったです。佐藤さんとの未来を想像しながら準備するのは」

---

その夜、私たちは結婚式の詳細について話し合った。

「いつ頃がいいでしょうか?」

「来月の桜の季節はどうでしょう?」

「素晴らしいアイデアです」

私たちは具体的な日程を決めた。一か月後の土曜日。桜が満開の季節に。

「会場はどちらを考えていましたか?」

「小さなチャペルを見つけたんです。ガーデンがあって、桜の木もあるんです」

美咲が用意してくれた写真を見ると、とても美しい場所だった。

「完璧ですね」

「本当ですか?」

「はい。美咲さんの選んだ場所なら、どこでも完璧です」

---

ベッドに横になりながら、私は今日一日のことを振り返った。

六か月ぶりの日本、美咲との再会、新しいプロジェクト、そして一か月後の結婚式。

すべてが夢のようだった。

指先が触れる距離から始まった私たちの関係は、様々な試練を経て、ついに結婚という形に結実しようとしていた。

ロンドンでの経験は貴重だったが、やはり愛する人のそばにいることに勝る喜びはない。

美咲からもらったお守りを見つめながら、私は明日への期待で胸を膨らませた。

一か月後、私たちは夫婦になる。

新しい人生の始まりが、もうすぐそこまで来ていた。
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