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しおりを挟む「月光が最も満ちる場所……」
フブカ王女が、日記の言葉を繰り返す。
「屋根裏部屋か、あるいは、天窓のある部屋かもしれませんわね」
「よし。ならば、この屋敷の最上階を目指しましょう。何かあるはずです」
レオノーラ様の言葉に、私たちは頷き合い、再び書斎を後にした。
屋敷の三階へと続く階段は、二階へのものよりもさらに古びており、私たちが一歩踏み出すたびに、ギシギシと悲鳴のような音を立てた。
そして、三階に足を踏み入れた瞬間、私たちはそれまでとは質の違う、肌を刺すような冷気を感じた。
ヒュッ、と何かが私の頬を掠める。
「きゃっ!」
「リルティア様!?」
見ると、壁に飾られていた短剣が、ひとりでに鞘から抜け落ち、私のすぐ横の壁に突き刺さっていた。
「ポルターガイスト現象……ですの?」
フブカ王女が、信じられないといった様子で呟く。
「いいえ。これは、この屋敷に溜まった強い怨念が、魔力となって物理的な干渉を起こしているのです。気を付けてください。ここから先は、ただの罠とは訳が違います」
レオノーラ様は、剣を抜き放ち、私たちを背中に庇うようにして、ゆっくりと廊下を進み始めた。
彼女の言う通りだった。
廊下を進むにつれて、次々と怪奇現象が私たちを襲う。
突然、鎧の置物が動き出して剣を振り下ろしてきたり、床の絨毯が生き物のようにうねり、私たちの足を絡め取ろうとしたり。
そのたびに、フブカ王女が体術で鎧を蹴り飛ばし、レオノーラ様が剣で絨毯を切り裂いて、道を切り開いていく。
私は、二人の後ろで、ただ震えていることしかできなかった。
(怖い……。もう、嫌……)
心が折れそうになった、その時。
私の脳裏に、血の海に倒れたカフカ殿下の姿が、鮮明に蘇った。
(……しっかりしなさい、リルティア!)
私は、自分の両頬を、力いっぱい平手で叩いた。
パン!と乾いた音が、廊下に響く。
「リルティア様!?」
驚く二人に、私は強く首を振った。
「大丈夫ですわ! わたくし、もう怖くありません!」
恐怖心が消えたわけではない。
けれど、それ以上に、カフカ殿下を救いたい、という想いが、私の中で燃え上がっていた。
「わたくしも、戦います!」
そう宣言したものの、剣も体術も使えない私にできることは少ない。
それでも、私は必死に周囲を見回し、次に何が起こるかを予測し、二人に危険を知らせた。
「レオノーラ様、天井ですわ!」
「フブカ様、右の壁から何かが!」
そんな私たちの連携プレーが功を奏したのか、私たちはなんとか最上階の廊下の突き当りまで、たどり着くことができた。
そこには、一つだけ、他とは明らかに違う、黒檀で作られたかのような重厚な扉が、静かに佇んでいた。
扉全体から、不思議なオーラが放たれている。
「……ここですわね」
フブカ王女が呟く。
「ええ、間違いありません」
レオノーラ様が頷く。
私たちが、覚悟を決めてその扉に近づいた、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!
扉の前の床が、地響きと共に盛り上がり始めた。
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